第3話 どうしてこうなった

 俺は低レベルの魔法しか扱えない。

 魔法経路が殆ど閉じてしまっていて、一度に大量の魔力を引き出せないからだ。

 仕方がないので俺は低レベルの魔法を色々と覚えた。

 例えば【ファイヤー】だ。

 まあ薪に火をつける事ができる程度の、便利な魔法だなあって感じの威力だ。

 【ウォーター】もそうだ。

 チョロチョロッと水が出る。

 コップ一杯とは言わないが、鍋に半分程度の水が出る。

 飲み水には困らないよ?的な。

 【ウィンド】

 そよ風が起こる。

 周囲が臭いとこれで臭いが何処かへ飛んでいく・・・・便利だよ?

【グランド】・・・・所謂土魔法。

 ほんの少し地面を隆起させたり窪ませたりできる。

 魔物に追われている時逃げるのに役立つ。


 【ライト】

 ダンジョンは基本真っ暗なので、これがないと何も見えないよ?でもまあダンジョンでは魔法が使えないから、夜に使えばいい?


【ダークネス】

 何かあった時、これで周囲が暗くなり姿を隠せる?何で俺はさっきこれで姿を隠す洗濯をしなかったのだろう、いや違った選択だ。

【ウォッシュ】つまり洗浄。

 ちょっとした汚れはこれで何とか・・・・なる?

 似た様なのに浄化がある。

 【ピュリフィケーション】というのだが、残念ながら俺には使えない。

 取得はしたが。


 そして今現在使用中の魔法がある。

 【キュアー】治療なんかもある。

【リカバリー】所謂回復だ。

 因みにヒールってのは回復とは無関係だ。誰がヒールを回復と言ったんだ?

 単なる愚痴だ。

 あ、違うか。

 あれは癒すって事らしい。たぶん精神的な治療だな。

 精神はマインドだが・・・・なかなか難しいな。


 おっとすまん、魔法の蘊蓄をついつい・・・・ってそれどころじゃねえ!


 身体が動かないから何とか魔法で治療を行っているが、俺のレベルじゃ焼け石に水だ。

 あっという間に魔力が無くなる。

 辛うじてもう一度使えそうなので、何とか使う・・・・使った瞬間再び背中に衝撃が。


 俺はこの瞬間、魔力の枯渇とあまりもの痛さに意識が朦朧として・・・・外野が何か五月蠅いが、それも徐々に聞こえなくなってきた。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 あー昨日は呑み過ぎた。まさか地面で寝てしまっているとは。

 俺は気が付けば地面で寝ていたようだ。

 道路じゃなくてよかったぜ!

 泥酔中に道路で寝て、車に・・・・って事になったらシャレにならんしな。

 で、俺は起き上がろうとしたが、何やら違和感を覚えた。

 腹がつっかえて起き上がれん!なんだこれ。

 そして妙に体中が痛い。

 あ?まさか実は道路で寝ていて車に轢かれた?

 やっちまったぜ俺氏!

 因みに俺の名は・・・・あれ?

 ここでふと気が付いた。

 俺は日本人だ。

 有城 洸貴ありしろ ひろきだ。

 44歳になる今だ独身の身・・・・だよな?

 だが頭の中で俺の名はティモ・フローレクと認識している。

 どういう事だ?


 俺は暫く考えながらなんとか体を起こした。

 まあこの身体と付き合ってかれこれ28年だからな・・・・おかしい。俺は44歳のはずだ・・・・何かがおかしい。


 俺は自分の腕を見た。

 一部炭化している。

 そして何か焼ける臭いがする。

 俺は徐々に思い出していく。

 そうだ!俺はダンジョンの入り口に突き飛ばされ、そしてさらに追撃を受けたんだ。

 で、ダメージを受けた身体を何とかしようと、回復魔法を使っていたはずなんだが・・・・そうだ、また衝撃を受け2度目の魔法を唱えた所で意識が・・・・


 俺はふと思った。俺は誰なんだ?

 俺の名はティモ・フローレクだ、間違いない。

 そして有城 洸貴でもある。

 ・・・・ひょっとして俺は転生か憑依をしたのか?だが少し待ってほしい。

 俺はティモとしての記憶がある。

 流石に幼い頃の記憶はあやふやだが、断片的に覚えている。

 じゃあ何だ?俺はダンジョンの視えない壁にぶつかった影響で、前世を思い出したって事か?

 うーん・・・・今は全く役に立たねえな!

 何故ってほら、俺の背後はダンジョンの視えない壁がある訳で、その外では俺を突き飛ばした荒くれ冒険者がいて、誰かと揉めている声が聞こえてくるんだ。

 このままここに留まっていると、俺はまたあいつに何かされるんじゃねえか?

 その前に万が一があるからそれに備え、一本だけ常備している怪我に効くポーションを取り出し飲んだ。

 流石はポーションを入れている容れ物。

 あれだけ痛めつけられても割れないとか何で出来ているんだ?


 この時俺は背後の声をもっとよく聞いておけばよかったのだが、危険を感じ有り得ない選択、つまりダンジョンの奥へと向かったのだった・・・・

 そうそう、ダンジョンの入り口付近は流石に明るいが、奥は真っ暗。

 採取したばかりのヒカリ苔を取り出し、奥へ投げた。

 これで良し。


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