第83話 〝越神組織〟(ギルマス視点)

 ギトスが思考停止魔法を喰らったようだ。

 仕方あるまい、こやつはただの付き添いだからな。

 まぁ必要な時のみしゃべって貰えばそれでよい。


 さて……。


『ワイスレットギルドマスター』

『キサマには失望した』

『件の者がまだ見つかっていないとは』

「大変申し訳ありません。ダンジョンブレイカーという存在は巧妙に姿を隠し、我々では見つけられぬ所にいる模様で」

『言い訳は不要だ』

「ハッ……」


 やはり召喚理由はダンジョンブレイカーの件か。

 となると、我等が師父達も奴の存在が疎ましく感じてきたといった所かな。


『だが先日、実際に遭遇したと聞いた』

『なぜ始末しなかった?』

「我がワイスレットが誇るA級勇者四人を派遣しましたが、敵は強大でした。そのおかげで我等の力不足は否めず」

『……続けよ』

「敵は不可解な力を使った模様。一瞬で勇者の装備を剥ぎ取ったと聞き及びました」

『スキルか……』

『有り得る』

『では神が復活した?』

『そんなバカな事が』


 スキル? 神が復活?

 一体なんの事だ?

 まさかここにきて初めて聞く言葉に出会うとは。


 ……ギルドマスターとて彼等にとっては末端に過ぎないという事か。


『続けよ』

「……奴らはその後、自分達を〝キギョー〟と名乗った模様」

『おお……!?』

『なんたる事か!』

『企業の名が再び出てくるなどとは!』

『まさかまた白と黒の戦いを勃発させようというのか、神め!』


 しかし彼等の驚きよう、騒ぎようはなんだ?

 まるで禁句を聞いたかのようではないか。


 彼等は一体何を知っているのだ。


『続けよ!』

「は、はいっ! そして奴らはダンジョンブレイク工業という名で、我等ギルドに対し宣戦布告したという話です」

『ダンジョンブレイク工業……』

『なんとおぞましき名よ』

『早く消し去らねば』

『世界を再び神どもの玩具とされる前に』


 ……いやいい、考えるな。

 理解するな。事実を見るな。

 私がギルドマスターのままでいたいならば。


 もっとも、ここまでかもしれんがな。


『許すまじ、神の奴隷よ』

『しかしもっと許せぬは無能者よ』

『我等の意志にそぐわぬ愚か者には死を』

『『『賛成』』』


 やはりか。

 どうやら私はここまでのようだ。


 だがきっとギトスが後を引き継いでくれるだろう。

 コイツならきっと私の後釜にぴったりだろうからな。


 フッ、短い付き合いだったが、嫌いではなかったぞギトスよ。

 お前の在り方は私がうらやんでしまうほどに眩しかったからな。


 ああ、水晶達が輝いている。

 あれが瞬けば私はこの世から消滅するだろう。


 まったく、我ながら情けない最後だ。


「お、お、おまチくださイ、ゲールトとイう方々……!」

『『『!!?』』』


 なっ!? ギトス!?

 お前、思考停止魔法を喰らったのではないのか!?


「この方ハ、ボくの理解者! どうか! 話を聞いていタだきたイ!」

『バカな!?』

『思考停止魔法に抗う!?』

『なんという精神!』

「だが、僕は、たかがギルドマスターに、留まる、つもりは、ないッ!」

『おお!?』

『完全に抗いきった!』

『これは!』


 なんて奴だ!?

 精神力だけで彼等の呪縛を解き放った!?

 コイツ、私が思った以上の逸材だったというのか!?


「ゆえにッ! 僕はギルドマスターの処刑に反対します! この人にはやる事がある! 僕が更なる飛躍を果たすための踏み台としてッ!」


 言う事は無茶苦茶だ。

 だがそれでいて自身を貫き通している。


 眩しいな、これが若さか。

 いや、私の全盛期にもこれだけの執念があればどれだけよかったか。


「それが成せないというのなら僕を処刑しろ! だがそうすればダンジョンブレイク工業は永遠に潰せないぞ! なぜなら奴らを潰せるのは僕だけだからだッ!」

『若造めが』

『言ってくれる』

『だがその執念と野心よ』

『嫌いではない』

『なるほど把握した』

『ギルドマスターが推しただけの事はあろう』


 今だけはお前に託そう。

 私はお前を認めて良かったのだと。


 ならば喜んで踏み台になってやろうではないか!

 私がお前をできる限り押し上げてやる!


「その者こそ私めが認めし、稀なる逸材にございます! なれば必ずや期待に添えましょう」

『ふむ?』

「それでもなお、私の後釜に据えるならそれでも構いませぬ! しかしそのような逸材を地方で腐らせるだけなど、とても我等が師父の采配とは思えませぬ!」

『キサマ……』

「今一度お考えを! ダンジョンブレイカーが我がギルドの強敵となり得るのであれば、最大の力を発揮する必要がありましょう!?」

『……』


 ハァ、ハァ、これでどうだ!

 もうこれでダメなら私は諦めよう!

 どちらにしろ捨てたつもりの命だ、どうにでもせよ!


 だがもし生かされると言うのならば……!


『……よかろう』

「「ッ!?」」

『なればギトスとやら』

『キサマは我等ゲールトが管轄する』

『特殊教育を受けてもらう』

『だがいいのか?』

『戦力低下は敵に隙を与えるのみ』

『これが最良の答えである』

『よって我等の裁定は下った!』

『ギルドマスターは現状維持とする。去れ』

『ギトス=デルヴォは配下とする。残れ。以上』

「駄犬は?」

『好きにせよ』


 部屋が暗くなっていく。


 ふぅぅぅぅぅぅ~~~~~~……。

 生き、残れたか……。


 これはギトスに感謝せねばな。

 もはや私すら超えたか、彼は。

 

「ギトス、殿」

「えっ?」

「あなたはギルドを造りし領域〝越神組織ゲールト〟の構成員となった。よって我らギルドからは離れたものの、影で操る存在の一人となる。その事をゆめゆめ忘れないでいただきたい」

「僕が、ギルドを操る者達の一員……」

「そう。そして救ってくれた事を感謝いたします。ありがとうございました」

「……いや、僕を引き上げてくれたのはあなただ。だから敬語は不要ですよ」


 ありがたいな。

 こういう所だけはしっかりと義理堅い。


「ならば元上司として進言させてもらおう。これから君はもう普通に外を歩く事も叶わない。しかし暗躍組織の一員としてさらなる飛躍が約束されるだろう」

「ふむ……ならば望む所ですよ。僕はいつか世界を牛耳る男になるのだから」

「いい野心だ。眩しいな」


 だったらもう任せても良さそうだ。


 では彼に託すとしよう。

 すべてを狂わせたダンジョンブレイカーども、その殲滅の役目をな。


「では一つお願いがあります」

「なにかな?」

「この手紙を僕の代わりに両親へと届けてください」

「心得た。必ず届けよう」


 その代わりの役目が配送士役だというなら喜んで引き受けるさ。

 いや、彼の言う事ならなんでも引き受けよう。


 それが私に与えられた運命の配役だというのならば。




 こうして私は一人、秘密謁見所を離れてワイスレットへと戻った。


 半ばギトスを生贄にする形となったが、後悔はしていない。

 奴の望んだ事だし、色々とゲールトにも疑問ができたしな。


 一体なんなのだ、スキルとは?

 神とは創世神ディマーユ様の事ではないのか?


 ……どうやらこれは内々に調査しておく必要がありそうだ。

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