第9話 神様からの依頼

 唐突なサリエルさんの問いかけに、僕は質問の意味がわからず、頭の中が真っ白になる。


「(あーごめんごめん。ついわかってるていで話しちゃった。)」


 そう言いながら説明を始めるサリエルさん。


 説明を一言にまとめると、サリエルが管理を任されてる世界では、破滅を導く存在つまりは邪人がおり、地上に降りてその始末を任せたいとのこと。要するに面倒事の押し付けだ。


『(まぁ、別にいいですけど、どうして僕なんですか?)』

「(理由は色々あるけど、一番はヘレンちゃんが転生者であることかしらね。)」

『(ん?)』


 僕の疑問の表情を見たサリエルさんが説明を始める。


 どうも、天使族の多くは戦闘狂であり、弱小種族が蔓延る地上への興味が薄く、また性格も気高い者が多い。偶に観光程度で降りることはあっても長居はしない。それに「"神様のお膝元"で働くことは名誉なことである」という考え方が浸透していることも原因だそうだ。


 その点、地上を知る者からすれば、すんなりと受け入れてくれるだろうとのこと。それが仮に異世界からの転生者であろうと。


 あとは左遷と受け取られないように女神様から直々に勅命を受けたと理由付けしておけば、どうにでもなる…とのことだ。


 あとサラッと出てきた女神についても聞いてみた。名前はルナフィーラと言い、冥界神ウィノアさんと同格の神らしい。


 またサリエルさんとその他六人の始原の天使の創造主だそうだ。


「(それで本題に戻るけどどお?)」

『(えーと、つまりその流れで僕に邪人の始末も同時に任せようと…。)』

「(別に強制という訳ではないわよ。)」

『(んーまぁ、いいですよ。僕も異世界には興味がありますので。)』


 前世で僕は友人の二人が推してたラノベを何冊か貸りて読んだことがあり、異世界には多少の憧れがあった。


 多少はね…。うん、多少だから。


「(そう、なら助かるわ。ちなみに邪人の始末さえしてくれれば、あとは何をしてくれても良いから。)」

『(え、そんなんでいいの?)』

「(本来の目的は脅威にならない程度に邪人を始末することであり、殲滅ではないからね。むしろ出来るなら最初から私たちがやってます。)」


 そりゃそうだろうね。


『(なるほど。ちなみにいつ頃に降りれるんですか?)』

「(そうねー、女神様からヘレンちゃんに修行をつけるようにって仰ってたからしばらくは天界に居てもらうけどいいかな?)」

『(いいですよ。)』

「(了解。じゃあ明日からよろしくね!!言っとくけど私は手加減とか苦手だから頑張ってね。)」

『(……マジですか。)』


 まだ修行の第一歩も踏んで無いのに早くも後悔した気がする。


「(あ、それと、転生者であることは他言無用だからね?)」

『(どうしてですか?)』

「(それは…まぁ、色々と深い事情があることだけ知ってればいいわ。)」

『(……あ、はい。)』


 サリエルさんの意味ありげな返答に僕はこれ以上の深入りは危険と直感し、即座に話を終わらせた。


「……。」

『……。』


 しばらく無言の時間が流れた頃、突然サリエルさんが卓机の羽根ペンを手に取り紙に何かを書き始める。


 こっそり読んでみると、今回の雑談のざっくりとした内容が書かれている。勿論、転生者などの重要な情報は書き改められていたけどね。


 三分ほどして羽根ペンの動きが止まるとサリエルさんが三枚折りにして封筒に入れ不思議な模様の封蝋で封じる。


「(はい、これ渡しておくからセザにでも渡して。ヘレンちゃんはまだ舌足らずで喋れないからね。)」

『(ありがとうございます。)』

「(それじゃあ、もう迎えは呼んだからまた明日ね。)」


 サリエルさんの終了宣言の直後、カルミナさんが扉をノックし入室する。そして全てを分かってるかのように僕の肩に手を置くと床に魔術式が現れると目の前の風景が変わる。


 その後、僕の帰りを待ち侘びていたリディアとレイラーのおもちゃにされたのだった。



 ◆◆◆


・"妹好き"の「リディアとレイラーのおもちゃにされた」とありますが、まあーこれは"姉2人によるヘレンの取り合い"という解釈でお願いします。



・コミュ障な主人公(ヘレン)でも案外、目上の人となら会話は出来るのかもねー。


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