第13話 目指すは俺達だけでのダンジョン攻略

 さっそく近場でダンジョンが出現したらしい。

 しかも上級――半年に一回出るか出ないかという珍しいタイプだ。

 これには最高峰ランクであるA級勇者や、最悪は国家所属のS級勇者スペシャルズが出張る場合もあるという。


 なにせ中に潜んでいるのはいずれも強力な魔物ばかり。

 加えて最奥には魔王と呼ばれる災害級の強さを誇る魔物が潜んでいるのだ。


 だからこそ勇者達も緊張を隠せないらしい。

 そこらにふらついているのは大半がB~C級勇者だしな。

 でもきっとA級に限ってはどっしり構えている事だろうさ。


 なおA級は総勢四人。

〝砕牙皇〟デネル=オウヴン。

〝魔迅将〟キスティ=ニア。

〝不死生〟アーヴェスト=フライク。

 そして〝閃滅候〟ギトス=デルヴォ。

 いずれも負け無しの強者達だ。


 ま、ほとんどが俺にはまったく関係のない奴らだけどな。


 だから俺は気楽な風体で家へと戻る。

 ギルドで得た情報をしっかりと頭に叩き込みながら。


「どうだ、ダンジョンの情報は得られたか?」

「ああ、バッチリだ! 上級ダンジョンの情報をしっかりと手に入れたぜ」

「でかしたぞラング、にゃっははは! これでわらわ達の勝利は不動となろう!」


 それで帰ってくればさっそくウーティリスの笑顔が迎えてくれた。

 わざわざこんな事いわなくとも思考を読んでわかっているだろうにな。


「それで厳密に、何をするんだ?」

「決まっておろう。勇者どもよりも先にダンジョンを攻略するのら」

「……え?」


 いや、まてまてまて!?

 勇者達よりも先にダンジョン攻略!?

 最弱の採掘士である俺が!? 上級ダンジョンを!? 魔王も!?


 ムリムリムリムリムリィィィィ!!!!!

 んな事できる訳がないだろう!?

 いくら無限穴掘りがあるからってそこまではさすがにきついってェェェ!?


「誰も全部倒すなんて一言もいっとらんではないか」

「だ、だが攻略ってそういう意味ではなくて?」

「ちょい違うのう。彼奴らが狙うものだけを得られればそれでよいのら」

「え……」


 なんだ、違うのか?

 ならどうするつもりなんだ?


「ひとまず地下に行くのらー」

「お、おう」


 まだウーティリスの意図は掴めない。

 しかし冗談ではなさそうだから、とりあえず彼女についていく事に。


 それで地下にまたやってきたのだが。


「うーむ、やはりダンジョンの気配はここからでは感じぬのう」

「近くに行けば感じ取れるのか?」

「さよう。あるいは方角さえわかれば感知だけはできるかもしれぬ」

「だったら、出現したのは北西らしいからそっちを見てみる事はできるか?」

「やってみよう」


 さっきの話とはまるで違う話題だ。

 もう行く気満々じゃないか、ウーティリスの奴。

 せめて答えくらいサクッと教えて欲しいんだが?


「ふむ、見えたぞ。微かだが確かに感じる。出現したのは間違いないであろうな」

「じゃあどうする? 今から出たとしても外は魔物だらけでとても歩けないぞ?」


 しかし俺の心配をよそに、ウーティリスはニヤァとした笑みをこちらへ向けてきた。


「誰が表を歩くと言うたのら」

「えっ?」

「ククク、ラングには無限穴掘りがあるではないかぁ~!」

「あっ!?」


 そ、そうか、そういう事か!


 たしかに今から表を歩けばいくら勇者だって危険を伴う。

 だから夕暮れになった以上、明日を待つしかない。


 しかし地下を歩けば、魔物は一匹たりとも現れない!


 そう、道を掘って切り拓けばいいんだ!

 そして今の俺ならそれが容易にできる!

 

「つまり、俺になら勇者達の先回りができるって事だ……!」

「しかり! しかもわらわとそなたの力ならそれ以上の事もできよう!」

「お、おお……!」

「さぁ準備せよラング! 上級ダンジョンをそなたの手で攻略するのらぁ!」

「ああ任せろッ!!!」


 そうと決まれば話は早い。

 俺はすぐさままた自室へ戻り、荷物一式を穴へと投下した。

 そうしてすぐに戻り、手馴れたように装備を身に着けたのだ。


 ついでにと、気合を入れるために黒のマフラーを首へ巻く。

 家を出る時に母よりもらった入魂のお手製だ。


 もちろん最後には、荷袋にウーティリスを入れてしっかりギュッと背負う。

 当然ながらピッケルは忘れずにな。


「マトックの修理くらいは済ませておきたかったんだがな、間に合わなかった」

「かまわぬ。むしろ丁度良いくらいよ。スキルは得物の大小にこだわらぬゆえな。ま、強いて言うなら? 大きさ次第で気持ちが込めやすくなるというくらいかの」

「気合いのノリが違うよな、ははっ!」


 どうやらマトックのような大型具である必要はないらしい。

 なら今はこのピッケルだけで充分だ。

 やりきったあとで買い換えればいいだけだしな。


「ではまずはこの部屋から北西へと向かうのら! れっつらごーっ!」

「よぉし、行くぞっ!」


 こうして俺はピッケルを振り降ろして道を刻んだ。

 何度も何度も、北西の方角へと向けてただひたすらに進みながら。


 待っていろよ上級ダンジョン!

 俺が勇者どもよりも先にお前を掘り尽くしてやるからな!

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