第4話 女神ルナフィーラ 

 私はルナフィーラ。皆んなからは"女神様"と呼ばれている。まぁ、ぶっちゃけ神の世界には幾らでも女神はいるけど、その中での私は最高神。


 なので"女神"と言えば基本的に私のことを指すのが世の常となっている。


 そして、そんな私は現在、宮殿の庭園の東屋にて同じ最高神にして長い交流関係を持つ、ウィー君と向かい合っている。


 かなり急いでたけど何の用だろう?


「実は斯々然々(かくかくしかじか)ありまして…。」

「成る程ね。つまりウィー君が超久々にミスって記憶未削除の魂が一つ、他世界の輪廻に入ってしまったと…。」

「そうなりますね。」

「にしても、外れた魂の転生先が私達の管理下にある世界だったのが不幸中の幸いだけど…まさか天使に転生するなんて前代未聞よ。」

「本当そうですよね。僕なんて見間違いではないかと何度も確認しましたよ…。」


 ウィー君もため息混じりに愚痴を溢す。


「まぁ、気持ちはわかるよ。で、その報告のためだけに貴方が来た訳じゃないんでしょ?」


 ウィー君はこんなことを伝えるためだけで来るようなひとではない。こんな簡易的な報告なら資料にまとめて私に送ってもらえば済むはずだ。それをしなかったということは余程重大な案件と見た。


「そうですね。今回は例の転生者の扱いについて相談があります。調査したところサリエルの系統に転生していることについては先に述べた通りのことです。」


 アタリ、やっぱりか。


「それで?」

「ですので、表向きは[監視者]として地上に降りてもらい、自由に旅でもしてもらいながらあの悲劇で仕留め損ねた邪人の始末を任せるのはどうでしょう?勿論、本人の同意の下でですが。」


 あの悲劇とは"アストアミの悲劇"のことを指す。地上に邪人を侵入させ、サリエルが担当する世界が地獄と化した最悪の世界危機。その悲劇の爪痕は深く、今もなお、邪人どもは地上のどこかで侵略活動を続けている。


 そして、その病巣を取り除くための"薬"として例の転生者を使うということね。


「あーなるほどね。今まではサリエルから使徒ちゃんと聖女ちゃんに命令してもらって対策させてたけど限界があったからね。その案は賛同よ。」


 失敗を逆手に取ったウィー君の素晴らいし提案に感銘を受けていると、タイミングを見計らったのか給仕の天使達が紅茶とスイーツを持って来てくれる。


「ありがとうございます。」

「ありがとうね。」

「はい、それでは失礼します。」


 給仕が終わり天使達は元の持ち場へと去って行った。


「それと大きく運命を変えてしまったお詫びとして幾つかスキルを与えようかと考えています。」

「ふーん、具体的には?」

「言語系、《真眼》、《鑑定偽造》辺りを考えてます。」


 そう言ってリストを見せてくれた。


 あー言語系は単純に言語習得の苦労させないようにするための補填でしょうね。


 で、次に《真眼》か。これは"真実の眼"で発言の虚偽を見抜くスキルのはず。でもどうしてこんなスキルを?…ん?え、すご!?


 このスキルの眼を通して鑑定を発動すると邪族ゴミどもにも効果を発揮するのか。邪族ゴミどもって邪神の悪戯で大抵のスキルが通じないから炙り出すという目的では渡すのはアリだけど、本人がどう決断するかわからないのに早計な気もするのよね。


 そして最後は《鑑定偽造》か。習得が非常に困難な超レアなスキル。まぁ、資料に記載されている性格からして《鑑定》とか自分の情報が漏れることを嫌うタイプのようだし持たせておいて損は無いか。

 

「それでもいいけど嘘看破系は隠れ邪人ゴミどもを炙り出す為に使うんでしょ?だったら察知や妨害スキルに強いユニークにしてもいんじゃない?」

「そのつもりですが…やはりユニークにした方がいいですか…。譲渡が大変ですが。」

「譲渡ぐらいなら手伝おっか?」


 特にユニークスキルの譲渡ともなるとかなりの重労働になる。


 正直やりたくはないけど私の部下の系統のことだし…それに草案者は私なのだから私がするのが道理なのだけど…。

 

「いえ、これは僕の贖罪ですので…。」

「そう、ならいいけど。」

「それでしたらサリエルへこれを渡してくれませんか?」


 ウィー君がそう言って懐から手紙を取り出し机に置いた。


「ちなみに内容は?」

「例の転生者が得た【固有スキル】についての説明と忠告です。」


 なんか聞き捨てならない単語が聞こえて来た。


「え、【固有スキル】を持ってるの!?」

「はい…言い忘れてました。」


 嘘、そんな偶然あるの!?もう驚き過ぎてお腹いっぱいなのに…。


「はぁ…まぁ、いいわ。続けて。」

「えーと、例の転生者は【固有スキル】《座標移動》を得てます。このスキルは使いこなせば非常に強力な反面使用者への負荷が大きいスキルです。それを何も知らずに使用するのは非常に危険ですので、それらの説明と忠告を書いています。」


 ウィー君がより真面目な顔で語る。その表情から危険性が高いことが見て取れる。


「一応、聞くけど具体的な危険性は?」

「僕が思いつく限りですと———や———などが挙げられますね。」


 ウィー君がその危険性を語ってくれたけど、確かにこれは無知のまま下手に使用すれば自滅すら招く。


「まぁ、わかったわ。これは責任を持って私が届ける。それで他に話すことは無い?」

「特に無いですね。」

「そう…。」

「ではそろそろ僕は諸々の用意があるので、これにて失礼します。」


 ウィー君は席を立ち、一礼した後にその場から消える。


 残った私は溜め息を吐いた後、私の自室へと戻る。


「久しぶりに来てくれたと思ったのにやっぱり管理の話しか…。」


 そう呟き、しばらく放心状態となる。


「………。」


 あれからどれぐらい時間が経っただろうか?


 そこまで時間は経ってないと思うけど、説明が遅れるとまずいからなー。仕方ない。


 んー!!


 私は軽く背伸びをした後、サリエルへの状況説明を行うのだった。



 ◆◆◆


・アストアミの悲劇と世界危機は全く同じことを言ってます。(要はABCD包囲網と包囲陣みたいな違いです。)



・ウィノアさんの態度が弱腰のように見えますが、皆さんも自身の失敗を同僚(仲間)に伝える時は大体こうなりますよね?それと同じです。



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