第35話 チェルト氏が俺から離れてくれない!

 ふはははやったぜーっ! 俺の偽装が役に立った!

 あいつら似せた格好をしただけでコロッと騙されやがったぜえええ!

 ウーティリスの作戦勝ちだッ!


 ――と、そんな訳でギルドマスター達の仲介を経て、チェルトの無実が確定した。

 当然ながらハーベスターがダンジョンブレイカーだなどと思う奴がいる訳もなく、俺に懐疑の目を向ける奴はいなかったな。


 これもすべて、チェルトが半殺しにされた事と、俺が「秘蔵のエリクサー」で助けた事をちゃんと話した末の結果である。

 これにはモンタラーの証明効果もちゃんと発揮してくれて完璧だった。


 しかもついでにゼンデルとラクシュの悪事がすべて露呈する事に。

 どうやら二人は今回だけでなく、他にも色々とやらかしていたらしい。

 A級に上がるためにと、C級勇者達からも搾取していた事実が判明したのだ。


 その結果、ゼンデルとラクシュの財産は没収。

 二人は勇者の職をはく奪され、街からも全裸での追放処分となった。


 いわゆる野ざらし処刑。絶対死亡不可避な極刑の一つだ。


 その処刑執行を実際に目の当たりにし、俺は改めて世界の厳しさを知る。

 たとえ勇者でも禁忌を犯せばこういう目に遭うのだなと。

 そういった法が機能していると知ったのはむしろ良かったと思うが。


 ただ、それでも勇者の暴挙は止まらないだろう。

 他にも色々と隠れてやっている悪事がありそうだからな。

 あの二人が憧れたみたいに、A級という羨望の的がある限り。


「さて、これですべてが解決した訳らのう」

「ふふっ、そうだねぇ~」

「という訳でそろそろラングから離れぃ」

「えーやだーっ!」


 しかし今度は俺の家にて戦争が勃発している。

 チェルト氏が俺にくっついて離れないのだ。


 おかしい! この演技はいつまで続く!?


「もう演技は良いと言っておろうに!」

「違う違う、これ本心だからーっ!」


 え、本心なの!?

 そうやって右腕に胸を押し付けるの、本心なの!?


 ――悪くないッ!!!!!


「ラングも少しは抵抗せいっ! 胸ならわらわのがあろうっ!」

「え、でも俺小さいのは興味無いし?」

「それはそなたの目が節穴だからなのら! 小さいのにも愛はあろうっ!」

「すまない、俺の目にはその愛がすっぽ抜けるくらいに大きな節穴が開いているようなんだ」

「ギリィ!!!!!!!!」


 おかげでウーティリスが余計にうっとおしい。

 左腕に抱き着いて動き回らないでほしいんだが?

 ちょっといつもより重くなってない? 左肩が抜けそうなんだけど?


「でもラングの事が好きなのは本当。あなたのおかげで私は身も心も助けられたから。だから愛してますっ!」

「お、おう、積極的ぃ……」

「わらわも助けられたから愛しているのら!」

「なんかついでみたいな言い方でちょっとそれは違う」

「きぃーーーーーーっ!!!」


 チェルト氏は本当に積極的だ。

 おまけに言うと、本当に好きだってわかるくらいに柔らかく抱きついてきている。

 それも全身でぴったりと寄り沿うようにして。


 きっとこうする事が愛なんだって親から教えられたんだろうな。

 ぬくもりが伝わってくるようでとても心地良い。


 その点、ウーティリスはまだまだだな。

 ただ振り回してくるだけな感じで愛情を一切感じない。


『うっさい、ほっとくのら!』


 これが性根の差というやつだ。

 悪いが軍配はチェルト氏に上がるな。


「でも、ラングがまさかダンジョンブレイカーだったなんて思わなかった。もしかしたらあの時の出会いは運命だったのかも」

「運命かどうかはさておき、ああやって知り合えたから助けられたのは事実だな。あの時チェルト氏が俺をかばってくれなければ、助けようだなんて思わなかったし」

「やっぱり善行は積んでおくものよね。いい教訓になったなー」

「そうだな。やっぱり勇者ってのはそういうものでなきゃ」

「あら、なんだか知ってるような言い草ね?」

「ああ、これでも昔は勇者を目指して鍛えていたからな。師匠から勇者とは善行を行うものだと教えられてきたんだ」

「へぇ~私も会いたいな、そのお師匠さんに」


 でも本当に恋人みたいな雰囲気だ。

 恋人ができた事はないから、個人的にはとても嬉しい。


 まぁ世間体を考えると実際に付き合うのは厳しいだろうが。


「それとラング、私の事はチェルたんって呼んで?」

「そ、それは絶対に嫌だ!」

「えーなんでーいいじゃーん」

「人前でそんな風に呼んだら恥ずかしくて死ぬ自信がある!」

「大丈夫大丈夫ーっ!」

「その根拠が知りたい!」


 こうやって慕ってくれるのはいいんだけどな。

 それでもやっぱり、ハーベスターと勇者は釣り合わないよ。

 特に、チェルト氏はA級になれるかもしれないポテンシャルの持ち主だし。


 平穏に過ごすなら、俺達は他人同士のままが一番いい。


「まーたそうやって線を引くのかそなたは」

「仕方ないだろ、ハーベスターっていう逃れられない事実があるんだから」

「まったく面倒臭い世界らのう」

「「ねーっ!」」


 ウーティリスも妙な所でチェルト氏と気が合うな。

 仲違いしていたと思ったら声まで合わせちゃって。


「でもウーティリスちゃんって本当に不思議な子よね。あんな作戦も思い付くし、本当に賢くてうらやましい」

「当然であろう、そなたら人間とは頭の出来も経験値も違うからの」

「え、ウーティリスちゃんって獣人かエルフか何か?」

「否、神なのら」

「え……神? ディマーユ様って事?」

「あーそのくだりはまた面倒になる奴だ……」


 本人も調子に乗っちゃって。

 神なんて事、そう簡単にバラすもんじゃないよまったく。


 仕方ないのでウーティリスの事も含め、色々と教えてあげる事に。

 すると途中から理解が追い付かなくなったのか、チェルト氏が頭を抱え始めてしまった。


「えーっと神がウーティリスでディマーユ様がいなくてばーん!」

「投げ出したッ」

「ごめんね私、読み書きがギリギリなくらい頭弱いから」

「そこを正直に言う所は評価するに値するのう」


 なるほど、チェルト氏は脳筋、と。


「それとわかった!」

「なにが?」

「チェルたんは許してあげるけど、チェルト氏はやめてほしいの」

「そこまで巻き戻ります!?」

「呼ぶなら呼び捨てにして欲しい。それでいいでしょ?」

「いや、よくないけど? なんなら外だと様付けだけど?」

「なんでぇーーーっ!!!」


 気軽に呼んで欲しいのはわかるが、やはり世間体は大事だ。

 気持ち的には呼んであげたいけどさ、それやったら俺の首が飛ぶ。


 だからせめてその世間体が改善されるまではちょっと我慢してて欲しいな。

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