第131話 商会本部、大襲撃!

 どうやら俺達よりも先にゲールトが手を打っていたらしい。

 リミュネール商会本部――つまりはここに勇者達が迫っているというのだ。


「それでレトリー、お前はそれを伝えるためにそのまま走って来た訳だ」

「はいっ! それはもう大急ぎでえっ!」

「……なるほど」


 まったくもって最悪の事態だ。

 しかもそんな中でとうとうディマーユさんが頭を抱えちまった。


「……ラング、感じるか?」

「ええもう。殺意がこれほどかってくらいにビンビン来てますねぇ」

「ですね、完全に釣られたようです」

「え? えっ?」


 レトリーはまだ状況を理解していないらしい。

 まぁ仕方ないよな、こいつは戦闘員じゃないからこういう事には疎いだろうし。


 自分が尾けられていた、なんて思うワケもないよな……!


 おかげでもうすでに外は勇者で溢れかえっているようだ。

 悪気がないのはわかるんだが、これはちと引き連れすぎだろう。


「ふむ、外はもう完全に包囲されていると思っていいだろうな。吾人の鎧、使う?」

「要らぬ」

「最強の鎧なのにぃん!」

「オホン……いいか皆、入口は正面のみ。ゆえに奴らはそこからしか入れん」

「だったら堂々と迎え撃ってやりますよ」

「まぁその前にだな――」


 そのせいで即座に事が動いた。

 ディマーユさんが悠々と話している間に勇者達が雪崩れ込んで来たのだ。 


「「「うおおおおお!!!!!」」」

「「「一攫千金の首だあああ!!!!!」」」

「「「これで遊んで暮らせるぜえええ!!!!!」」」


 入口の通路はそれなりに広い。

 そのせいで入り込んで来た人数も多く、もはや地響きすらする状態だ。

 そんな人数が一気に俺達へと向けて走り込んできやがった!


 ――だがその瞬間、全員が落ちた天井に押し潰された訳だが。


「うおお!? 天井が落ちてきた!?」

「対侵入者用のトラップだ。ここだけではなく他の場所にも存在する。これで少しは時間稼ぎができるだろう」

「さ、さすがですね……」

「その間に我は全員の転送確認とポータルの破壊を行う! お前達は奴らの侵攻をここで阻止してくれ!」

「「「了解!」」」

「レトリーも来いっ! 急げっ!」

「あ~れ~~~!!!」


 そうして勇者どもが塞き止められている間にディマーユさんがレトリーを引っ張って奥へ。

 しかしその間にもおかわりの勇者達がまたやってきた。

 こいつらッ、あいかわらず数だけはいやがる!


「ここは通さない! はあああッ!!!」


 でもそんな有象無象なんてチェルトの敵じゃない。

 迫る勇者どもをたった一薙ぎでまとめて切り裂いてしまった。


 ただ、とても見ていて気持ちいい光景じゃねぇがな。


「今は四の五の言っておれぬぞラングよ!」

「わかってる! だが必死過ぎるぜ、こいつら!」

「おそらくは相当な懸賞額でも提示されたのであろう、現金な奴らよ!」

「あいかわらず人間はアコギだな。目先の金で冷静ささえ失うとは」

「お前はお前で冷静過ぎるのよさクソンタネルヴ!」

「つかダンタネルヴは一緒に逃げなくても良かったのかよ!?」

「それは是非とも人間の愚かさを改めて目の当たりにしたいし?」

「この非常識の中でも好奇心が勝つのかよ……!」


 激しい戦闘が繰り広げられる中で、横ではダンタネルヴが面白そうに眺めながら髭をいじっている。

 まったく、神って奴はどこまでいっても変な奴しかいねぇな!


『『『一緒にするな!(れすぅ~~~)』』』


 こんな中でツッコミ入れられる時点で俺にとっちゃ同類だね。

 ま、ニルナナカがいるだけで充分に対応はできるんだろうが。


「そうもいかぬぞ」

「え?」

「ニルナナカは建造物があると真価が発揮できぬからな」

「なんだとぉ!? じゃあ戦闘員は実質、俺とチェルト、あとミラくらいか!」

「あ"ぁ"!? キスティを忘れてんじゃないのよさぁ!」

「あ、キスティも戦力に数えていいのか? 神だし転生したばかりだからちょっと遠慮しただけで、他意があった訳じゃないんだが……」


 たしかに肉体はキスティであの強力な魔法が使えるのかもしれん。

 だがすぐに戦力に加えるのはちょっと失礼かなと思ったりしなくもない。


「フ、フン! 別に少しくらい頼ってくれてもいいんだからねっ!」

「お、おう……(コイツ面倒くせぇ!)」


 とはいえ心強い。

 これで強力な魔術士が二人だからな!


「ハッ、この程度のクソザコどもがいくら数を束ねようと関係無いのよさ。キスティ一人でも充分――否、もったいないくらいに」


 そう思っていた矢先、さっそくとキスティが前へと出る。

 カツッカツッとわざとらしいくらいにヒールを床へ打ち当てながらに。


「では見ておるがよい、この生まれ変わったキスティ様の圧倒的魔法力を!」


 杖を自慢げにくるりと回し、入口通路へと先端を向ける。

 そんな杖には蒼白く細かい泡沫が漂っていて。


「そこぉ動くなチェルトッ!」

「――ッ!?」

「単細胞どもが、貴様らに人間並みの知能などもったいないわ……!」


 キスティの情緒が微かに振れる。

 すると無数の泡沫が突如として動きを見せた。


 いずれもが細かく鋭く軌道を描いていたのだ。

 それもまるで光のごとく、杖の周りを「ピッ、ピッ」と跳ねるかのようにして。


「然らば原初に還るがいい……! 〝劣退せしは蛮愚の素雫ウルター・ベオ〟」


 そんな泡沫達が刹那、閃光筋を刻む。


 あまりにも一瞬の出来事だった。

 たったその一瞬で、泡沫達が勇者どもをズドズドと貫いたのだ。

 それもチェルトの傍スレスレを突き抜けさせて。


「「「ぎゃあああああ!!!??」」」

「「「ひいいいいい!!!??」」」


 直後に上がる無数の悲鳴。

 あっという間に場が阿鼻叫喚に包まれてしまった。


 だけど何か様子がおかしい。

 悲鳴の割に、勇者達はまだ生きて動いていて。


 でもその光景はといえばこれ以上になく異様だった。


「腕が、腕がああああ!!!!!」

「あたしの下半身があああ!!!!!」

「おご、おごごご!?!?!?」


 誰しもがもはやマトモな姿をしていなかったのだ。

 どいつもこいつも体の一部が半透明なスライムみたいになっちまっている。

 しかもまともにも動かせず、ぐにゃりぐにゃりと歪ませていて。


 ある者は変化に慄いて悶えて倒れ。

 ある者は立つ事さえままならず。

 ある者は自分が変わった事さえわからないまま溶けていく。


「獣に堕ちた愚か者は単細胞に戻るのがふさわしいわ、あっははは!」

「単、細胞……!?」

「そう、今のは極限退化の魔法よ。奴らはじきに汚いミジンコに還るのよさ」


 これはただ死ぬよりずっと地獄だ。

 これが神の所業だというにはあまりにも残酷すぎるだろう!?


「回源を使うお前も似たようなものであろう?」

「ちっ、言ってくれるぜ。返す言葉もねぇ」

 

 たしかに、これはとても回源に似ている。

 生物的原点っつうのか? そういうのにまで戻るほどじゃないが。


 もうこれも割り切るしかねぇか。


「あーでも今のちょっと魔力的に厳しかったかも?」

「は!?」

「転生したてで魔力がさぁ、こうちょっと消耗著しかったぁ!」

「つ、つかえねぇーーーっ!」


 ただどうやらキスティは今ので打ち止めらしい。

 途端に煌びやかな服までが消え、みすぼらしい姿に戻って膝を突いてしまった。


「キ、キスティの分はアタシがカバーするから……」

「お、おう、よろしく頼むぜ」

「みんな、待たせたな! 脱出開始するぞ!」


 そんな時、ようやくディマーユさんが戻って来た。

 ただしなぜかレトリー同伴の上で。


「なんでレトリーまで戻ってきてんの!?」

「てへっ、ワタクシうっかり転送失敗しちゃった☆」

「おいいいいいい!!?」


 つくづく失敗しまくってるじゃねぇか鉄面皮メガネ!?

 もしかしてお前二重スパイなんじゃねぇの!?


 まぁ二重スパイなら転送した方が得策だからその可能性はないんだろうけど!


「こうなった以上は仕方あるまい、ともかく脱出だ! ラング、ひとまず地上の隙がある場所へ自在屈掘を!」

「どこに行く気で!?」

「郊外に緊急脱出用の転送陣がある! そこまでいけば我らの勝ちだ!」

「よし! みんな、俺についてこいよっ!」


 ともかくとして指示通りに穴を掘り、地上への道を造る。

 そうして皆で駆け昇り、ようやく地上へと脱出を果たした。


 この状況で集中するのは厳しい。

 おまけに転送陣の場所もわからんから直通は無理だ。

 今はとにかく、走って走って目的地まで辿り着かにゃならねぇ。


 しかし背後を見ればもう勇者どもがやってきてやがる!

 追い付かれるのは時間の問題か……!


「――ッ!?」


 だがそう思いつつ振り向いた時だった。

 一本の矢が屈曲軌道を描き、俺達へと向けて降って来る。

 それもまったく気付いていないであろうレトリーへと向けてまっすぐに。


「レ、レトリ――」


 でももう誰も間に合いそうになかった。

 その矢の速さゆえに気付く事だけで精いっぱいだったから。


 そして矢はレトリーへと……刺さる前に弾け、吹き飛んでしまったのだった。


「「「えっ?」」」


 何が、起こった?

 どういう事だ……?

 どうしてこうなった……!?


 そもそもが俺達を背にして突如現れたは、一体……!?


「間一髪間に合ったか。無事でよかったぞレトリー」

「あ……あなたは……!?」

「しかしまさかお前が商会に帰属していたとはな。さすがのこの私でもそこまでは見抜けなかったよ」


 この声は、知っている。

 この威圧感は、知っている。


 だけど、どうして俺達を守るようにして立っているかは、さっぱりわからない!


「「「ワ、ワイスレットの、ギ、ギルドマスター!?」」」


 どういう事だこいつぁ……!

 俺達の敵だったこいつがどうして!?


 しかもそれがなんだってこんな所にいやがるってんだよぉ……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る