第14話 俺の師匠はナイスバディ

 ウーティリスが導いてくれたおかげでやるべき事が見えた。

 俺の手で上級ダンジョンを攻略するという目的が。


 ただ、まだ何をするべきかは定まっていない。

 どこをどう攻略するのかまでは話してくれなくて。


 しかしそれでも、俺はただひたすら無心で北西へ向けて掘り進んでいる。


 別に今すぐ答えを導き出す必要はないからな。

 教えてくれる気になったらでいいさ。

 それまでに俺自身で閃けるかもしれないし。


「……さて、そろそろ一刻ほど過ぎた頃かのう」

「もうそれくらいになるのか」


 そうして掘り進めてしばらく経ち、やっとウーティリスが口を開く。

 時間を測っていたのか、それともダンジョンの位置を探っていたのか。


「それにしてもペースは落ちてないのら。しっかりと足腰が鍛えられているという証拠らの」

「ああ、小さい頃から勇者になろうとして鍛えていたからな。体には自信がある」

「そういえば思考しておったのう、師匠から剣を学んだと」

「そうさ。素晴らしい恩師だったよ」

「ラングが言うのだからきっと相当であったのだろうな」


 けどウーティリスはダンジョン攻略より俺の事に興味があるのだろうか。

 話題は気付けばこうして俺の過去の事に移り変わっていた。


 まぁでもいいさ、俺としても思い出したいくらいの記憶だ。

 今までも何度も思い返してきたものだし。


 ……ああ、何度思い返しても懐かしいな。

 まだ小さい子どもだったあの頃、俺は師匠に散々鍛えられたっけか。


「あの人も勇者でな、俺の故郷の村を守ってくれていた。そしてひょんな事で知り合い、教えてくれたんだ。『勇者とは困っている人を助けるものだ。弱きを救い、平穏を導く存在なのだよ』ってね」

「ふむ、良い心がけらのう」

「ああ、それにとても強い。だから俺達はあの人に憧れて弟子入りしたのさ」


 あの人はある日ふらっとやってきて、何の因果か村を守る事になった。

 それからしばらくして俺とギトスはあの人と知り合い、そして師事する事にしたんだ。


 もちろんいい事ばかりじゃない。

 たまには小言を言われて。

 時には厳しく罵声を浴びせられて。

 けれど何一つ間違った事を言わず、必ず俺達に正解を導かせてくれた。


「春も夏も、秋も冬も、ずっと変わらず修行し続けたよ。飽きようとも、へこたれようとも、学業や農作業の後だろうが構わず、ただひたすら体造りを徹底させられたね。思い出すだけで吐きそうになるくらいにさ」


 そのおかげで俺とギトスは気付けば村随二の剣士になっていた。

 巡回警備の人よりもずっと強くなっていたっけな。

 おかげで当時から家を出る事に何も不安はなかったもんだ。


「それで師匠が自己都合で村を離れる事となった時、約束したよ。『必ず勇者になって、あなたのようになります』ってね。まぁその約束はもう叶わないんだが」

「……そうか」

「その時は『勇者ってなんてすばらしいんだ!』って思っていたよ。だから現実を知った時、随分と幻滅したもんだ。師匠とはまるで考え方が違うんだってな」


 あのギャップには随分と悩まさせられたものだ。

 おまけにギトスとの仲違いもあったから、悩みすぎて頭が痛くなるほどだった。


 今思えばアイツはもうその時には勇者の真実を知っていたのかもな。

 だとすると俺が単に世間知らずなだけだったのかもしれない。


「けどさ、俺はまだ当時の心意気だけ忘れちゃいないよ。いつかは採掘士だろうと人を救えるようになりたいってな」

「ラング、そなたは……」

「おう、ウーティリスのおかげでその夢や約束が叶えられるかもしれないってわかったしな!」


 そうさ、俺の中にはまだ師匠の志が残っている。

 あの人のたくましく凛々しい姿と共に。


 ああ思い出すだけで心が高鳴るようだ。

 あのボンキュッボォォォンな体で戦う姿のなんと素晴らしい事かッ!

 俺もギトスもあの光景に釘付けでもう、ああもぉぉぉう!!!!!


「そか、そなたはそういう女子の方が好みなのらなー」

「ああーっやめてぇ! その思考だけは読まないでえっ!!!」


 仕方ないじゃなぁい! だって青春時代の思い出だしぃ!

 子どもにはあまりにも刺激的で絶対忘れられない光景だったんだよぉーっ!!

 そりゃもう胸があそこまでバルンバルンッで時々色々見えちゃってたらさぁ、もう絶対ドキドキしちゃうでしょおがっっっ!!!!!


「……そなたの師匠、実は露出狂だったのでは?」

「言うなッ! 薄々感付いてはいたけど気にしないようにしてたんだよぉぉぉ!」

「んっふふ~、そんなに見たいならわらわが見せて進ぜようっ」

「いや、小さいのには興味ないんで」

「ギリィ!!!!!!!!!」


 すまないがウーティリス、これだけは譲れない。

 俺は師匠のあのスタイルを見続けて育ってきたからな、完全に巨乳好みなのだ。


 ……まぁそんな好みと俺の夢はまったく関係無いけど。


 とはいえそうやって惹かれたからこそ、あの人に見捨てられたくもなかった。

 そしてそれ以上に「あの人に相応しい男にもなりたい」って欲望も微かにあったから頑張れたんだろう。

 そこだけは否定するつもりはない。


「なるほど、それがそなたの意志の根源という訳か」

「不純かもしれないがな、それでも憧れたのは嘘じゃない。だから俺にとっての正義っていうのはあの人のものが理想形なのさ」

「そうか……よしっ、あいわかった」


 なんだ? 何かを理解したような事を言って。

 ただの興味本位で聞いていた訳ではないのか?


「なればそなたに問おう」

「問う? なにをだ?」

「とても大事な問いなのら。ゆえに心して考えて答えるがよい」


 急に真面目になって、あいかわらず何を考えているのかわからない神だ。

 でも別に構いやしない。答えて欲しいというのなら答えてやるさ。


 なんたって俺はどんな事でも誠実に対応する男だからな!

 それこそが俺の思い描いてきた勇者像なのだから!

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