第5話 サリエル

「(忙しい所をごめんね。)」

「(きゃぁ!?ビックリした!!!女神様、いきなり《思念伝達》で話し掛けないで下さい!!!)」

「(ごめんなさい。サリエルのその反応が面白いからついね。)」

「(はぁ…それで何用ですか?)」

「(実はね———。)」


 改めて問うてみると女神様がこれまでの経緯いきさつを説明してくれた…のだがその非常識な内容に言葉を失う。


「(……はぁ?)」

「(そんな反応をすると思った。)」


 女神様は笑いながら応答する。


「(いやいや!!ちょっとそれどんな確率ですか!!有り得るんですか、そんなこと!!)」


 天使の創造は最短でおよそ四、五百年に一度。七系統の何処かに属する天使が創造される程度。それも通常ではあり得ない異世界の魂が受肉し転生。私自身、天地開闢てんちかいびゃく以前から生きてるけど、これに似た事象なんて聞いたことがない。


「(ビックリでしょ?私もこの話をウィー君から聞かされた時は同じ反応をしたもの。それでさっきの件についてだけどーどぉ?)」


 女神様がそう問いかけて来たが、このお方のことだ。仮に断っても絶対に受け入れない。


 そもそも私の性格を熟知されている以上、まず断るだろうと考えていない。その証拠に最初からまるで決まってるかのような口振りだったし…。


 …仕方ないか。


「(承知しました。それに関しては私にお任せ下さい。)」

「(そう、それはよかった。それとウィー君から手紙を受け取ってるから今からそっちに送るね。)」


 女神様の言葉の後、私の手元に手紙が転移してきた。いや、正確には転移ではないらしいのだが、私にはどう見ても転移の類いにしか見えない。


 封蝋がウィノア様の物であることを確認し、手紙の封を開くと、中から二つ折りの紙が三枚出てくる。一枚目には例の転生者の得た【固有スキル】《座標移動》の説明と忠告などが書かれている。


 あえて【固有スキル】のことについては触れない。これ以上、突っ込んでも疲れるだけだ。


 二枚目以降は本人の性格や人柄などが、事細かく書き記されている。大まかに読んでみる限り、極度の人見知りで特定の人以外とは全く話せないけど、ツッコミ属性があり、正義感の強いタイプらしい。


 その他にも色々と興味深いことが書かれているけど、今は女神様と《思念伝達》中なので時間が空いた時に読むとしよう。


「(そうそう。一応言うけど、本人が降り立つのを希望したら修行をつけてあげなさい。やり方は任せるから。)」

「(はぁ…わかりました。その辺は任せてください。)」

「(うんうん。あとわかってると思うけど、今回のことは本人以外には他言無用だからね?もし口外したら…。)」

 

 《思念伝達》越しなのに殺気のようなものを感じる...。


「(絶対に他言致しません!!)」

「(そう?それは良かった。じゃあ後は宜しくねー。)」


 その言葉を残した直後、《思念伝達》が一方的に切られた。


「はぁ…。」


 深く…本当に深く毒を吐くかのようにため息を吐く。あの悲劇を除けば、一体何万年ぶりの面倒事だろかと呟きつつも、私は空気のように側に控える執事風の青年に命令する。


「ルド、新たな天使の誕生よ。簡素で良いから謁見の準備して頂戴。あとその子の元にも誰か送っといて。」


 ルドは微かに戸惑いの表情を浮かべるが、すぐに平静を取り戻す。


「畏まりました。」


 そう応えるとルドはその場から転移した。


 残った私は再度、ウィノア様の手紙に目を通して、詳細を確認しつつ、その子が来るのを楽しみに待ち続けるのだった。



 ◆◆◆


次回から主人公視点に戻ります。



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