第16話交渉です
警戒を解かず沈黙を守っていると、先に美人さんが口を開いた。
「そう警戒するな、小娘ども。うちは客を取って食やしないからねぇ。」
「そう言われて警戒を解くわけないじゃないですかぁっ!」
「そっちのはもう警戒を解いてるみたいだけどねぇ…面白い子だねぇ…クククッ」
いろはがチワワみたいに吠えてるのを一切気にせず店内の様子を観察する。
「ちょっと、ゆらさん!?こんなところで呑気に店を見てる場合ですか!?」
「いろは…だってこのお店に来た時点で店主さんは私たちをどうにでもできたと思いますよ?それをしない時点で私たちをお客さんと見てくださっている証拠です。警戒し続けるのは失礼ですよ…?」
この雰囲気を警戒してしまうのはわかるけど、あからさま過ぎると弄ばれるだけだと…いろはは特に……
「ゆらさんだってさっきまで警戒してたのにぃ!!」
ぽかぽか叩いてくるのはかわいいけど、いろはは読み合いが苦手な子なんだねぇ
「そうですねぇ。それは、こちらの店主さんが私達の見定めをしていたからです。気づいてますよという牽制がしたかっただけなので、店主さんの警戒しないでほしいという言葉で警戒姿勢を解いたということですよ。」
キョトンとした顔で固まるいろは。いろはは色んな意味で純粋な子なんだねぇ。
それを見て店主さんはひとしきり笑った後に、煙草をぷかぁとふかしながら
「クックック……本当に面白い娘達だねぇ。うちは霞。この店、蜃気楼の店主だよ。」
…これは認めて貰えたってことかな?
「私はゆら、こっちの子は私の仲間の鏡音いろはです。末永くよろしくお願いいたします。」
そう言って最大限の笑顔でお辞儀をする。
「食えない子だねぇ。ゆらといろはか…覚えておくよ。まああんたらみたいな面白い子ら忘れる方が大変だからねぇ。ククッ……」
「うふふ……光栄です。」
いろはがまだ目をきょときょとしてる…可愛いなぁ。
「それで、あんた達はなんの用でここに来たんだい?まさか、たまたま見つけたから来た…なんて言うんじゃないだろうねぇ?」
あはは、半分そうなんだけど……言う訳にも行かないし……
「こういう鎧とかのカスタムされてるものって足がつかないように売れたりしますかね?あと私達に合う装備も欲しいんですけど……」
「うちをどこだと思ってんだい。そんな事お茶の子さいさいだよ。で、いくらだい?」
お金かぁ……初期金の1万とPKで得た6万ちょいで7万ってところだけど、多分この金額じゃ取引は難しいだろうな。
やっぱりこれしかないかな……よしっ、はったり上等!
「5万ティア……でどうでしょうか?」
「はぁ……?お前さんは装備の相場も知らないのかい?出直しな。」
そのお金だけじゃ足りないのは百も承知。交渉のテーブルにすらつけない額ですもんねぇ。
「もちろん足りないことは承知ですよ。残りのお代は私の体でどうでしょう……?」
「へぇ……あんたの体で…かい………どうしようかねぇ………」
霞さんが考え込むように俯いて黙っていると
「だ、だだだ駄目ですよっ!そ、そういうのはよくないですっっっ!!!え、えっちなのはだ、駄目ですっっっ!!」
…………?
「いろははむっつりなんだねぇ。ゆらが言ってるのは体…何かあったら協力することで返すってことさねぇ。」
あぁ、そういうことか…お年頃ってやつなのかな?
よしよし。恥ずかしさに震えるいろはをとりあえず撫でておく。
「うぁぁぁぁっっ……す、すみませんっ…………」
「勘違いさせちゃいましたか。ごめんなさいね。」
「それで、ゆらにそれだけの価値があるって言いたいのかい?そうだねぇそこにある装備を売っぱらってもせいぜい5万ティア……あんたらに合う装備を見繕って、武器までとなると最低でも50万はかかる。改めて聞こうじゃないか、あんたにそれだけの価値はあるのかい?」
「もちろんです。私は平穏の巫女で異端審問官、いろはは鑑定士の癒術師です。どうでしょうか、それだけの価値…ありますよね?」
内心の動揺を隠しつつ、冷静に交渉材料を並べていく。
「ほぉ、巫女の異端審問官に、鑑定士か……悪くない。だけどねぇ、巫女は巫女でも名を聞いた事もない平穏の神……交渉材料として不足じゃないかねぇ?うちは残念ながら鑑定スキルを持ってないんだ。交渉材料として不足じゃないかね?」
イラァ……はっ、交渉は冷静に…………
「私は愛と美の女神の巫女アインさんに扱かれ、知の女神の巫女レーネさんへ僅かながらも貸しがあります。何より、平穏の女神ヘスティアの巫女。我が神を軽んじるなど万死に値します。」
「ゆらさん抑えてくださいっっっっ!!!暴力はダメですよっ!!!!!!」
あっ、思わず本音が出てしまった。いろはが私の腕を止めてなかったらナイフを投げてたところだった。危ない危ない。(つ∀<。)テヘッ♪
「……いいだろう。今回は初回だからおまけしてやろうじゃないか。次からは仕事の実績でうちと取引するんだねぇ。しっかし、なんで巫女っていうのはこうもネジが飛んでるのか………はぁ………」
聞こえませーん。私はただヘスティア様の信仰者なだけですしね。
「ちょっと待っときな。」
そう言って、霞さんは店の奥に入っていくと大きな箱を2つ持ってきた。
「これが、お求めの品さねぇ。開ければあんた達の求めるものになる魔法の箱。しめて300万ティア。お代分キリキリ働いて貰うよ?」
あー霞さん本当に食えないわぁ………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゆらの生態9
TRPGは結構好き。友達に誘われてよくやる。ダイスの女神に愛されているタイプ。GMになった人はゆらさんの奇想天外な行動でもれなく胃痛になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます