第132話 反抗の意志、今こそ立つ
俺達の前に突如として現れたワイスレットのギルドマスター。
しかも奴は敵であるにもかかわらずレトリーを守った。
それにこの国はワイスレットとは何の所縁もないはず。
にもかかわらずここにいて、俺達を背にしているなんて。
「今、世界中からギルドより勇者が送られてきている。緊急起動ポータルにより最重要壊滅指令が発令されたためだ」
そんな男が、立ち止まっていた俺達に淡々と訳を語る。
勇者どもが攻めてくる中、堂々と奴らに面と向かいながら剣を僅かに傾けて。
「狙いはお前達だ、リミュネール商会。そしてダンジョンブレイク工業」
「そこは問題じゃねぇ! 肝心なのは、なぜアンタが俺達を背にしてるってとこだ!」
するとこんな返事を前に、奴が顔をこちらへ向けてフフッと笑う。
「簡単な話だ。我々はこれより、ゲールトに対して一斉蜂起を開始する」
「「「なっ!?」」」
「もちろんワイスレットギルドだけではない。多くのギルドが私に賛同し、秘密裏にこの戦場へと味方の勇者を送ってきている事だろう。奴らの召集指令に便乗してな」
一斉蜂起、だと……!?
まさかこいつら、ギルド本部に逆らうつもりなのか!?
なんでそんな事が起きて――
ううっ!? あ、あれは!?
俺達を追いかけていたはずの勇者どもがいつの間にか交戦している。
しかも相手も勇者で、その数も相応に多い!?
「やぁやぁ我こそはA級勇者ギトス様一の子分、ザウコ様よぉ! 悪行勇者どもぉ! このあっしがまとめて片付けてやるぜぇ~~~!」
中には見た顔もちらほらいやがる。
あのギトスの取り巻きだったザウコって奴もだ。ボコボコにされ返されてるけど。
一体全体どういう事だ!?
いくら反旗を翻したとはいえ、勇者もが邪魔者だった俺達やリミュネール商会をかばう理由はないはずなのに。
「だがその数は奴らに比べてやはり圧倒的に足りない。だからこそだダンジョンブレイク工業よ、この圧倒的不利の状況を覆す役目をお前達に依頼したい」
「なに……!?」
「我ら反乱組もゲールトの所在はわからん。ゆえに対抗はできても攻める事ができん。しかし奴らがこうも慌てているという事はつまり、お前達にゲールトを打倒する可能性が生まれたという事なのだろう?」
「「「……」」」
「答えずともよいさ。我々はその僅かな可能性を信じたい、そう一方的に願っただけなのだから」
本気なのか、こいつは?
俺達を騙すためにこう言っているだけなのでは?
いや、だが勇者達の戦いも本気だ。
斬って、斬られて、その上で負けず必死に応戦している。
命が懸かった戦いだと理解した上で戦っているのだろう。
ならどうして?
どうしてそこまでして奴らは戦う?
「――ホッホッホ、勇者とて人ではあるという事よ」
「「「えッ!?」」」
そんな時、知った声が背後から聴こえた。
そうして皆が振り向いた先には、俺達の良く知る人物が歩いてやってくる。
「お、おじいちゃん!?」
そう、ディーフさんだ。
あの人が通常戦闘時の装備で俺達の下へ歩み寄ってきたのだ。
「如何な蛮行に手を汚そうとも、己の所業を鑑みて見つめ直した時、人はふと真理を見つける。その境地に至りし者はおのずと己を恥じ、正したいと願う事もあろう」
「そうだ。そしてその正すべき道こそが今だと判断した。それが私達がここに立つ理由だよ、ラング=バートナー……いや、ダンジョンブレイカー」
こいつ、俺の事を知っている!?
それも決して派生とかじゃなく、初代として!?
ま、まさかそれって……!?
「お、おいおいディーフさんよぉ? まさかアンタ、俺達の事しゃべっちゃったワケ?」
「クックック、たしかにそなたらに協力するとは言うたが、誰もそなた達
クッ、このタヌキジジィめ……!
老獪どころか自由度さえ極まりねぇ!
まさかギルドにまで通じてやりたい放題とはやってくれるよぉ……!
