第102話 船上帰還を果たして

 せっかく海神リブレーを見つけ、掘りだしたのだが。

 俺がスキル『回源』を発動させた事で消滅してしまった。


 厳密には一応残っているけど、極小サイズじゃさすがにもうダメだよな……。


「ま、ええか。なら次に行くとするのら」

『良くない良くないぜんっぜん良くなーい! あちしの肉体どーしてくれんのよさ!?』

「いや、元々ミイラ化してたし、どうせ有って無いようなものだったであろうが……」

『ウグッ……』


 とはいえそこはさすがの神、まだ生きているらしい。


「その通りなのら。神は本来、肉体を失っても死にはせぬ。ま、ここまで行くと魂を手放さなければならぬようらがのう」

「なるほどな。でも神殺しの剣で斬れば魂ごと切れると」

「そういう事なのら。ま、うっかり回源の力を受け付けたのもこやつの迂闊さがあったゆえ。ラングが気に病む事は一切ないのら」

『で、でもぉ、ちょっとは気にして欲しいなー?』


 つまりリブレーは高慢でうっかり屋なドジっ子神って訳だ。

 ちっとも徳のなさそうな奴なんだな……。


『その代わり誰にも負けない美貌がありますぅー!』

「その美貌もたった今、精子レベルになって消えたではないか」

「いい所残ってねぇなぁ……」

『オンギャーーーッ!!!!!』


 おまけに調子に乗ったウーティリス並みに騒がしいときた。

 これずっと心の中で響くと思うと気が気でないんだが?


 そもそもコイツ、連れて行けるの?


「その点は何の心配もない。思念体ならば移動は自由にできよう」

『ハッ! そうだった! じゃあそういう事でー』

「愚か者めが。わらわがそう簡単に逃がす訳がなかろう!」

『ギョエーーー!? あちしの魂がいつの間にか囚われてるのよさーーーっ!?』


 なんだ、二人の間に何があった!?


「なーに、リブレーの思念体を逃さぬよう、ウーティリスちゃんマジ神パワーで捕らえておいたのら」

「なにその自尊心に溢れた力は」

「ようはわらわの思念で出来た、ダークスパイダーの糸のような粘着性の網でだな」

「例えがもうダンジョンでお前らしいよ。でもまぁ大体わかった」


 どうやらリブレー自体はウーティリスがしっかり捕まえているらしい。

 よくわからんが逃げられる心配はなさそうか。


 そんな訳で穴から出て仲間達を呼ぶと、三人ともすぐに戻って来た。

 来る魔物もすでにまばらとなっていたようで、みんなももう暇していたようだ。


「どうだったラング? なんだか揉めているように聴こえたけど?」

「あーそれなんだが……悪いみんな、作戦は失敗した」

「「「ええっ!?」」」

「リブレー自体は復活させられたんだけどな、肉体が消滅しちまったんだ」

「なんて事でしょう……」

「これは困ったんですねーっ!」

「ああ、俺も正直どうしたらいいかわからん」


 思念体のままだと「誘い」の力を使えるとは思えない。

 となるとなにかしらの方法でリブレーの肉体を得なければならないだろう。


 さもないと、これからの神探しに支障が出かねない。

 いくら地図があるからとはいえ、探すには世界が広すぎるのだから。


「肉体の方はアテがない訳ではない」

「本当かウーティリス!?」

「うむ。しかしそれは後ででもどうにかなる事よ。ともかく今はここを脱出する事を優先した方がよい」

「そうだな。それじゃあひとまず脱出するとしようか」

「ニルナナカはどうするの?」

「あやつは飽きたら勝手に終わらせるから心配はいらぬ。こちらから念も送っておくし、ダンジョンを破壊したら脱出して自力で家まで戻ってこれよう」

「扱い雑だな!? まぁ自分勝手な奴だから仕方ないんだが」


 ウーティリスがそう言うなら心配はいらないだろう。

 脱出するという事に関しては俺としても賛成だ。


 そこで俺達はこう確認した後、出口へと向けて転進する事にした。


 帰りの道中も魔物に遭遇したが、あいかわらず数はまばら。

 おそらく深層から上がってきた生き残りといったところか。

 それだけニルナナカの暴走が魔物の数を減らしているのだろうな。


 おかげで俺達は難なく出入口まで到達へ。


 そこで俺は足元へと自在屈掘を行使し、船の直上へと降りる穴を掘る。

 それでもって全員で壁面を滑り降り、難なく帰還を果たした。


「ただ今帰りましたぜ!」

「おおっ、随分と早い帰還だったじゃないか」


 するとさっそくディマーユさんが笑顔で迎えてくれた。

 一人除いて全員が帰還を果たしたからか、とても嬉しそうだ。


「しかももう次元連掘と自在屈掘を併用しているとは驚いたよ」

「ええまぁ、そうしないと戻れないと思いましてね。幸い入口は平和だったんで、存分に集中できたおかげで成功しましたよ」

「ああ、ニルナナカはまだ大暴れ中って事ね……」


 まぁニルナナカの事はやっぱり心配していないらしい。

 ディマーユさんも半ば呆れ気味みたいだし、予想していたんだろうなぁ……。


「それでリブレーはどうした? 姿は見えないようだが」


 それよりもどうやらリブレーの事が気になるようだ。

 しきりに見回し、その姿を探し始めている。


 それなので俺は一部始終を伝える事にした。

 今この場にもリブレーの思念体がいる事実まで事細かに。


『という訳なのよさ』

「なンでお前が締めてんだ。あとお前の声、師匠に聞こえてないからな?」

「そうか、なるほど……まさかここも封印が不完全だったとは」


 さすがに事情を深く知るディマーユさんだからこそ理解は早い。

 しかし肉体が失われてしまった事までは想定外だったみたいだな。


 だからか、ついには手に顎を取って悩み始めてしまった。


「こうなるとしばらくは今まで通り手探りで探すしかないか」

「そうっすね。まぁ神の封印場所はある程度わかっているし、地道にやるしかないでしょうよ」

「え? あ、ああそうだな。その通りだ」


 んん?

 なんだ、神の居場所の事じゃなかったのか?


「ともかくみんなご苦労だった。今はひとまず休んでくれ。帰ったらとびきりの料理を振舞うとしよう」

「やったぁ!」

「ならさっき魚も獲れましたからね、そいつを使ってくださいよ」

「ほぉ、随分と大暴れしたようだな!」

「ええまぁ、スキルのコツを覚えられるくらいにはね!」


 ま、いいか。

 ディマーユさんなりに思惑があるのだろうからな。

 きっと度肝を抜くような話を持ち込んでくれるに違いない。


 なら俺はそれに期待しつつ、今まで通りにギルドに抗い続けるだけだ。




 ――こうして俺達の海中ダンジョン攻略は終わり、ザトロイへと帰還を果たす。

 その三日後にはニルナナカもしれっと帰還したので、そこで作戦は完了となった。


 しかしどうやらディマーユさんはその時、すでに次の計画を考えていたようだ。


 それはリブレーが肉体を取り戻すまでの穴埋めにと。

 かつて彼女と相対していた砂漠の精霊――鍛冶神の復活作戦を。

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