第10話 Side サリエル
ヘレンちゃんとの雑談を終え、メイドたちに片付けを任せた私は残った仕事を処理するため、執務室の扉を開ける…とそこには
こうして顔を合わせるのいつぶりだったかな...。
「サリエルお疲れ様。」
「女神様…やはり見てましたか。それと会話の最中に威圧しないで下さい。ヘレンちゃんが何事か分からずに萎縮してたじゃないですか!!」
「あーあれね、ごめんなさい。それにしてもヘレンに転生者であることを隠すように指示するなんてナイスよ!!」
ご機嫌そうに言うが、これはわざとだろう。
なにせヘレンちゃんと対面した時にこっそり《鑑定》してみたが、どういう訳か【称号】には何にも表示されなかった。
私の《鑑定》レベルはMAXであり、ヘレンちゃんの《鑑定偽造》はレベル1であった。仮に《鑑定偽造》を所有しててもレベルの差でほぼ無効化できる。だがそれでも見えなかった。
それはつまり、女神様が私でも知らない何らかの方法で"転生者"という【称号】を厳重に隠蔽したのではないだろうか?
そもそも"転生者"という【称号】は生前の記憶を保持し、新たな生を授かった者のことを指す。
つまりは"転生者が出る"="冥界神ウィノア様のミス"を意味する。
その事が
なにせ女神様はウィノア様のことを一人の男性として見ている。そのためか、ウィノア様の評判を落とすような情報は女神様からすれば、抹消や隠蔽、良くても規制の対象になる。
そのせいで何度か迷惑を被ったんだけどね...。
まぁ、幸い今回はウィノア様の手紙の情報通り【固有スキル】《座標移動》の所有を確認出来たから転生者本人だと見抜けた。
意図は違えど、ウィノア様には感謝しないとね。
「それで、今回は何用でしょうか?」
女神様のことだ。また、今回のように面倒事を押し付け———。
「ん?特に無いわよ?」
無いんかぁぁぁい!?
「まぁ、無いと言えば嘘になるかな?私はただどうなるか気になってね。あとはヘレンの人柄も確かめておきたかったのよ。でもあの感じだと特に問題なさそうね。」
「そうですね。私もヘレンちゃんなら信任出来ます。」
ヘレンちゃんの雑談の様子を見た感じ、信用するに足る人柄と言ってもいいだろう。
ただ少し他者との会話が苦手なのか、所々目が泳いでたけど、物事を考察して判断するだけの力は持ち合わせてるっぽいし、まぁ、一人立ちさせても問題はないだろう。
「それに、あの子を使えば多少は干渉出来ちゃうしね。」
突然、とんでもないことを言い出した。
"神は何があっても不可侵"。これは全能とも言える神を縛る唯一の掟。これを破ろうものなら、他の神たちから神八分にされ、権威諸共失墜する。
それを回避するため、神たちの間では部下の系統を使うことが、常套手段となっている。
つまり…。
「女神様、まさかとは思いますが、そんな理由でヘレンちゃんを地上に送ろってことなんじゃ…?」
「んーまぁ、それもあるけど、本命はさっきも言った通り、
「本当に?」
私は目を細めて見つめるが、当の女神様は一切目を合わせようとしない。それどころか、強引に話題を変えてきた。
「そ、それよりも明日からなんでしょ?修行は。」
誤魔化された…。こうなってしまえば、女神様は意地でも喋らない。仕方ない…諦めよう。
「…そうですね。」
「出来る限り早めにお願いね。」
「わかっています。とりあえずスキルの習得と異界でのレベリングをする予定でいます。」
「そっかー、まぁ、頑張ってねー。」
他人事だな!!とツッコミたくなったが、よく考えてみれば女神様はあくまで事態の中継役だったので、その言葉をぐっと呑み込む。
「それじゃあ、もう用は無くなったし、私はそろそろ神界に戻るわねー。バイバーイ。」
その言葉を残すと女神様は手を少し振りながら消えて行った。
女神様が去った後の執務机を見ると、ほんの少しのクリームがついた銀色のフォークと皿、そして冷たくなった紅茶があった。確か皿にはケーキがあったはずだったのだが…。
「やっぱり食べられてる。全く…懲りないな、女神様は。」
天界じゃ、ケーキの材料を揃えるのは難しいのに…と愚痴りながら、私は冷え切った紅茶を喉に通すのだった。
◆◆◆
「神八分」は造語です。「村八分」を元にしました。
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