第26話 異界について

「そうそう。この話しは私からセザたちに説明しとくから。」

『ですけど大丈夫ですか?』


 お父様とお母様は僕を生み出した際の代償のせいで、身体が弱体化しているため、動きがかなり鈍い。例えは悪いが、まるで衰えた老人のようだ。


 まぁ、当初は重度の疲労状態で椅子からほとんど立つことが出来なかった頃を考えると今の状態は少しずつではあるが回復に向かっている。…だがそれでも心配なのだ。


「その辺は心配しなくても大丈夫よ。あの二人は可愛い子には旅をさせるような考え方を持つ子だし。」


 サリエルさんは僕の求める答えとは的外れの返答をする。僕の言葉が足りずに間違った解釈をしたようだ。


『いえ、そうじゃなくて弱体化してるのに放置しても大丈夫のかなって。」

「え?あー別にあの二人はこれが初めてって訳でもないよ。それこそリディとレイはずっと放置してたじゃない。」

『そうなの!?』


 驚きながら姉二人を見てみると、リディねえは苦笑いに、レイねえはスッと顔を背ける。反応からして、心当たり有りまくりのようだ。


「まぁ、ヘレンちゃんのその精神も尊重すべきだけど、そこまで心配しなくても良いってことよ。」

『んーそれなら良いけど…。それで、話を戻しますけど、それはいつの予定です?』


 話が逸れかけていたので戻しつつ、重要なことを聞いておく。


「あーそれはこっちの用意が出来次第呼ぶからそれまではなんか適当にしてて。」


 ん?用意?


 普通に考えて異界へ赴くのは僕と姉二人であってサリエルさんではない。


 手紙でも書くのか?仮にそれだったら気にすることでもないが…。


 執務室を退室し、いつもの廊下を姉二人に抱き使れながら歩きながらそう考える…も結局答えが思い付かず、僕は異界のことについてリディねえに聞いてみる。


『リディおねえ様、早速だけど異界のことについて教えて?』

「んーわかったけど、そんなに語れるものでもないよ?」

『それでも良いです。』


 そう返すとリディねえが説明を始めるが、その説明はとても簡潔だった。なにせ、一言だけだったのだから。


「異界の言うのは太古の昔から今に至るまで、無限に湧き出る邪人どもとの防衛戦が継続して行われているところ。はい、以上!!」

『え?それだけですか?』

「だって他に語れることなんて無いんだもん。」


 え?そんなに語れるもの無いの?あるいは早く続きをしたいのか。それともただ単に面倒なだけなのか。いずれにせよ、これじゃあ全然話が進まないな。


 そう思っていると案の定、隣にいたレイねえのツッコミが入る。


「おねえ様、流石にそれは短い。」

「えー他に何かあったっけ?」

「侵攻してくる邪人に対抗するために各系統が一定の戦力を派遣していることや異界門とかあるじゃない!!」

「でも、それ説明するべきかな?」

「一応、異界関係なんだから説明するべき。」

「もう、しょうがないな。」


 レイねえの説得により再度説明が始まる。


「えーと、異界では侵攻する邪人に対抗するために各系統が一定の戦力を交替制で派遣しているの。」


 へー交替制なんだ。


「まぁ、異界って統制機関以外なんにも無いからね。単純にモチベーションの維持だと思うよ。ちなみに私たちの系統からも何人か派遣されてるの。多分、ヘレンちゃんも戦遣隊に会ったことがあるんじゃないかな?」


 あれー?そんな人居たっけ?んーあ!!!


『もしかして、お披露目会の時に居た人たち?』

「何人か違う系統のやからが混じってたけど、一応それで合ってる。」


 へーあの時、別の系統も居たんだ。全然気付かんかったわ。というかよく見分けられるな…いや、むしろ何百年も一緒に暮らしてたらそれぐらいは把握出来るか。


『なんで違う系統の天使がいたの?』

「さぁ?単純に付き添いなんじゃない?それか息抜きか。まぁ、一つ言えることは、機関が指示を出してるとは言えど、戦果さえ挙げていれば、多少の勝手は見逃されるし。」


 意外や意外。結構ガバガバだった。


『そこは曖昧なんだ。』

「そうね。じゃあ次は異界門について説明するね。」

『うん。』

「異界門は読んで字の通り、ここと異界を繋ぐ門で、これは"天界"と"冥界"にそれぞれ七つずつの合計十四箇所存在してるの。」

『そんなに!!というか天界ってことはここにもあるの?それっぽいのは見たこと無いけど。』

「ヘレンちゃんが見たことないのは当然ね。なにせ門は神殿の地下の最奥にあるもの。」


 そんな所にあったのか。確かに行ったこと無いな。


『なんでそんな所に?』

「さぁ?防衛線が陥落しちゃった時のための保険なんじゃないかな?レイは何か知ってる?」

「お姉様が知らなければ、私も知らない。」

「そうかー。これについてはしょーがないし、最後に統制機関を説明するね。」

『お願いします。』

「えーと、統制機関を簡潔に言うと『天使族と悪魔族がバラバラに戦闘をすると非効率だからここで役割を分担して効率良く戦いましょ!!』ってところよ。」


 ふむふむ。


 要は部隊の変遷や指揮を担ってる機関か。でも、それぞれ異なる系統が集まるともなれば、色々と揉めそう。


『へーその機関のおさって誰がやってるの?やっぱり神様?』

「いえ、始原と原初の方々とで交互に一定周期で交替してるの。公平性を保つためにね。」

『そうなんだ。ちなみに今は誰がおさをやってるの?』

「んー、私が最後に異界へ行った当時のおさは始原のガブリエル様だったことは覚えてるんだけど、今は知らない。偶にストレス発散で行ってるけど、休魂地ヴァルハラの管理とかで二百年ぐらい正式に機関の指揮下に入ってないからわからないわ。」


 二百年!?流石は天使族。時間の感覚がバグってるな。


「とまぁ、こんな所かな?レイからは他に何か無い?」

「私からも特には。あとは向こうで気になったら聞けば良い。」


 レイ姉【ねえ》からも特に無いようだ。


「よし!!説明も終わったし、さっさと再開しましょ。」

『ん。』


 こうしてはサリエルさんに呼ばれるまで、ゆったりとお菓子を食べながら雑談を楽しんだのだった。



 ◆◆◆


※主人公が喋るときは「リディおねえ様」、それ以外は「リディねえ」の認知でお願いします。



・転生から4年経ってるので両親の呼称も「お父様とお母様」へと変わってます。



・姉二人は説明中もずっとヘレンにくっついていたり…。流石に慣れているだろうけど、その溺愛っぷりは変わらないですねー。

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