第33話 真の罪人を裁くために

『あーあーわらわは何も見とらんし聞いておらーん』


 チェルト氏の要求に応えていたら、つい行く所まで行ってしまった。

 場所も考えずにちょっとがんばり過ぎてしまったと思う。


 でもそのおかげか、チェルト氏に笑顔が戻った。

 これでようやく落ち着いて話す事ができそうだ。


 そんな訳で二人揃って足を抱え、壁を背に座り込む。


「ありがとうございます、ラングさん?」

「あ、俺の名前を憶えていてくれたのか?」

「ええ。私、人の名前を覚えるのは得意なので」


 それにしたってとても丁寧な言葉遣いだ。

 才能選定以降、ナーシェさん以外から味わった事のない応対で、ちょっとドキドキするな。


「もう話せそう?」

「……はい、たぶん」

「それじゃあ、何があった? 尋常じゃないぞ、さっきの状態は」


 でもただこうし続けている訳にもいかない。

 事情を聞いておかないと、このまま抱いてサヨナラはさすがに悪い気もするから。


「……」

「まぁ話したくないならそれでも構わないよ」

「いえ、ちょっと心の整理がまだできてなくて。それにラングさんを巻き込みたくないですから、話していいものかどうか」

「気にするな、もとより堕ちに堕ちている。どうにでもなるさ」

「そう、ですか……なら、甘えさせてください」


 それに彼女も本当は話したそうにしているのはわかる。

 吐き出して、ぶちまけて、スッキリしたいって顔に書いてあるからな。


 それだけ胸糞悪いような理由があるんだろうさ。


「私を閉じ込めたのは、ゼンデルさんとラクシュさんです」

「えっ……!?」

「ポータルトラップに落ちたと思った二人が戻ってきて、私を散々いたぶった後、ここに閉じ込めたんです……っ!」

「あの二人が、だと……!?」


 ……これだけで充分に胸糞悪い話だ。

 まさかのあの二人が絡んでいたなんてなぁ!


「あ、で、でもそれは私が悪いんですっ! 私が二人の勧誘を断ったからっ!」

「勧誘ってなんだ!? 詳しく教えてくれ!」

「え!? あ……勇者がランクアップするのには戦績以外にも、お金があれば可能なんです。しかし二人は実力的にまだ届いていないから、お金で成り上がろうって相談していて……だから最初、私にお金を工面するよう要求してきたんです」

「また金か! それでどうなった!?」

「でも私はそれを悪い事だと断って……そうしたら彼等は私を襲って来たんです」

「なんて奴らだ……!」

「ですがその時、私はついやり返してしまって。そうしたらたまたまトラップルームの近くで争っていたため、二人がうっかり巻き込まれてしまったんです」

『何から何まで自業自得らのう、あの二人……』


 ようやく話が見えてきた。

 それで手下が慌ててギルドに駆け込んだって訳か。

 事情も知らないから、アイツも純粋に助けてほしいって訴えていたんだな。


 だけど、それを俺達が助けてしまった。


「だからどうしたらいいかわからなくて、ダンジョンの外でずっと悩んでいて。そうしたらあの二人が戻ってきていたんです。驚きました……」

「そう、か」

「それで私は謝罪のためにと、謝るのと同時に手持ちのお金も渡して……そうしたらゼンデルさんが容赦なく私に斬りかかってきて。そして今度は抵抗も叶わず、殺されかけた状態でここに閉じ込められたんです……」

「親切丁寧に服以外の身ぐるみはがされて、か」

「そうみたい、ですね……」


 そうだとしたら、すべての責任は俺にある。

 チェルト氏は悪くない。彼女はただ脅威を祓っただけだから。


 俺が安易にあの二人を助けなければ、こんな惨事は起きなかったんだ……!


 悔しいな、とてつもなく浅はかだったよ。

 助ける相手はちゃんと見極めるべきだったんだ。

 じゃなければチェルト氏がこんな酷い目に遭う事もなかったんだってな。


「ならその真相をギルドに話そう。真実がわかれば適切な処置が施されるだろ」

「そ、それはきっとダメです」

「どうして!? そうしなければ奴らは――」

「彼らはそこも計算に入れています。私が気絶する直前に言っていたんです。『お前は俺達を裏切った事にしておいてやる』って……」

「裏切り?」

「はい。勇者同士での裏切りはご法度。もしその事実が判明した場合、才能にかかわらずその資格をはく奪されるというペナルティがあるんです。だから私はきっと裏切り者のレッテルを張られていて、もう誰も信じてくれない……っ!」


 チェルト氏がまた体を寄せ、震えを伝えてくる。

 そりゃ一方的に犯罪者扱いされれば怖くもなるよ。


 だが裏切りなんざ奴らの方が散々やっているだろう!

 俺だって裏切られたし、嘘なんざいくらでも吐いていた!


 だったら、裁かれるべきは奴らの方だろうが……!


「だから、もういいんです。私が隠居して、パパとママを手伝えばそれで――」

「いいや良くないね。俺はちっとも納得できん!」

「だ、だけど、もうどうしようもないじゃないですかっ! 誰だって、こんなの覆しようがないっ! 無理なんですよおっ!」


 ああそうだな、普通にやったら無理だろう。

 モンタラーの助けを借りられればいいが、今は話すら聞いてもらえない。

 それどころかあの二人の後押しさえしかねない状況だ。

 そんな現状を、たかがB級勇者とハーベスター如きが解決できるものか。


 だが、できる事がない訳じゃない!


 だったら奴らの腐った真実を日の下にさらけ出せばいい。

 俺達ができる方法で、徹底的に除菌し尽くしてやろう!


「よぉく言うたラング! そこでわらわの出番らな!」


 そんな俺の想いに呼応し、ウーティリスが鞄から飛び出てきた。

 それも勢いよくスッポーンと大の字で。


「えっ!? こ、子ども!? い、いたの!?!?」

「おぉ、おったぞぉ! そなたの喘ぎ声は実に甘美であったぁ~♡」

「えええーーーーーーっ!?」

「まぁ安心してくれ、コイツは無害だから」

「で、でもでも!? キャーーーッ!!!!!」


 隠していてすまないとは思う。

 あの状況じゃもう隠すしかないかなって。

 でもこうやってさらけ出したから、嘘はもう無いよな。


「なっははは! 安心せい、すでに策略は練っておる。彼奴らの泣きっ面をとくと拝ませてやるわ!」

「どどどうするつもりなんですか!? というか無茶です! ハーベスターが勇者に逆らったらどうなるか!」

「まぁそうだな、ハーベスターの俺じゃどうしようもない事もあるよな」

「ですよ、だからもう――」

「だが、それでもできると言ったら?」

「――え?」


 ……いや、まだ嘘はあったか。

 でもこの際だ、チェルト氏をもう一度信じてみよう。

 彼女の境遇が真実なら、俺達をまだ守ってくれるって思えるから。


 だったら俺の立場をも逆に利用してみるだけだ。


「ぶしつけながら、俺がダンジョンブレイカーだからな」


 さてどうしてやろうか、あの二人のクズを。

 だがアイテム化なんて生ぬるい形で済ませるつもりはないからな……!

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