第34話 おいおい意外な奴が来やがったぁ!?(ゼンデル視点)

 クックック、昨日は実に愉快だった。

 チェルトから貰うものはしっかり貰ったしな。

 これでA級への道もグッと近づいたってもんだァ~~~。


 これもあのダンジョンブレイカー様様だなァ!


 ラクシュとの裏合わせも完璧。

 あとは適当に二~三回ダンジョンに挑めば晴れてA級の仲間入りだ。

 ようやく長年のB級生活も終わり、銘も頂いて俺達の時代が来る。


 その勢いでギルドに天下りし、いずれ天下も握ってやるよぉ……!

 楽しみでしょうがねぇぜ、クッハハハ!


「お、おい、外見てみろ!」

「あれもしかしてチェルトじゃねぇか!?」

「あの裏切者、戻ってきやがったのか!?」


 ……何? チェルトだと?

 バカな、あいつは昨日半殺しにして閉じ込めたはずだ。

 そんな奴が生きて帰れる訳がないだろう。


 ゆえに俺は半信半疑で椅子から立ち上がり、二階の窓から外を見下ろす。

 ギルド庁舎の勇者待機室はあいかわらず見栄えが良くていい。

 さて、チェルトがどんな顔で帰って来たのか眺めさせてもら――


「――なッ!? バカな、あれはっ!?」

「どぉしたの、ゼンデルゥ?」

「嘘だろオイ……ダンジョンブレイカーじゃねぇか!!!」

「「「!!?」」」


 あの姿、間違いねぇ!

 あの黒いマフラーに仮面姿! 穴の中で見た通りだ!


 だがなんで奴がいる!?

 どうしてチェルトと歩いている!?


 まずい、まずいまずい!

 奴に助けられた事がバレたら俺らの嘘が台無しだ!

 クッソォォォ! もう二度と会わないって話だから盛大に盛ってやったのにィ!


 と、とにかく落ち着け、俺!

 ひとまずすぐに奴とコンタクトを取ろう!


 そこで俺は他の勇者達よりも速く階下に降り、奴の下へと馳せ参じた。

 するとさっそく、二人の視線がこっちに向いたぞ、よしっ!


「なんだぁダンジョンブレイカー、まさか表に現れるなんて。どうしたんだぁ、気でも変わったのかなぁ?」

「……」

「いやぁ~~~アンタが開いてくれた穴のおかげで助かったよ、マジで」

「……」


 クッ、こいつ口を開かねぇ!?

 何を考えてやがんのかさっぱりだ!


 ちぃ、おかげで他の奴らまで出てきやがった。

 余計な事するんじゃねぇぞ……!?


「お、おいゼンデル、そいつ本当にダンジョンブレイカーなのか……?」

「ああ間違いない、会った通りの姿だからな」

「だったら全員でタコ殴りに――」

「いやいや待て待て、ここは穏便に行こう。ダンジョンブレイカーは別に財宝を先取りしただけで実質悪い事をしている訳じゃあないんだ。だよな?」

「……」


 チクショウ、一言くらい喋りやがれこの野郎!

 この俺様がフォローしてやってんだぞ!?


「ねぇ~ダンジョンブレイカー、どうしてこんな所来ちゃったのぉ?」

「……」

「ちっとは応えなさいよ!」

「そうだぜ、寡黙な男は不愛想なだけだ」

「……」


 ダメだ、どうやっても口を割らねぇ。

 本当にタコ殴りにしてやろうかコイツ……。


「あのですねぇ、彼はぁ私の事を助けてくれたんですよぉ!」

「そ、そうかよ、良かったなぁ裏切者よぉ」

「だからねぇ、私、彼にゾッコンになっちゃった♡」


 お、おいチェルト、お前そんな喋り方だったか?

 ダンジョンブレイカーにかどわかされて人格でも変わっちまったか?


「チェルトよぉ、てめぇには裏切りの罪の報が届いてんだ。残念だがもはやてめぇにこの場所へ来る資格はもうねぇぞ」

「あはっ、どうせそんな事だろうと思いましたぁ! もぉモーヴったらそんな当たり前みたいな事ぉ♡」


 そうだ、奴が何を言っても無駄だ。

 俺達がしっかりと裏切ったって報告しておいたからな。

 だからダンジョンブレイカーと何を画策していようが無駄だぜ。


「でもでもぉ、裏切ったのはどっちかなぁ~?」

「お、おいおい、人聞きの悪い事を言うなよ……嘘を並べたって無駄だ」


 ちぃ、こいつもしかして洗いざらいぶちまけるつもりか!?

 だが無理に止めようとすれば俺が疑われるし、そもそもダンジョンブレイカーが相手だとおそらく太刀打ちできねぇぞ!?


