第19話 サリエルと雑談 ③

 事前に用意していた質問を全て聞き終わった僕は今、休憩がてらに出された飲み物を飲む。


 色は濃い黄色で香りは柑橘系、味は若干酸味の強いオレンジジュースで美味しかった。


 サリエルさんも出された紅茶を飲み終えたようなので、また説明を始める。


「(それで地上に邪人がいる理由なんだけどね。)」


 そう言うと、途端に笑みが消え、苦虫を噛み潰したような表情で前置きを挟む。


 その表情から既に嫌な出来事なのは疑いようがないだろう。


「(今から大体二千年くらい前に地上のベルモー大陸の南西辺りにアストアミ魔帝国っていう大国が存在してたんだけど、その国は大陸を統一するために侵略戦争を起こしたのよ。)」


 侵略戦争か...。それはまたとんでもねー野蛮国家だな。


 ただ敵を増やしすぎたせいで、各方面で反撃をくらい形勢が逆転。次第に戦況が悪化し始めると、アストアミ国内でも反乱が発生したそうだ。


「(そしてあの日、戦力が足りなくなったからその補充として何をトチ狂ったのか異世界人の未知の力を利用しようと、子供の奴隷たちを生贄に異世界人召喚を実行したのよ。異世界人の召喚は地上では"禁忌"として、私が使徒さんと聖女さんを通して伝えてるはずなんだけど、あの馬鹿野郎はなんの躊躇も無く使用を命じたのよ!!)」


 怒り口調全開で毒を吐きまくる。その怒りは二千年以上が経過してもなお、実行犯たちに向けられていた。


 にしても子供を生贄って…しかもそれを国家が容認するとか確かにイカれてるな。侵略戦争を繰り返してる訳だから戦場付近の町村なんかで捕らえたんだと思うが、何にしろ胸糞悪い話しだな。


「(そしたら召喚されたのは異世界人…ではなく、異界で侵略を繰り返す邪人だったの。それも私ぐらいでないと太刀打ちが困難な侯爵級のね。それ以外にも数多の上級から子爵級までの邪人が一斉に召喚され、地上に解き放たれてその地域一帯はおろか、ベルモー大陸そのものが地獄と化したわ。)」


 サリエルさんクラスでないと太刀打ち出来ないって…話しを聞いただけで、用意に当時の悲惨な光景が脳裏に浮かぶ。


「(で、その後はもう大変の一言よ。事態を知った私は大急ぎで他の始原と悪魔の原初に協力を要請し、邪人討伐に派遣したわ。ちなみにだけど、当時セザは観光目的で地上にいてね、偶然にもベルモー大陸にいた彼女がいち早く異変に気付き、侯爵級邪人を相手に時間を稼いでくれたおかげで、どうにか討伐には成功したわ。)」


 マジか。そんな大事件に母が絡んでたなんて…。


「(まぁ、あの戦いで二人の天使と一人の悪魔が犠牲となってしまった訳だけど…。)」


 そう言って冴えない表情で手を強く握るサリエルさん。その姿からは親しかった友人を亡くした悲しみが濃く感じ取れる。


『(もしかして、その亡くなった天使っていうのは…。)』

「(ええ、長い間付き従ってくれた私の重臣よ。あとはウリエルの系統の天使とのルシファー系統の悪魔ね。)」

『(そうですか…。)』


 それ以上は聞かずに僕は静かに目を閉じて黙祷する。亡くなった罪の無い人々と命を燃やして奮戦した三名に…。


「(それで説明に戻るけど、侯爵級邪人の討伐には成功したけどその頃には上級邪人どもは海を越えて世界中に散らばってしまってね、動ける天使族を総動員して、およそ百年にも渡って全世界を捜査と討伐を実施したけど、結局全個体の討伐が出来ずに現在に至るということよ。)」

『(なるほど…。)』


 とんでもないぐらい壮大な歴史だ。それだけで一本の映画が出来てしまうのではなかろうか?


『(そう言えば気になったのですが、実行犯はその後どうなったんですか?流石に死亡したと思うけど。)』


 サリエルさんの説明から想像するに、その魔帝国が滅亡したのは確実だろうし、被害も馬鹿にならないはず。なら、邪人の召喚を実行した者たちは最初に殺されてても不思議ではない。


 しかし、返ってきたのは僕の予想だにしないものだった。


「(あの時に馬鹿どもは確実に死に絶えたわ。でもね、私がその程度で許すと思う?)」


 え?


「(面倒事を増やしただけでなく、私の大切な配下を死に追いやった悲劇を引き起こしてくれた元凶にはそれ相応の制裁が必要だと思わない?)」

『(お、思いますとも…。)』


 屈託の無い笑顔で問いを発するその姿に、僕は出るはずのない冷や汗を流しながら応えるしかなかった。


「(そうよねー。実はあの後、実行犯共の魂はきっちり記憶を残した状態で回収して神々の大裁判に掛けてやったわ。そして、その判決により今もなお、あの馬鹿どもは全員地獄の最下層で幽閉され、肉体と痛覚を与えられ、発狂することを封じてごうも…で苦しみ続けてるわ。)」


 エグっ!!まさか"死"よりも恐ろしい罰があったとは…。あとなんか物騒な単語が聞こえたような気がしたが、これは聞かなかったことにしよう。


「(それに輪廻転生の仕組みから考えても、地上から邪人を絶滅させないと解放されないからね。本当、良い気味よ。)」


 輪廻転生の仕組みがどんなものかは知らないけど、二千年以上が経った現在も実行犯達は囚われの身ってことだよね?


 流石は神様。少々重すぎる気もするが、やったことと天秤に掛けたらこれぐらいの罰でないと割に合わないか。


『(一応、事情はわかりました。ということは僕はその上級邪人なんかを討伐したら良いんですか?)』

「(あー別にそれは倒さなくてもなくいいよ。ヘレンちゃんに処理して欲しいのは下級邪人の方。私たちからすれば下級なんて雑魚も同然だけど、人類種族からしたら討伐すら命懸けだからね。倒せそうだったらやってくれても構わないし、無理そうならこっちに報告してくれるだけで良いから。)」


 随分と適当だな。


『(えーと、その辺は臨機応変に対応してくれと?)』

「(そういうこと。それと未討伐の個体は恐らく"隠れ邪人"って言う知能が高い隠密型で、もしかしたら人類の中に潜伏してる可能性もあるんだよね。)」


 隠密型って…。それに百年以上も天使の眼を欺き、世界に潜み続ける病巣。見つけるのは大変そうだなー。


『(でも百年以上もくま無く探しても発見出来なかったのにどうやって見つけたら?)』

「(普通なら困難を極めるでしょうね。でもヘレンちゃんには《真眼》があるでしょ?それは真実の眼で虚言を見抜くスキルだけど、そのスキル実はウィノア様がある細工を施しててね。その眼を通して《鑑定》をすると通常なら鑑定不能な邪人にすらも効果を発揮する優秀なスキルなのよ。)」


 その言葉を聞いた僕は一瞬思考が停止してしまう。


 はぁぁ!?何その出鱈目スキル!!!



 ◆◆◆


・1つのスキルに2つの効果がある設定なら問題ないよね?非戦闘系スキルなら良いよね???

(↑出来る限りチート設定を避けたい by 作者)



帝国…とありますが、実際は普通の帝国なんです。ただアストアミ軍が色々やらかしちゃったせいで後世でそう呼ばれるようになったとか。



【補足】

邪人は《鑑定》が出来ません。(これは邪神のイタズラでしょうかねー?)

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