第84話 砂漠と海に囲まれた温帯気候の地

 俺は今、天国にいる。

 ……いわゆる地上の楽園ってやつだ。


 見ろ、歩く人々の肌露出度を。

 内地のワイスレットと違い、オール五〇%越えは驚異的だろう。


 なにせこの地は温帯気候。

 おまけに海にも面しているから実に爽やかだ。

 おかげで道行く人々の普段の服装はみんな水着と、実に開放的じゃあないかっ!


 すばらしいッ!

 エクセレントッ!

 この街に来てよかったあっ! くぅぅ~~~!


「ラングの心の声が駄々洩れね。私でもわかるわ!」

「しかし気持ちもわからんでもない。この地の文化は妙な発展しとるのう」

「無駄に~~~露出度高過ぎ~~~れすぅ~~~」


 まぁウーティリスの言う通りだな。

 正直、俺も来た時は衝撃を受けてしまったくらいだし。


 ――常夏の砂国〝ヴィンザルム〟。

 海と砂漠に囲まれ、四季が存在しない国。


 その首都である〝ザトロイ〟が俺達のやってきた街である。


 ディマーユさんいわく、昔のここは観光地だったらしい。

 海では海水浴を楽しむ人々でにぎわい、街も観光客で溢れていたという。


 しかし四千年もの年月を経た今、その様相はすっかり変わってしまった。

 観光客はほぼおらず、海には地元民の子がちらほら泳ぎに来る程度。

 かつてあった産業も軒並みなくなり、完全にギルドの制御下におかれている。


 その反動なのか、現代の一般市民の普段着はほぼ水着へ。

 皆が布面積の小さい衣類ばかりを身に纏い、街を堂々と闊歩しているのだ。


 ゆえに眼福ッ!

 ゆえに至福ッ!

 かつてこんな楽園がこの世に存在しただろうか!


 だから今回は俺も海パンとサンダルだけで外に出てみたぜッ!


「だが開放的である事に異論はない。あっはぁ~~~ん♡」

「ウーティリスは少し自重しろ。その露出度九五%のビキニで際どいポーズをキメるんじゃない。というかどこでそんな物手に入れたんだ」

「見て見てラング! 私もあっはん!」

「チェルトも無理に真似するな。でもちょっと落ち着いた水着だからセーフ。――ウッ、鼻血が!」

「ニルナナカのぉ~~~肌を見たら~~~滅殺れすぅ~~~」

「君、普段着のままで暑くない? あと俺は全裸見たから死ぬの?」


 惜しむらくはナーシェちゃんが来なかった事か。

 根が真面目だからなぁ、仕事があるって断られてしまった。

 かくいう俺もそこまで暇ではないんだがな。


 今日はいわゆる最後のバカンス。

 明日から本格的にダンジョンブレイカーとしての戦いが始まるだろうからと、ディマーユさんにお暇をもらったのだ。


「しっかし、ほんと海辺には人がいねぇなぁ」

「みんな働いてるって話だしね。遊んでる暇なんてないんだよ」

「それもすべてギルドが搾取しているからなのら」


 ただ、この惨状を見ると本当に遊んでいていいのかとさえ思う。

 街を見ればみんな必死に働いていて、遊んでいるのは本当に子どもしかいない。

 だからか、妙に後ろ指を指されている気がしてならないな。


 この国も随分とギルドの圧政がキツイようだ。

 リミュネール商会がいてもこれなのだから相当なのだろうよ。

 早く何とかしてやりたいぜ。


 そう思いながらも海で少し遊ぶ事に。


 とはいえ俺やチェルトは泳げないので海を眺める程度。

 すさまじい勢いで泳ぐウーティリスは見ていて実に楽しい。

 ニルナナカも嬉しそうに洋上を飛んでいるし、来てよかったとは思う。

 

 それで海を堪能したので、今度は街の探索だ。

 これからの拠点になる訳だしな、何があるかくらいは調べておきたい。


 そう思ったのだが。


「なんら、あそこに人だかりがあるようらぞ!」


 いざ海から街路へ戻ると、大通りで妙な騒ぎが起きていた事に気付く。

 大勢の人が集まり、通れないほどの塊を成していたのだ。


「何か起きているのかしら~~~見てきますぅ~~~」

「街中であまり高く飛ぶなよ? ルール違反になっちまうから」

「はぁい~~~」

 

 この中を突っ切るのは無理だが、飛べるニルナナカなら。

 そう理解したのか、彼女が率先して飛んでいく。


 ――と思った矢先、すぐにぐるっと旋回して戻ってきた。速い!


「どうだった?」

「面白いものが~~~見れたれすぅ~~~」

「ほほう!」


 どうやら見るものはしっかり見られたようだ。

 なら一体何が見えたのかな?


「ダンジョンブレイカーが~~~いましたぁ~~~」


 ――は?

 えっ? どういう事?

 俺は今ここにいるんだけど?


 そ、それって一体、何が起きているっていうんだ……!?

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