第25話 サリエルの提案
あれからさらに四ヶ月が経過した。この四ヶ月間は《座標移動》は使用していない。流石に危険過ぎるとあってか、生命力回復の装備が出来るまでは封印している。
ちなみに、その装備はまだ出来てない。
どうもその鍛冶師は相当な凝り性らしい。彼曰く、「納得のいく作品が出来るまでちょっと待っててくれ。」だそうだ。時間にルーズな天使族のちょっとは一体何ヶ月を意味しているのだろうか?下手したら年単位で見ておく方が良いだろう。
そうして装備が出来るのを待ちながら、日々を過ごしていたある日のことだった。僕と姉二人で仲良く宮殿の中庭テラスでお菓子が食べながら雑談に花を咲かせていると、突然サリエルさんから呼び出しが入った。
ついに装備が?とも思ったが、姉二人も同時に呼ばれてることからもそれはないかと考えを切り捨てる。
《転移》でサリエルさんの前に立つなり、姉二人からの強烈な言葉による攻撃が飛び出す。
「サリエル様、急になんですか!?せっかく三人で楽しんでいたのに!!」
「本当そう!!ちゃんと説明して!!」
無作法に扉を開けて入ると、ドンッと机を叩き猛抗議する姉二人。
それもそうか。この二人からすれば、滅多にないお菓子の時間を邪魔された訳だからね。そりゃあ、お怒りですわな。
「あはは…それはまた
突然すぎる発言に言葉が詰まる。
『……と言いますと?』
「いやねー。もうだいぶ模擬戦で経験積んでるし、そろそろ実戦の段階に移っても良いかなと思ってね。一応、言っとくけど、まだ皆伝って訳じゃないからね。」
『あ、はい…。』
まぁ、しゃーないよね。だってサリエルさんは勿論だけど、姉二人との模擬戦だって、殆ど攻撃を与えられずに意識を刈り取られちゃうからね。
その他にも、これまでにカルミナさんやルドさんを筆頭とした使用人の人たちにも挑んでみたけど、結果は手も足も出せずに全戦全敗。しかもその中にはその場から一歩も動かないという縛りを設けたにも関わらずの戦いがいくつもある。
なので今更、免許皆伝じゃないと言われてたところで特段悔しいとは思わない。
『ちなみに実戦って言うと具体的にどこで何と戦うんですか?』
「それなんだけど、異界で下級邪人と戦ってもらうわ。」
『え?異界…ですか?』
えっと、あれだよね?昔から邪人に侵攻され続けている場所だったよね?で、今も天使族と悪魔族が共闘して世界を守ってるんだったはず。
「そうよ。別にここでも良いけど、どうせなら異界で派手に暴れてもらおうってこと。今のヘレンちゃんの実力なら、中級までならなんの問題もないはずよ。」
なるほどね。修行にもなるし、侵攻する邪人を蹴散らすことが出来る、一石二鳥の発想だ。
『わかりましたけど具体的に異界ってどういうところなんですか?』
素直に質問してみる。これまでも異界について少し触れられていたが、改めてここで聞いてみるのも一教だろう。
「あーそれについてはリディ、説明お願い出来るかな?異界なんかは私より貴女の方が詳しいだろうし。」
よりにもよってリディ
リディ姉はそんなサリエルさんの性格を知っているからなのか、溜め息一つして了承する。
「はぁ〜了解です。後で説明しときます。」
「ありがとね。」
両手を合わせて清々しい笑顔で感謝を述べる。
この人もちゃっかりしてるなー。
「それで話しが少し脱線しちゃったけど、どうかな?」
そんなの答えは最初から決まってる。
『行きます。ちなみにサリエルさんも同行するんですか?』
「いえ、残念ながら私は色々と事情があってここから動けないの。そこでヘレンちゃんの護衛兼代理人として貴女達にも行ってもらいたいのだけどどうかな?」
そう言って姉二人に目を向ける。しかし、極度の妹好きの二人の選択肢に「いいえ」は存在しない。二人とも即断即決で答える。
「当然!!。」
「お姉様に同じく。」
そう言うと思ったよ。
「ヘレンちゃんもそれでいいかな?」
コクリと頷き同意を示す。
僕としても異論はない。まあ仮にあっても三分の二が賛成してる現状で、異を唱えたところで無意味なんだけどね。
こうして異界へ赴くことが決まったのだった。
◆◆◆
・一応、転生から4年が経ってることもありリディアとレイラーの呼称が変わっています。
主人公が喋るときは「リディお姉(ねえ)様」「レイお姉(ねえ)様」、それ以外は「リディ姉(ねえ)」「レイ姉(ねえ)」の認知でお願いします。
※主人公は「シ○コン」=「シス△ン」という言葉を知りません。思春期が来る前に転生した設定。
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