第15話 《座標移動》を使用する為には…

 終了宣言後、リディアとレイラーはどこかへ行ってしまい、その場に残ったのは僕とサリエルさんの二人だけとなった。


「(ヘレンちゃんはもう自分のステータスは見た?)」

『(一応は。)』

「(なら話しが早くなるわね。ヘレンちゃんには【固有スキル】に《座標移動》があるでしょ?)」

『(え…?ど、どうしてそれを!?)』

「(ちょっと色々とね。)」


 そう言うと右手を伸ばし虚空から一枚の二つ折りの紙を取り出す。


『(それは?)』

「(ヘレンちゃんの《座標移動》についてのウィノア様からの説明と忠告よ。読んでみて。)」


 紙を受け取って内容を確認する。


 ふむふむ……要するに《座標移動》というのは点Aと点Bを自由に指定し、移動することが出来るスキルらしい。そしても座標さえ分かっていれば多次元でも移動が可能と…。


 うん、応用の幅が広過ぎでしょ!!確かにこれはぶっ壊れスキルだわー。でもこれだけのぶっ壊れ性能ともなると、代償もまた身体をぶっ壊す程に恐ろしいものなんだろうな…。


 特に演算ともなれば脳を相当酷使するはずだ。まぁ、それがどの程度のものなのかは使用してみないとわからないので、これに関しては考えるのは後回しにしておこう。


 そして僕は下半分に書かれている内容を確認する。



①このスキルは高度な演算を必要とするため最低でもレベル7になるまでは使用禁止。


②使用時、負荷がかかり過ぎると生命力が大幅に下がり弱体化するため、生命力の回復手段をいくつか持っている方がいい。


③失敗したら軽く身体の一部がサヨナラするから《治癒魔術》を得させる方がいい。なお《治癒魔術》の効果で生命力も僅かですが、回復するため、《演算》と並行してレベリングすることをオススメします。


④このスキルを戦いに併用するならば《思考加速》や《並列思考》などを習得しておくとさらに高度な演算が可能となるので取っておくことを推奨します。



 なんというか…ウィノアさんって、とても親切な神様だということがわかった。正直ここまで詳細に書いてくれてるとは思わなかった。おまけにアドバイスまで…。それだけ僕に期待してくれているのかもしれないな。


「(読んでもらった通り、その《座標移動》って言うスキルは危険だからヘレンちゃんにはまず回復手段として《治癒魔術》を覚えてもらいたいんだけど。)」

『(でも魔術なんてそう簡単に使えるようになるものでもないですよね?)』

「(あー大丈夫、大丈夫。そもそもこの世に習得できないスキルなんて存在しないから。)」

『(え?)』


 サリエルさんの発言に一瞬固まってしまった。僕の常識…というよりは異世界作品の常識だと才能や素質なんかで習得できるスキルが変わってくるはずなのだが…。


『(スキルって才能や素質なんかで習得出来るものじゃないんですか?)』

「(それは寿命の短い人類種族たちの常識ね。私たち天使族や悪魔族と言った不老の種族からすればスキルなんて個人差はあれど時間を掛けたら習得できるって言うのが常識だから。)」

『(あーそうなんだ。)』


 良いように言ってるけど、要は才能や素質が無くても時間を掛けてスキルを習得するだね。


「(もう質問は無いかな?)」


 その問いに僕は無言で頷く。


 すると僕の意志を確認したサリエルさんは突然、虚空からあの忌まわしき東洋の龍のデザインの鞭を取り出す。


「(よし、それじゃあまずはちょっと左腕が痛むよ。)」

『(……へ?うぐっ!!)』


 その瞬間、僕の左腕が激痛に苛まれる。


 訳がわからず、そっと激痛の元に目を向けると、皮膚が思いっきり裂けてしまっている。天使の身体には血液は通ってないのか、流血はしてないものの、見ていていい気分ではない。


 さっきの拷問のような修行で新たに得た《痛覚鈍感》のおかげで、あの時の痛みに比べれば幾分かマシにはなったが…それでも十分痛い。


『(いてて…いきなり何するんですか!!)』

「(ごめんなさいね。こうでもしないと《治癒魔術》の習得は出来ないから。)」


 それでも事前報告ぐらいして欲しかったんですけどね…。


 その後、詳しく聞いてみると、どうも現在の天使の平均年齢は数万歳であり、それと同じだけの戦闘年数を重ねてることから生半可な攻撃では傷一つ付けることすら困難なんだとか。


 つまり、天界ここでは回復系魔術の需要はほぼゼロに等しく、レベルを上げるには自分で需要を作るしかないのだという。


 あまりにイメージの中の使い方と掛け離れ過ぎていて混乱しそうだ。


 それになんか自作自演で稼ごうとしてるようで凄く申し訳ない気持ちが込み上げてくる。


 でもこれが、天界ここの常識らしいし、素直に受け入れるしかないか…。


 だがそんな僕の葛藤を知らないサリエルさんはどんどん話しを進めていく。


「(まぁ、そんなところかな。で、まずは習得なんだけど、その傷を治したいと強く念じながら練り上げた魔力を当ててみて。)」

『(ん。)』


 言われた通りにやってみる…も何も起きなかった。


『……。』

 

 それからも粘り強く時間を掛けて、何度も試してみるも一向に変化はなく、魔力が地道に消費されていく。そして残り一割を切った頃に突然"変な感覚"を感じるのと同時に、僅かにではあるが傷が塞がるのがわかった。


 そういえば、感覚麻痺っていてあんまり覚えてないけど、リディアとレイラーの修行中にも似たようなことがあったような…?


「(お!!傷が塞がったってことは何か妙な感覚とか無かった?)」

『(なんか変な感覚を覚えました。)』


 するとサリエルさんが満面の笑みになる。


「(おー思ってたよりもすんなり出来たねー。本当は習得するまで毎日欠かさずやらせるつもりだったけど、適性があったのかな?試しにステータスを見てみて。)」


 その言葉を聞いた僕はもしかして…と思い、急いでステータスを開き確認すると新たに《回復魔術》が表示されていた。


『(えっとー《治癒魔術》ではなく《回復魔術》がありましたけど…。)』

「(あー《治癒魔術》は《回復魔術》の上位魔術だから問題ないよ。あとはレベルさえMAXにすれば《治癒魔術》へと進化するから。)」


 あーそういうシステムなのね。理解した。


『(ということは、あとはリディアやレイラーからのダメージの回復に使用してレベリングすれば良いということですか?)』

「(そういうこと。)」


 一石二鳥なやり方であり、かなり効率的なのは確かだ。でも魔力が途中で切れた時はどうするんだろ?まぁ、それはその時にでも考えるか。



 ◆◆◆


※《座標移動》の説明は3話にあります。


・「なんで《回復魔術》を習得させてから姉2人と修行させなかったんだ?」という質問ツッコミは受け付けておりません。



・平均寿命ではなく、平均年齢が数万歳です。お間違いないように願います。



・この世界には才能や素質はあれど、得られない技能やスキル、魔術はありません!!そんなもん、寿命が限られている人類種族の考えだ!!(ただし努力は必要)

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