第12話 ここ掘れ秘密の地下室!

 俺の寝室の床に穴が掘れた。

 人一人が通れるくらいの細い縦穴だ。

 深さはだいたい五〇メートルくらいといった所か。


「なにをしておーる! はよ飛び込まんかーっ!」


 とかなんとか考えている間にもうウーティリスが穴に落ちて待っていた。

 つか、この高さから落ちて無事なのが信じられないんだが?


 改めて見ると、やはり深い。

 落ちたらこれ、間違いなく死ぬよな……?


『ええからはよ来るのら。わらわが受け止めてやろう』

「いいのかそれ!? くっ、仕方ない、やってやるうううーーーっ!」


 だが俺はもうウーティリスを信じると決めた!

 だったら彼女の言う通りにしなければ、自分自身を裏切る事になる!


「ンヒャオオオオオオォォォォォォーーーーーー!!!??」


 ゆえに俺は意を決して穴に飛び込んだのだ。

 下を向く事さえ許されないほどの細い穴へ、叫びを上げながら。


 ――しかし直後、「ぷにゅん」とした感触と共に勢いが止まった。


「よしよし、やっときたのら」

「うーちゃんって、力持ちだねぇ……」

「ニャハハハ! どうだ神の力を思い知ったかー!」


 どうやら彼女、両手を掲げて俺を受け止めたらしい。

 少女にこうもたやすく受け止められるのって、なんだか男として複雑だ。


「では次にちょっとした空間を掘るのら」

「具体的にどれくらい?」

「人の部屋くらいでかまわぬ。強いて言うならあのクッソ狭い寝室の三倍くらい?」

「あれでもなけなしの給料で得た自慢の寝室なんですぅ!!!」


 いいさ、どうせ俺は甲斐性の無い男である事に違いないもん!

 あんな家、いつか豪邸に立て直してやるんだからーっ!


 ……さて冗談はさておき、言われた通り部屋を作るとするか。


 とはいえ作業自体は楽だった。

 ただピッケルを適当に振るだけでよかったから。

 あとは普通の部屋となるよう意識するだけで勝手に出来上がってくれた。


「うむ、よいではないかー!」

「それで、ここは何のための空間なんだ?」

「わらわの私室なのら」

「そ、そう……」


 半ば騙された気がするがまぁいい。

 ウーティリスならきっと無意味な事はしないだろうから。


「ちなみに後で穴の所に上昇気流を発生させる魔法陣を設置しておいてやろう。これで行き来が楽になるのら!」

「それなら普通にハシゴとか設置すれば――そうか、お金がないんだった」

「うむうむ。まぁ内装に関してはまだ仕方あるまいの。少しばかり猶予を授けておいてやろうぞ」

 

 稼ぐまではこの部屋もみすぼらしいままだな。

 でもいつかはこの部屋を彼女らしい形に仕立ててあげたいものだ。

 俺の家はあのままでもかまわないが、ウーティリスの分くらいは飾ってあげたくも思う。


「良い心がけなのら。まぁそう思える心がラングの良い所と言えよう」

「なんだよ、急に褒めるなよ恥ずかしい」

「んふふ、ならご褒美に夜の相手でもしてやろうかの?」

「や、やめろよ。そういう事は別に求めちゃいないっての……」

「やっはーーーからかい甲斐満点な男らのう~!」


 まったく、人をいじるのも大概にしてほしい。

 こっちは真面目に従っているんだから。


 さて、これでやる事は終わったのか?

 ここからどうギトス達に泡を吹かせる?

 まさか本当に私室を造っただけとは言わないよな?


「そうあわてるでない。これはあくまで下準備にすぎぬのら」

「下準備?」

「うむ。ではラングよ、次はダンジョンの情報を仕入れてくるのら。それもできればまだ誰も手を出していない場所がよい」

「ダンジョンの情報、か……まぁそれくらいならなんとかなるな」


 しかし案の定、ウーティリスにはまだ思惑があるらしい。

 だとすれば善は急げ、だな。


 幸い、ダンジョンの情報だけなら手に入れるのは簡単だ。

 ワーカーギルドに戻って、それらしい情報が出てくるのを待つだけでいい。

 別に隠す事でもないからな、勇者達やギルド員の動きだけでもわかる。


 そんな訳で俺はウーティリスの力で自室へと戻してもらってすぐさまギルドへ。


 するとギルド庁舎へと辿り着くや否や、さっそく動きが見えた。

 あの勇者達の走る姿を見るに、ダンジョン攻略準備の真っ最中かな?


 そこで俺は再び建屋に入ってナーシェさんの下へ行く。

 今は勇者達以外の仕事がないからかな、暇しているようなので丁度いい。


「ナーシェさん、一体何があったんです?」

「ええとですね、どうやらダンジョンが出現したみたいなんです」

「それにしては割と慌てているように見えるけど?」

「それが、現れたのはどうやら上級ダンジョンみたいで」

「上級……って事は魔王ってのが現れる可能性があるのか」

「はい、そうなります。外に出てくる前になんとか排除できればよいのですが」


 やはりか。

 ちょうど都合良くダンジョンが沸いたばかりらしい。


 しかも上級って事だからかなりヤバめだな。

 おそらくはあのギトスも出張る事だろうよ。


「そうか、大変だな。……ところでどこらへんに沸いたかは聞いてる?」

「えっと、北西にあるナビッシュ平原街道の中腹だそうです」

「歩いて二時間くらいの所か。割と近いね」

「ええ、それなので早急に事を進めるつもりらしいですよ。明日の早朝に出発して、すぐ攻略開始するそうです。すでに監視者モンタラーや防衛役の勇者様が配置済みなのでまだ平気みたいですけれど」


 なるほど、準備は万端って訳か。

 あとは攻略役の勇者達が到着すればいい、と。


 なら猶予は今夜一杯。

 その間に何かをすればいいという事だ。


「ありがとうナーシェさん。あ、お仕事であんまり無理はしないでくれよな」

「ええ、ラングさんありがとうございますっ!」


 彼女の事を利用したのは心苦しくも思う。

 けど利用したからには迷惑をかけない程度にやりきってみせるよ。


 君の笑顔を守るのも、俺がやりたい事の一つだからな。

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