だがこれは、俺達にとってこの上ない助け船だ。
「ラング=バートナー、我々は思い知ったよ。お前達の行為でどれだけ多くの者達が苦しみ足掻いていたのかを。ダンジョンブレイカーによって最上位の存在でなくなった事でようやく気付けたのだ」
「へっ、今さらかよ」
「……ああそうだとも、数千年越しの今さらだ。子どもでもわかりそうな理屈だが、その数千年の常識がすべてを覆い隠していたのだろうな」
こんな憎まれ口をたたいても鼻で笑って返してくる。
それだけ自分達の行いを重く受け止め、受け入れられたからだろう。
こうなった人間は強い。
吹っ切れて、視野が広がって何事にも冷静になれるのだから。
俺がスキルを手に入れた時と同じように。
「だからといって我々が勇者とその管理者である事を放棄するつもりはない」
「なら今のままの方が都合がいいんじゃねぇのか?」
「いいや、そんな事は無いさ。真に勇者としてギルドとして世界を安定させるためにもゲールトは不要なのだよ。だから排除する必要がある」
「それを俺達ダンジョンブレイク工業に任せるって事かよぉ?」
「圧政を破壊する事はお前達の得意分野だろう?」
「へっ、違いねぇ」
こいつらはみんな覚悟しているんだ。
仮にこの戦いに勝利したとしても、世界情勢が不安定になるかもしれないのだと。
それでもなおゲールトっていう呪縛から解き放たれるべきだと信じている。
そう信じたからこいつは自ら戦場に立っているんだ。
俺達が未来への道を切り拓くという可能性に賭けて。
こう話している間にも、進行方向からも勇者どもが攻めて来る。
しかしその直後には空から降って来た者によって吹き飛ばされていたが。
「笑止ィィィ!!! 進化せし拙者を貴様らが止められようかァァァ!!!」
砕牙皇デネル。
あのパワーバカが一層強い力を放ってやがる。
しかも今までにないキレをも伴って……!
「フフフ、初見では未熟と思うておった奴じゃが、ワシが一つ喝を入れてやったらあそこまで強くなろうたわ。将来が楽しみじゃのぉ~」
「おいおい、ダンジョンブレイク工業のお手伝いの傍らでそんな事してたのかよ」
「奴直々からのたっての願いじゃから断れぬよ。ただディーフ=シーリシスとして受けたからのぉ、そこはダンジョンブレイク工業とは関係ないぞ」
「ははは、偶然が重なると怖いものだな。知恵を借りたいと願った相手が憎しと思っていた者で、デネルの師で、ダンジョンブレイク工業の一員とは思わなかったものよ」
まったく、俺達がワイスレットを離れた後にどれだけ色々動いてたんだ?
俺達に負けず劣らず激動で奇想天外じゃねぇか。
「……私とて易々と死にたくはない。奴らの手に掛かるなどまっぴらごめんだ」
「アンタはアンタで色々あったみたいだな?」
「ああ。だからこそ必死で調べたものだ。単身で大森林大陸へ赴き、ゲールトが伏せた歴史を紐解いてきた。そして理解したよ、奴らがどうしてここまで頑なに我々を行使し続けてきたのかをな」
どうやらこのギルドマスター、ディマーユさんの記録を見てきたみたいだな。
あの人の事だから神の封印場所だけじゃなく当時の事も色々残してそうだし。
その情報を信じたというなら、今は俺達もこいつを信じてもいいかもしれん。
「そして帰還した後に私はディーフ殿に知恵を借り、そしてダンジョンブレイク工業の目的を知った」
「利害の一致が偶然にも判明したって訳だ」
「そういう事だな。だからこそ私達はお前達に託すと決めたのだッ!!!」
するとギルドマスターが飛び出し、迫っていた勇者を斬り捨てる。
昔は勇者をやっていたって話なだけに相応に強い。
「なにも信じろとは言わん! だがなんと言おうと我々にしんがりを任させてもらうッ!」
「ふはは! ならばワシも付き合おうぞぉ!」
「死地となろうと保険は出ませんぞ?」
「構わぬ! 血潮が滾るわッ!」
「ならばデネルが道を切り拓くゆえ、お前達は先に行けッ! そして世界を現代人の手に取り戻せえッ!!!」
進行方向もデネルが大暴れしたおかげで道ができた。
どうやら俺達に合わせてくれるらしく、ハンドサインを向けてくる。
だから俺達は頷きだけを返して先へと走ったのだ。
今は彼らの意思を尊重し、その上で願いを引き受けて。
――そしておかげで俺達は郊外のポータルへと到達。
無事にヴィンザルムから脱出を果たしたのだった。
ポータルは一時的に起動するだけの使い捨て。
それゆえに追っ手も来る事は無く、俺達は難なく最終拠点ファイナルオーダーへと移動する事が叶った。
でもディーフさんやギルドマスター達の安否はなおわからないままで。
ただ抜け目のないディーフさんもいるし、きっと彼等は平気だろう。
後は俺達が願い通りにゲールトを倒せばいいのだ。
それで今の戦いで力尽きた勇者達にも報いる事ができるしな。
俺達にはその準備がもうできている。
最終決戦――その兆しはすでに、リブレーが復活した事で見え始めていたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます