第16話 サリエルと雑談 ①
《回復魔術》を習得してからしばらく経った頃、気配もなく、どこからか声が聞こえてきた。声の方に目を向けると、そこには執事服を着た赤髪の青年が立って居た。
「サリエル様、もうすぐ準備が整いますので...。」
「わかったわ。」
「ふむ?」
すると青年が僕を見る。目が合ってしまった。
「———。」
『———。』
一瞬の間が空いた後に青年がサリエルさんに問いかける。
「そちらの可愛らしいお嬢さんは例の?」
「ええ、この子がヘレンちゃんよ。」
サリエルさんの言葉にコクリの頷き、軽くお辞儀する。
「これはご丁寧に、わたくしはルードヴィグと申し訳ます。気軽にルドとお呼びください。それと困ったことがあればわたくしにお声掛けください。」
そう言い軽く一礼する。その所作は完璧であり素人の僕から見ても、真似は不可能と思える程に精練されたものだとわかる。
「ルド、要件はそれだけ?」
「いえ、ガブリエル様からお手紙を預かりましたのでいつものようにご確認ください。」
「了解、ありがとね。」
「いえいえ、それではわたくしはこれで。」
ルドさんは一礼後すぐに転移にて、その場から消える。
『(あの、準備って?)』
「(ヘレンちゃんのお披露目会よ。というよりも私の系統の天使たちとの簡単な顔合わせってところよ。準備っていうのは
昨日、天界をある程度見て回ったけどそれっぽいのはなかったぞ?でもまぁ、見たことなくても
『(異界って?)』
「(異界?んーそうねぇ。異界を一言で表すならば″世界の玄関″と言ったところかしら?古から邪人どもが無限に湧き出て、侵攻して来てるから他の始原や悪魔たちと共闘してこの世界を防衛してるの。)」
『(なんか…凄いですね。)』
話が壮大過ぎて現実味がないが、サリエルさんが虚言を言うとも思えないし、恐らく真実なんだろう...。
『(ふーん。さっき共闘して世界を防衛してるって言ってたけど、それだと僕が地上に降りて邪人を狩る必要が無くないですか?)』
「(あーそれね。説明をすると長くなるんだけど簡潔に話すと、とある馬鹿野郎どもが下界に邪人を召喚したせいよ!!)あぁぁぁーーッ!!いつ思い出してもムカつくわー!!」
なんか一人でご乱心の様子だ。さっきまでの落ち着いた雰囲気はどこへやら?あと途中から《念話》が切れて色々と表に出ちゃってますけど!?
「コ、コホン。(しょ、少々取り乱してしまったわ。)」
それに気付いたのか、少し顔を赤らめて恥ずかしがるサリエルさん。見た目が美少女なだけあり、なんだか恋する令嬢のように見えてしまう。
「(と、とりあえず、この話についてはまたの機会に話すわ。)」
誤魔化したな…。でもまぁ、内容を聞いた感じ、話がややこしそうなので軽く了承する。
『(ところでお披露目と言っても具体的に何をすればいいんですか?)』
「(んー特に何も?進行は私がするし、ヘレンちゃんはただ側で立ってるだけでいいよ。レイの時もそうだったし。強いて言うなら、終わるタイミングで軽く会釈してくれるぐらいかな?)」
あ、そんなんで良いんだ。
『(わかりました。あとそろそろ行かなくてもいいの?)』
先程のルドさんの発言からもうすぐなのではと思い聞いてみるも、返って来たのはあまりにあっさりとした言葉だった。
「(いいの、いいの。ちょっと遅れたって問題ないよ。)」
いや、それ問題あるだろ!!とも思ったけど、そういえばこの人、最低でも数万年以上は確実に生きてるはず…。もしかしたら結構時間にルーズなのかも?可能性はありそうなんだよなー。
だがいくらルーズであっても、日本人の感覚を持つ僕からしたら、流石にどうかと思うので説得してみたら案外あっさり折れた。
「(んーしょうがないわね、それじゃあ、転移するわね。)」
そう言って僕の肩に手を置くと目の前の風景が変わる。三回目なのでもう驚いたりはしない。
転移した先は純白にデザインされた廊下だった。
絵画や彫刻などは無く、唯一目立つとしたら天井のとても美しい装飾がなされたシャンデリアだろう。どういう原理で光っているかはわからないがとても神聖なものを感じる。
シャンデリアの美しさに見惚れていると聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「サリエル様、既に準備は整っております。こちらへ。」
「ええ、ルド、ありがとう。」
サリエルさんはそのまま扉を抜ける。
「ヘレン様はわたくしに付いて来てください。」
『ん。』
ルドさんの案内で僕は扉を抜け、その先へと進んだ。
◆◆◆
・サブタイトルに「①」があるからと言って次話が「②」になる訳ではありません。(何話か挟んで「②」となる予定です。)
・長命種族が時間にルーズなのはお約束!!笑
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