第130話 最終決戦用準備拠点ファイナルオーダー

 ディマーユさんの正体がゲールトにバレた可能性が浮上した。

 しかもこの本拠地でさえすでに危険な状態に陥っている。


 それにしても記憶保存デバイスか。

 そんなもんを勝手に人の頭へ埋め込むなんざ外道のやる事だぜ。


「記憶保存デバイスの存在は刺客を仕留めた際に確認できた。となればギトスも同様に仕組まれていると思っていい」

「それってもしかしてアタシにも!? やだあっ、気持ち悪っ!」

「うぐぐっ、キスティその話を聞いたらなんか頭が痛くなってきたのよさ……」

「安心しろ、それはあくまで奴らが頭の中を覗くために必要とするものだ。専用施設を使わない限りは何の悪影響も及ぼさないはず」

「なんなら吾人が後で除去してやらんでもない」

「ええい、今はそんな事などどうでもよいわ! まず第一に、仮にディマーユの存在がバレてこの本部が危険にさらされているとしよう。ならばどうする!?」


 ウーティリスも肩車されたままだってのにもうマジだな。

 ちと耳が痛いくらいに叫び過ぎだが、みんなの動揺を抑えるためにも我慢だ。


「……問題はない。こんな時のためにと用意していた施設がある」

「ッ!? ディマーユ様、それってまさか……!?」

「そのまさかだよナーシェ。施設735-7195Fを使う」


 な、なんだ、施設なんたらFって。

 随分と仰々しい名前だが……?


「またの名を〝最終決戦用準備拠点・ファイナルオーダー〟という」


 最終、決戦……!?

 それって、まさかっ!?


「だが詳しい話をしている暇はない。ナーシェおよびこの場にいる全人員に通達! ただちにこの本部に蓄積された全重要書類を回収または処分後、各自の判断の下で施設735-7195Fへとポータル転移せよ! 繰り返す――」


 どうやら押し問答をしている余裕はもうないらしい。

 そうと決まるとディマーユさんが施設一杯に鋭い叫び声を上げる。

 すると周囲を歩いていた人員が一斉に走り始め、照明までが赤ランプで輝き始めた。


「施設735-7195Fはこれよりディマーユの名の下に開放! これは訓練ではない! 最終決戦開始の宣告である! 総員、各々の覚悟を以て有事に当たれ!」

「ディマーユ様、ではお戻りになられるまでの指揮は」

「ナーシェ、しばしお前が現地での指揮を取れ。我が現地へ着くまで頼んだぞ!」

「はッ!」


 それで遂にはナーシェちゃんまでもが鋭い敬礼と共に走り始めていく。

 いつもは緩いのに、あんな事ができる人だったんだな……。

 俺は彼女の事、なんも知らなかったのかもしれん。


「しかしそれならディマーユさんも一緒に飛べば良いんじゃないですかい?」

「そういう訳にもいかんよ。ポータルを残す訳にはいかないからな。全員が退去したのち、我が最後まで残ってポータル破壊を行ってから密かに撤収する、それが今までのやり方なのだ」

「さすが師匠、徹底してますねぇ」


 いや、リミュネール商会に関して何も知らなかったんだ。

 俺達はあくまでダンジョンブレイク工業という別団体であり、商会は提携先でしかない。


 それでディマーユさんも余計な情報まで教えてくれなかったんだろう。

 余計な知識で俺達を無駄に混乱させないために。

 俺達はあくまで神を復活させるための鍵で、ゲールトの因縁とは基本的に関係がないんだってな。 


「だからお前達も早く――」

「ならなおさら残して置けませんわ」

「ラング、何を言って……」


 だからこそ、だ!

 提携先の会長が困ってるなら、実力主義の俺達が助けにゃ名が廃るってもんだぜ!


「こっから個人の意地、どうせ師匠はそう思ってらっしゃるんでしょうよ?」 

「うっ、そ、それは……」

「だったら俺も意地を通すぜ。俺だってもうゲールトと無関係なんかじゃねぇ。いや、無関係な奴なんてもうどこにもいねぇんだ。それにギトスをけしかけた礼はしてやらねぇとなぁ……!」


 ゆえに俺はディマーユさんへと拳を向ける。

 かつて師匠として俺と別れる際、誓いを交わした時と同じように。


 かつて拳と拳で打ち合い、互いの志を認め合った。

 そんな誓いがあったから今の俺があるんだってな。


「だったら私も共に行きます。ラングを守る事が私の使命の一つでもありますから」

「ラングが行くならわらわも行くのが筋であろう!」

「ニルナナカも~~~」

「べっ、別にキスティだって義理を通してやらなくもないんだからねーっ!」

「アタシも協力します。させてください! それが罪滅ぼしになるなら!」

「お前達……」


 どうやらダンジョンブレイク工業側は一致団結したらしい。

 新入社員も二人増えたし(?)、頼もしい事この上ないな!

 まぁ本来ならラクシュもここに入るが、ケガの事もあるし今はそっとしておこう。


「……わかった、お前達に頼ろう」

「っしゃあ! なら準備が整うまで英気を養わせてもらうぜ!」

「ここに全員分のエリクサーがある。これを使って準備を整えてくれ」


 撤収まではそれなりに時間もかかるだろう。

 それが終わるまで俺達の出番はお預けだ。


 でもその時がきたら徹底的にやらせてもらおう。

 俺だけじゃどうしようもなくとも、仲間達がいるからには、な。


「たたた大変でございますゥゥゥ~~~~~~!!!」


 だがその時だった。

 突如レトリーが血相を変えて部屋へと飛び込んでくる。

 それも自慢の眼鏡がズレッズレでも気にせずに。


「あ、ケダモノもいらっしゃったのですね丁度いい」

「お、おう……お前いつの間に戻ってきてたの」

「ええすでにザトロイのギルドで諜報活動を――ってそれどころじゃねぇ~~~!」


 な、なんだよ藪から棒に!?

 いつものレトリーらしからぬ素っ頓狂な声を上げてどうしたってんだ!?


「会長! ギルドが、勇者が総動員でここに攻めてきますゥゥゥーーーーーー!!!!!」


 ――どうやら状況は俺達が思う以上に深刻だったらしい。

 ゲールトはすでに俺達が動くよりもずっと速く事を起こしていたようだ。


 こいつぁ、ちとハードすぎる展開だぜぇ……!

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