第24話 《座標移動》を使ってみた ②

『んーん?』

「あ、気が付いた?」


 僕は全身の温もりと香水の心地良い香りを感じて目を覚ます。


 起きて状況を確認すると、僕はサリエルさんの膝の上で寝ていたようだ。転生してるとはいえ、なんだか恥ずかしく感じてしまう。


「あら?もう起きちゃうの?もうちょっと可愛い寝顔を眺めていたかったのにー。」

『今はそんな冗談は要らないです。それより、あの紙はどうなりました?』


 僕の問いの後、小声で「冗談じゃないのに…。」と聞こえたような気がした。仮に言ってたとしても、もうその反応には慣れてるので無視しておく。


「…せっかちね。まぁ、良いけど。残念ながらあの通りよ。」


 そう言って人形まとを指し示す。そこには無傷の人形まとと地面に刺さる紙があった。誤差は五メートルと言ったところか。立っていた場所からやや左側に逸れてしまったようだ。初めにしては上出来だと思うが、感情的には悔しさの方が勝っている。


「まぁ、気にしないで。最初なんてそんなもんよ。それに失敗の原因は頭痛による集中力の阻害でしょうしね。」

『そう…ですか。』

「スキル代償の軽減スキルがあれば、苦労はしないんだけどねー。私の知る限り、そういう類いのスキルなんて聞いたことが無いから。それでどう?今日はここまでにしとく?」


 続けるかどうかを聞かれたが僕の答えは決まっている。


『いえ、やります。遅かれ早かれ、必ず通らないといけない道なので。』


 無理そうなら無理で諦めが付くが、こんな中途半端なところで終わる訳にはいかないのだ。

 

「…でも無理なら無理ってちゃんと言ってね?もしヘレンちゃんに何かあったら、私またあの二人怒られちゃうから。」

『フッ。違いない。』


 若干、苦笑い気味にやり取りをするサリエルさんと僕。それだけで、互いに色々と通じ合った。


 サリエルさんも色々と苦労してるんだな。


 僕も僕で、あの二人が常時くっついているせいで、プライバシーも何もあったもんじゃない。レイ姉はまだ全然まともな方だけど、リディ姉なんて時には気配を消して、背後から突然抱き付いてきたり、匂いを嗅いだり、痴漢紛いなことをしたりと、恐怖を感じさせる行動をすることもある。…というかぶっちゃけ、めっちゃ怖い。


『なんというか...色々とお疲れ様です。』

「ええ、ありがとう。」

『それで話を戻すけど、次はどうしたら…。』

「んー、それじゃあ、次はここからやってみて。」

『ここから...ですか?』


 思わず聞き返してしまった。何故なら僕が立っている場所は最初の立ち位置とは打って変わってめっちゃ近いのだ。距離にして五メートル。


「これはあくまで私の推測なんだけど、多分さっきのは距離が遠過ぎたせいで無駄に演算に脳を酷使しすぎたんじゃないかと思ってね。」

『は、はぁ…。』


 それで負担が軽減されるなら良いんだけどさ、もっと早めに気付いて欲しかったな。


 本当、サリエルさんの感覚を僕に押し付けないでもらいたい。


 そう内心では愚痴りながらも、本題は忘れない。僕は紙を手に持って集中する。狙いは約五メートル先の人形まと


『ゔぐぅぅッ!!』


 二回目と比べると遥かに楽になったが、それでもまた耐え難い激痛が襲い掛かる。だがそんな軟弱なことも言ってられないので全力で耐える。


 やばい…また…意識が…。


 意識の限界を迎えそうなタイミングで手の中、紙の感触が無くなったと同時に身体の力が抜けて地面に倒れる。既に意識が途切れそうなのだがいつもと何かが違う。


 あ、あれ?力が入らない。というか身体が石化したかのように動かない。なんで?おかしいな?


 外傷は負って無い上、意識はまだギリギリ保てているのに、どうしたことか指一本動かない。すると、その様子を見ていたサリエルさんが焦った声色で駆け寄ってきた。


「まずい!?生命力が!ちょっと待っててね!!」


 その言葉の直後、いつもの《治癒魔法》とはまた違う、暖かい黄緑色の光が身体を包み込む。


 数秒が経つと先程までは指一本動かなかった身体に活力が戻る。


『い、今のは?』

「ん?ああ今のはら《生命魔術》よ。ヘレンちゃんの様子がいつもと違うから不審に思って《鑑定》したら生命力の値が危険域まで下がっててね。急いで回復させたのよ。恐らくは《座標移動》を繰り返し使用した代償なんでしょうね。流石の私もここまでとは想定してなかったから本気で焦ったわ。」

『いえ、ボクの方こそ強がってました。というか生命力が低下すると身体が石化したかのように動かなくなるんだね。』

「そりゃあ、壊死しかけてたからね。動けなくなるのも当然よ。」


 ……え?


 僕の何気ない一言にサリエルさんがサラッと答えたのだが、その内容に身の毛がよだつ思いがした。


「…これだと《治癒魔術》じゃ心許ないわね…。ちょっと知り合いに頼んで、生命力回復特化の装備の製作を依頼してみるけどどうかな?。」


 突然、装備製作の提案を持ち掛けられた。


『え?良いの?』

「ええ、腕は私が保証する。それになにより彼も最近、製作依頼が無くて悲しんでいたから嬉々として受けてくれるはずよ。」

『なるほど。じゃあ、お願いします。』

「了解。私から彼に頼んでおくわね。」


 その後は剣や魔術の撃ち込みを数セットおこなって、この日の修行は終わったのだった。



 ◆◆◆


・姉二人、特にリディアの変態性に恐怖するヘレンさん。性器や性欲の無い天使族で良かったね。マジでwww



・Q:何故、匂いについての詳細まで書いているのか?


 結論、異世界系って大体中世ヨーロッパが舞台(作者の勝手な偏見)なんだけど、当時ってペストの原因は"水"にあると考えて風呂に入らなかったらしいです。そのせいで体臭が酷かったそう。(それにより香水が生まれたらしい)


 そう言ったことが連想されないようにわざわざ書いてますw←無駄な努力


 ※香水は天使族や悪魔族の間で流行ってるおしゃれです。身体が汚れないため、体臭は発生しません。




何かあれば御指摘お願いしやす(句点のまる)

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