 ど、どうする……!?


「私ぃ、実はこっそり聞いたんですぅ~! 実はゼンデルとラクシュ……本当はダンジョンブレイカーの事なーんにも知らないんだってぇ!」

「「「っ!?」」」


 え、な、何を言っているんだコイツ?

 ダンジョンブレイカーとの邂逅の事でもなく、お前を半殺しにした事でもなく?


「実は会った事もないのにぃ、嘘をついて広めていたって噂を聞いたんですよぉ」

「ははは、何を言うかと思えば。俺達は確かに会ったんだよ、そいつと。なんでそんな意味のない嘘をつくんだか」

「まったくよねぇ~うっふふっ!」

「へぇ~~~そうなんだ?」


 な、なんだ、奴の不敵な笑みは?

 俺達はその事に関しては嘘なんて言っていないぞ!?

 何なら目の前にいる奴がダンジョンブレイカーだって言っただろう!


「だって? ね?」

「……そうだな」

「やっと口を開いたか。アンタからも言ってやってくれよ、そのチェルトにバカな事を言うなって」

「……」

「頼むぜダンジョンブレイカーさんよ、俺らはアンタに一応感謝はしているんだぜ?」


 さぁ譲歩しろ譲歩しろ譲歩しろおおお!

 その女を引き離せ! 俺の話を聞け!


 そしてさっさと引き返しやがれぇぇぇ!!!!!


「――だそうですけど。では皆さんに質問です! この人がダンジョンブレイカーだと思う人いますかー?」

「「「えっ?」」」

「なんだ、皆さんやっぱり知らないんですね。って事は簡単に騙せちゃう訳だ」

「「「は?」」」

「でもざんねーん! ダンジョンブレイカーはここにはいませんでしたーっ!」

「「「ッ!?」」」


 なっ!? どういう事だそれは!?

 うっ、奴がマスクとマフラーを外して――


 なんだとぉぉぉ!!?

 ラング=バートナー!? なんで貴様がそこにいるぅぅぅ!!!??


「いやー俺、ダンジョンブレイカーなんかじゃないですよー」

「そうなんですよーちょっと汚れた衣服で~うろついていた時に~私を助けてくれたんですよねーっ? ガッツーンって!」

「そうそう、閉じ込められていたみたいで。良かったですよ助かって」


 な、な、なんだとぉぉおお!?


「そうそう。どうしても汗吹いたタオルを首に巻いたら黒くなっちゃうし、埃から目を守ろうとしてマスクも必要になっちゃうし。いやぁだからってあの悪名高いダンジョンブレイカーと間違われるのは心外だなぁ」

「あれれぇ~~~? おっかしいなぁ、なんでA級勇者様とハーベスターごときを見間違えちゃうかなぁ?」

「あ、ああ……」

「ゼンデルさんもラクシュさんもダンジョンブレイカー、ちゃんと見たんですよね? 本当に見たんですぅ? ほ ん と う に?」

「そ、それは……」


 い、言われてみればちゃんと見ていないッ!

 ずっと穴倉の中で、ほとんど確認はしていなかった!

 だからずっとダンジョンブレイカーだと思っていたが、ち、違ったのか!?


 いやでも、あんな非常識な事をできるはずが……!


「そもそもぉ、本当にポータルトラップに引っ掛かったのかなぁ? あそこ、脱出不可能って言われてるのに~!」

「たしかにそうだよな」「いくらダンジョンブレイカーでもそれは……」

「もしかして、名に箔をつけるための嘘だったのかなぁ~?」


 おいおいお前ら、一体何を言っている!?

 奴はたしかに来て、俺達を助けて……


「で、その嘘を隠し通すために私を口封じしようとしたんですよね、ゼンデルさん? ラクシュさぁん? しかもしっかりと私の装備をすべて奪ってぇ」

「そ、そういや二人が防具屋にチェルトの装備を売っている様子を俺見たわ」

「え、マジかよ!?」「じゃあ本当はチェルトの言う事が真実なのか!?」


 あ、ああ、ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ!

 ラクシュどうする!?


 あ、ラクシュ唖然として思考止まってやがる!?

 アホ面晒してやがるううう!?


「……話は聞かせてもらった」

「「「ギルドマスター!? それと砕牙皇デネルまで!?」」」

「ゼンデル、ラクシュ、事情を聞かせてもらおうか。それとチェルトとそこのハーベスターもだ」

「はーい!」「へい、喜んで」

「モンタラーを呼べ。それとデネルは仲介人を頼む」

「拝承ッ!」


 あ、終わった。

 俺の人生、終わった……。


 やり通せるかと思ったのに。

 やっと栄光を掴めると思ったのに。


 こんな事なら、真面目に勇者やっとけばよかった……。

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