同志達よ集え編

第103話 教われる者(ギトス視点)

 異世界からやってきた二人の男女、カナメとミラ。

 こいつらを面倒見るようになってからはや一ヵ月が経った。

 それでその間、実力を測る為にと基礎訓練に付き合ってきたのだが。


 結論から言えば、こいつらは化け物だ。


 まずカナメ。

 奴は身体能力が異常に高い。

 なにせ職業選定を受けていないにもかかわらずB級勇者並みの力を発揮したのだからな。

 本人はまるで当然のように喜んでいたが、僕らにとっては驚異的な事だ。


 次にミラ。

 奴の魔力値は尋常ではない。

 本来は職業選定を受けなければ魔力もロクに練れないが、奴だけは別格だった。

 試しに魔力量を測ってみれば、すさまじいまでの力をほとばしらせていたのだ。


 だからといざ職業選定をしてみればどうだ。

 二人とも選定時点でいきなりA級勇者と規格外にも程があるだろう、まったく。


「ギトスさぁ~ん! 今回のカリキュラムはこんな感じでいいでしょうかねぇ?」

「ああ、二人ともそれくらいでいい。戻ってこい」


 それで地下修練場で二人に戦闘訓練を課してみたが、難なくこなすとは。

 以前は普通の人間だったらしいが、どうしてすぐにここまで動けるやら。 


「オレ、もっともっと強くなりたいんです! もっと強くなって正義の勇者として世界の役に立ちたいっ! だからもっと厳しい修行をお願いしますっ!」

「アタシはそういうのじゃないですけど……でもまぁ、付き合ってもイイかな」

「わかった。ならそろそろ実地訓練をしておきたい所だな」


 それにしても貪欲だな、こいつら。

 教えた事をメキメキと覚えていきやがる。うらやましいくらいだよ。


 だが仕上げにはまだまだだ。


「その前にミラ、お前に魔法を教えてやる」

「おおっ!? いいなぁミラ、オレも魔法使ってみたかったよ」

「別にうらやましい事でもないと思うんだけど」

「そんな事ないって、ファンタジー世界にきたら一番やってみたい事じゃないかー」


 ……まぁいい、こいつらの事情になど興味はない。


 とはいえ僕に魔法は使えない。

 だからミラに魔法を教える専属の魔法使いを用意してやった。


「来い駄犬」

「あ、あうん……」

「「――ッ!?」」


 こう呼べばさっそくと駄犬キスティが四つん這いでやってくる。

 こいつも元は強力な魔法使いだったからな、魔法を教えるには最適だろう。


「今日は喋る事を許可してやる」

「あ、あ、ありがと、ござます」


 ただちゃんと教えられるか不安はある。

 ずっと喋る事を禁じていたからな、僕が殴ろうが蹴ろうが犯そうが。


「ひ、ひどい……人を犬扱いだなんて……」

「言ったはずだが? 僕のような高位者が愚かな低位者をどう扱おうと自由だと」

「そ、それは……」

「そしてお前もそうできると望んで僕に従う事を選んだんじゃないのか?」

「う……」

「こうしてやりたいと! 願ったからだろう!?」

「ぎゃんっ!?」


 ひとまず見せしめに駄犬を蹴りつけてわからせてやる。

 ミラは少し物わかりが悪いようだからな、反旗を翻されてはたまらん。


「コイツは僕に狼藉を働いた重犯罪者だ。ならばこうなるのも仕方ないだろう」

「それでもやり方ってものが……」

「ないッ!」

「「ッ!?」」

「愚か者は徹底的に躾けねばまた愚行を繰り返す! それこそ魔物のような害悪でしかないのだから!」

「た、たしかに言われてみれば。日本でもDQNとか、悪い事いっぱいしていたけど捕まらない奴ら多かったもんな……」

「それはまぁ、うん……」


 どうやらこいつらにも思う所はあるらしい。

 ならば理解くらいはできるだろう。


 愚かな奴は躾ける。

 それでも言う事を聞かないなら始末する。

 それがこの世を安定させる唯一の手段なのだと。


 でなければ、ゴミがただ増えていくばかりなのだから。


 特にハーベスターは無駄に種類が多く、比例して選定される者が増えやすい。

 そんな奴らはさっさと選別し、必要な奴以外は斬り捨てた方がマシだ。

 どうせ新しい奴はどんどんと育って増えてくるのだしな。

 

「では駄犬よ、そこのミラにお前の魔法を教えてやれ」

「は、はい……」

「間違っても下手な事はするなよ」


 お前もそのゴミの一つだ駄犬めっ!


