第14話 姉2人と修行

 躱す、躱す、躱す。絶え間なく続く攻撃をひたすら躱す。


 現在、僕はあらゆる角度から迫り来る鞭を躱し続けている。リディアの鞭は純白に発光する上、とても細かい装飾が施されているため、よく目立つ。そのため、思ってたよりも躱せるが、時折掠ったりはする。


 だが残念ながらこれがリディアの全力で無いのはなのは一目でわかる。何故ならリディアはその場から一歩も動いていないのだ。ましてや息を切らしている様子もない。


 悔しい…。だが別に負けず嫌いという訳ではない。ただ単純に赤ん坊の如くあしらわれてることに悔しさを感じてるだけだ。


 まぁ、赤ん坊というか、生まれてから一日ぐらいしか経ってない早期新生児なんだけどね。というかさ…これでも一応、中身は十四歳の中学生だから気付かなかったけど、生後一日でこれは流石にキツい。


 それに僕の修行と聞いても両親や姉二人はとくに否定の声をあげなかった辺り、人間と天使の常識には色々と齟齬そごがありそうだ。


 これが終わったらサリエルさんに聞いてみるか。


 そんなことを考えていると、突然鞭の速度が目に見えて上がる。


「そろそろギアを一つ上げるね。」


 先程まで目立っていた鞭も速すぎて捉えられない。急激な速度変化に反応が遅れ、右脇腹辺りを鞭が抉る。


『ぐッ!?』


 痛みで涙目になるがそれで攻撃が止まる訳でもないので必死に躱し続ける。


 その後も次第に怪我が増えていく。体感で三分が経つ頃には僕は再び地に伏していた。


 今回は怪我も酷いが体力も限界だ。


 三十キロはある月光剣ムーンライトを背負って高速で動き回るとか普通に考えてみても体力の消耗が凄まじい。


 倒れた僕を見てすぐにリディアが駆け寄り先程レイラーが使用した《治癒魔術》をかけると身体の怪我の他に体力も回復した。


「ごめんなさい!!大丈夫!?」


 焦りが混じった声に僕は首を縦に振って頷く。それを確認し、ホッと一息つくとリディアは先程いた場所に戻ると鞭を構えて再び攻撃は始めた。



 ◇◇◇



 あれからどのぐらいの時間が経っただろうか…。多分だが三時間ぐらいは経ったと思う。


 この三時間ひたすら"鞭を回避"、"治癒&体力回復"、"再び鞭を回避"の過程を延々と続けていた。勿論休憩はあったのだが、休むことが出来なかった。


 いやね…なんというか…リディアに捕まり、抱き枕にされていたからだ。それも鼻息立ててね。


 もうね…色んな意味で怖くて、全然休めなかったよ…。うん。


 それからしばらくして再び攻撃が始まった訳だが、精神的疲労が限界に達し、仏の如く無心で避け続ける。


 途中から痛みも殆ど感じなくなり、指や耳が吹き飛ぶ程度の怪我は気にもならなくなった。


 倒れればリディアが治癒し、休憩中は抱き枕にされ、終わればまた攻撃のサイクルを繰り返し。それは結界外からサリエルさんの交代宣言が入るまで続いた。


 宣言後、レイラーが結界内に入ってきたのだが、どことなく疲れた顔をしていた。


 服もボロボロになっていることから、恐らくは空き時間にどこかでサリエルさんと模擬戦でもしてたのだろうか?手紙にも修行をつけるって書いてあったしこの推測は合ってると思うが。


 そんな訳で今度はレイラーが攻撃役を務めることとなった。


「…ヘレンちゃん…その…目死んでるけど大丈夫?」


 レイラーは僕の目を見て心配になったのかそう問うてきた。


 はっきり言って大丈夫じゃない。でも強くなるにしても通る道は同じで、結局は早いか遅いかの違いでしかない。そして僕はつらいことは早めに終わらせたい派だ。


 なので僕は覚悟を決めて首を縦に振る。


「ヘレンちゃんがそれで良いなら…。でも無理はしないで。」


 レイラーは僕の選択に異議を唱えることはなかったものの、その発言から本気で心配していることが伺える。


「出来る限り手加減する。だから頑張って。」


 レイラーは虚空に手を伸ばし、長杖を取り出す。


 見た目はほぼ純白で、持ち手の部分に水色に発光する宝珠が埋め込まれており、とても神秘的なオーラを醸し出している。


 そして無言で右手を振り上げるとサッカーボールサイズの炎の玉が僕の周りに百個ほど出現する。


 炎の玉と言ったが全部が全部、赤とか橙色ではない。他にも″黃″、″緑″、″青″、″紫″とあり、それらがごちゃごちゃしていて、とても綺麗だ。例えるなら大きめのイルミネーションを乱雑に並べて光らせた感じだろうか?


 だがその美しさに反して本質は炎。嫌な予感しかしない…。


 そして右手を振り下ろすと百近い炎の玉が一斉に周りを乱舞し始める。


 いや、長杖使わんのかい!!と内心でツッコミつつも、迫り来る数多の炎の玉を躱す。だが一つ一つはそこまで速くはない。むしろ鞭よりもツーランク遅いだろう。


『あぶっ。』


 だが回避を試みるも鞭とは違って隙間が殆どない。そのためか被弾率はこっちの方が高い。


 勿論、服にも被弾するのだが、どう言う性質なのか全然燃えない。


 そう疑問に思った時には既に周りを包囲されてしまい、そのまま全弾が襲い掛かり、気が付けば露出部分に大火傷を負って地面に伏してしまっていた。


「ヘレン!!大丈夫?痛くない?まだ続ける?」


 レイラーは心配そうに駆け寄り《治癒魔術》で回復し、無事を確かめる。


 そして、続ける意志を示す。


 この攻撃を前に余計な思考は命取りと思った僕は必死にかつ無心で躱し続けたのだった。



 ◇◇◇



 その後はレイラーは多種多様な魔術で僕を追い込み続け、二時間ぐらいやった後にギブアップし、休憩を取ったのだが、レイラーもリディアと同じように両手で僕を胸元まで引き寄せて抱き枕にしだした。


 ただリディアとは違ってレイラーは抱き枕にしながらも、ちゃんと評価してくれた。


「下級魔術の火弾ファイアーバレットぐらいは避け切って欲しかった。でも諦めずに挑み続けるヘレンちゃんはそれ以上に褒めるべき。」


 割と辛口ではあったが、評価できる点は褒めてくれて少し嬉しかった。


 それから少しして再開された訳だがレイラーも僕程ではないがかなり疲労が溜まっているのか徐々に攻撃の質も量も減っている。


 さっきまでサリエルさんと戦ってその延長戦で僕への攻撃もやっているのだ。普通考えてもそれだけ使い続けてまだ魔力が残っていることに驚きを隠せない。


 結局それから一時間程してレイラーの魔力が枯渇してしまったので、サリエルさんとリディアが帰って来るまで、結界外にあるガーデンチェアに腰掛けてジュースを飲み、時には瞑想をしながら暇を潰したのだった。


 レイラーには見えないようにこっそりとステータスを確認してみたところ、《痛覚鈍化》、《炎耐性》をいつの間にか習得していた。



 ◆◆◆


【後書き】

・前世は中3まで生きたヘレンさんですが、思春期が来る前に病死したため、美少女姉2人から過激スキンシップを受けても『好意を持って、でてくれるのは嬉しいけど…くっ付きすぎ…』みたいに思っていますwww


 まだ転生してから1日しか時間が経ってないのにねwww

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