第18話 サリエルと雑談 ②

 現在、僕は昨日連れて来られた部屋にてサリエルさんと対面している。


 何故対面してるのかだって?そんなもん決まってる。"人間と天使の違い"について聞くためだ。


 転生してから二日が経ったが天使の身体というものは異常だ。一応、これはあくまで人間だった頃の基準で考えるとだよ?


 …で、具体的に何が異常かと言うと、まずは転生してすぐのことだ。通常、生まれたてなら赤子として"誕生"のはずが天使の場合は赤子の過程をすっ飛ばしていきなり幼児スタートだ。


 あの後、召喚された説だったり、実は既に年月が経っていて何かの衝撃で突然記憶が覚醒した説なんかも考えたが、そうなると色々と矛盾点が出てくる。


 次に疑問に思ったのが食事や睡眠といった欲が全く湧かなかったことだ。というか空腹にならないし眠気も起きない。この状態が転生から今日こんにちまで続いている。この二日間、ほぼ姉二人と行動を共にしていたが、二人とも、食事や睡眠を取る気配すらなかった。もしかしたら天使は睡眠や食事の必要が無いのではないのか?


 そして最後が例の修行時のことだ。一応、中身は中学生でも僕の今の見た目は幼女だ。その僕よりも確実に質量のある武器を持つことが出来たこと。でもこれはもしかしたら人間でも探せば見つかるかもしれないからまだ良い。


 でも問題はその後だ。あの時は回避に必死だったせいで気付かなかったが、今思い返せば、あの動きは前世の僕…というか人間には到底真似なんて出来ないレベルだった。それも軽量化されたとはいえど、三十キロぐらいある月光剣ムーンライトを背負った状態でね。


 それはつまり、天使の基礎能力が非常に高いことを意味している。これもあくまで推測なので間違えてる可能性はあるが、ほぼ正しいと思ってる。


 最後はどうして地上に邪人が居るのかについてだ。


 これについてはあの時サリエルさんが「またの機会に話すわ。」とか言って誤魔化されたからね。この機会に教えてもらおうと言う訳だ。


「(それで?聞きたいことは地上に邪人が居る理由についてよね?)」

『(はい、それもありますが他にも"天使と人間の違い"についても知っておきたい。)』

「(あーそのことか。前世は人族だったらしいし当然ね。)」


 気付くのが早いねと言わんばかりに目を丸めて驚くサリエルさん。しかし、すぐに改まって説明を始めた。


「(まず私達は人間を人族と呼称してるんだけど、人族と天使族については結構違いは多いわね。特に身体の構造とかはね。人族の肉体って元素なんかで構成されているけど、天使と悪魔なんかは主に"魔力"や"生命力"、あとは″神の残滓″などで構成されているわ。…で、私達は勝手に″神の残滓″と呼称してるんだけど、この残滓を身体に宿す私たちって、いわば亜神のようなものなの。)」


 なんか凄い情報ばかりだな。亜神って…いや、確か【称号】にそんなのあったな。


「(そのおかげで、人族とは違って食事や睡眠と言ったものは不要だし、新陳代謝も起きないから身体を清める必要もない。それに肉体が魔素の塊みたいなものだから劣化することがないから不老と言っても良いし、身体能力も他種族の追随を許さないレベルで高いわね。その他にも———。)」

『(……。)』


 は、は、は…。


 もはや凄過ぎて言葉が出ない。というか今の説明で疑問がほぼ解消されたんだが…。


「(とまぁ、大きく取り上げるならこんな所かしらね。)」

『(す、凄いですね…。でもなんで悪魔族にも″神の残滓″が?)』


 これは僕の偏見だが悪魔にも"神の残滓"があるのには少々違和感がある。しかし、次の説明で納得した。


「(悪魔族の創造者がウィノア様だからよ。昨日話した通り、私たち天使族は女神様の手によって創造された種族。神が自らの手で創られた個体には神本人が気付かないぐらい微量の残滓が含まれていてね、それと同様のことが悪魔族でも起きているということよ。)」


 そっか、それに確かウィノアさんと女神さんは同格の神様だったはずだから同様の事象が起きてても不思議じゃないのか。


『(そういうことだったんですね。それと最後の疑問なんですが天使族の"誕生"って一体?)』

「(結構良い質問をするね。ちなみに天使族や悪魔族は無から有を生み出すから"誕生"ではなく"創造"と表現する方が正しいわね。)」

『(そうなんですか?)』

「(ええ。それに人族とは違って、私たちってこう見えても無性だから子供を生み出すためには己れの身を削る必要があるの。大気中の魔素を集結させ肉体を生み出したした後に、自身の魔力や生命力、神力などを練り上げて肉体に注ぎ込み続け、生命が宿るのを待つだけと言った感じね。まあこの作業、私みたいに一人でも出来るけど、基本は二人で組んですることが多いわね。)」


 情報量が多いし、思った以上に複雑な仕組みだった。


 それに二人で組んでようやく一人を創れるのを一人で出来るって…。この人の底が全く見えない。


『(ちなみにどれぐらい待ったら肉体が出来るんですか?)』

「(どうだろ?多分二、三年とかじゃない?)」

『そ、そんなにかかるの!?』

「(そんなポンポン生まれる訳でもないから詳しく把握はしてないけど、多分それぐらいだったはず。それに私たちの感覚からすれば一年なんて一日とほぼ変わりないからすぐよ。)」


 一年を一日と変わらないって...。一体何年生きたらそんな時間の感覚になるのやら…。


「(ちなみに身を大きく削ることになるから創造した後は反動で大きく完全回復に最低五十年かかるぐらい弱体化するわね。)」

『(五十年!?)』


 …いや、人間の出産とかも、大量に出血してしばらくは貧血状態になるって聞くし、代償の重みが違えど、広義的に見れば天使も人族も条件は同じなのかもね。


「(そうよ。しかも回復系魔術の一切が効かない結構面倒なやつね。ヘレンちゃんも見ただろうけど、セザやイヴァの疲労はそれが原因よ。)」

『(そ、そうですか。)』


 両親は歩く程度なら問題なさそうだったけど、まさかそんなにヤバかったとは...。やっぱりどんな種族でもこれは命懸けなんだな。



 ◆◆◆


【補足】


・天使族や悪魔族には性器なんて備わっていません。なので実質無性です。まあ見た目で男性型と女性型に分かれてるけど身体的違いは一切ありません。(一定層の人たちの夢を破壊します。)


子を生み出す(創造)する場合は時間を掛けて魔力や生命力、神力を練り上げて身体を創ることになるから両親の生命を削る(物理)のでこれがその後、およそ50年に渡って弱体化する理由となります。


なので形態の異なる人類種族は天使や悪魔との間に子を授かることは出来ません。(神様のイタズラです。)


なお天使×悪魔だと可能ですが長い間犬猿の仲だった両種族にとってこれが現実になることはまーありません。

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