 そう心に思いつつキスティの尻を蹴り叩く。

 すると嫌がりながらも進み、ゆっくりと立ち上がってミラの下へ。


「あ、お、おしえます。魔法、おしえますから」

「あ、はい。よ、よろしくおねがいします……」


 しかしまだミラには気持ちを切り替えられない所があるようだ。

 ヨロヨロと近づくキスティを両手で受け止め、心配そうにしている。


 ……少し注視していた方がよさそうか。


「カナメは二人のやりとりでも見ていろ。何か戦いのヒントがあるかもしれんからな」

「は、はいっ!」


 それで僕はまた少し離れ、壁際へ。

 壁へと背を預け、眺めつつ聞き耳も立てる。


 ふむ、まずは基本の炎魔弾ファイアスローからか。

 傲慢だった割にずいぶんと教え方が手馴れているじゃないか。

 これは僕としても見る価値がありそうだ。




 ――そしてそれからおよそ一時間ほど。

 二人の魔法の練習は早くも最後へ差し掛かっていた。


 今教えているのはキスティが誇る最強魔法、爆裂轟散雨バスターレイン

 あの駄犬が自ら編み出したと豪語していた得意魔法である。


 で、それをミラが小規模ながら即座に実演して見せた訳だ。


 その時のキスティの絶望する顔ったら、笑えてたまらん。

 なにせ教えてすぐに実現させられたのだから。

 きっとそれだけ信じられもしない事なのだろうよ。


 だが、それを実現したミラの実力は間違い無く本物だ。

 だとすればもう駄犬は必要ないな。


 だったら。


「よくやったミラ。では最後の試練を与える」

「えっ? は、はい」

「その駄犬を殺せ。今教えてもらった魔法で、だ」

「「「なっ!?」」」


 何を躊躇しているミラよ?

 今お前はもうその駄犬からすべてを教えてもらったはずだ。

 だとすればその駄犬はお前にとっても不要ではないか。


「そ、そんな事できる訳――」

「しなければお前がその駄犬に殺されるだけだ」

「えッ!?」

「駄犬! そのミラを殺してみろ! そうしたら駄犬扱いから解放してやる!」

「え!? あ、あ、あああああーーーーーーッッッ!!!!!」


 ふふっ、駄犬の方はよくわかっているな。

 こう言われた途端、すぐさま必死にミラに襲い掛かったぞ。

 

 それでいい。

 お前の役目はそれで終わりだ。


「じねっ! じねええええ!!!!!」

「ひっ、やだっ!」


 この緊迫した状況こそがミラを変えるだろう。

 そのための糧となれ。


「う あ あ あーーーーーーッ!!!!!」


 そうだ、いいぞ!

 そのまま魔力を溜めて、解き放つがいいっ!!!


 ――そう心に思った瞬間、場が赤く強く煌めいた。


 爆炎がキスティを包み込んだのだ。

 ミラから放たれた小さな炎弾が奴を焼いたのである。


「ギャアアアアアアアアア!!!?? イヤアアア~~~ッ!!!」

「あ、ああ、あああああ!!!??」

「~~~~ッ…………」


 そしてとうとうキスティの動きが鈍り、べしゃりと倒れてしまった。

 すると炎もたちどころに消え、黒焦げとなった身体が現れる。

 ようやくくたばったようだ。


 よくやったぞミラ。これでお前も僕達側に――


「あ、あああ、ごめんなさい、ごめんなさぁい!!!」


 ん、なんだミラの奴、なぜ謝りながら傍へ駆け寄っている?


 なっ!? あの緑色の光はなんだ!?

 まさか回復魔法、だとぉ!?


 そんなバカな、回復魔法などまだ教えていないはずだ!

 しかも焼け焦げたキスティの体が、どんどんと肌色を取り戻していく……!?

 なんて治癒能力なんだ……!


「ごめんなさい、本当にごめんなさい……っ!」

「あ、う……」

「ッ!? よ、よかった、生きてる……よかった……ッ!」


 チッ! 駄犬め、死にまではしなかったか。

 いい在庫処分になったと思ったが、そうもいかなかったようだ。


 まぁいい、ならまた次の機会で――


「ギトスさんっ! お願いがありますっ!」

「な、なんだ!?」

「この子を、アタシにくださいっ!」

「なっ!?」


 何をバカな事を言っている、この小娘は!?


「これでも、アタシのお師匠ですから。大事にしたい、です」

「うっ……し、師匠か」


 そうか、そういう事か。

 お前達異世界人もやはり僕達と一緒という訳なのだな。


「……わかったいいだろう、好きにしろ」

「ほ、ほんとですかっ!?」

「ただし僕の命令に逆らうなと強く言っておけ。それとお前もだミラ。僕の指示には必ず従え、いいな?」

「は、はいっ!」


 その気持ちはわからんでもない。

 僕もシャウ=リーン師匠が同じ目に遭っていたらきっとそうするだろうから。


 しかしなんにせよ、これでミラも僕の忠実な手駒となった事に違いはない。

 駄犬が生き残ったのは誤算だったが、結果オーライと言えるだろう。


 ではこうして準備も整ったし、そろそろ実践に移るとしようか。

 丁度いい機会だ。ゲールトを通してとびきりの情報も入っているからな。


 あのダンジョンブレイカーの居場所がとうとう判明したのだとなぁ……!

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