美しき魂

しかし、二人が次の日に穏やかに再会できることは無かった。

戦争の激化。

テネレッツァの国は夜、奇襲を受けていた。

テネレッツァは再び鎧を身に纏い、前線へと駆け出していく。

連合国による突然の奇襲。

勝てる見込みのない戦だった。


戦から戻ったばかりで疲弊している兵士たちが次々と倒れていく。

テネレッツァも無心で剣を振り回していた。

自分が立ち続けている間は家族が逃げられる。

それをブレない芯にして立ち続けていた。

しかし、猛攻はとどまることを知らない。

向こうも勝負をかけてきていたのだ。

そして、ついにテネレッツァの胸を一本の矢が貫いた。


「嫌だ!死なないで!」


突如現れたそれに、敵味方皆が体を硬直させた。

アモルはあれから嫌な予感がし、ずっと水鏡をのぞき続けていたのである。


「いっぱい話そうって約束したじゃないか!やだよ、死なせない!」


アモルはテネレッツァに向けて必死に神力を送り込んだ。

生きていてほしかった。

幸せになってほしかった。

しかし、アモルは命を創造できる神ではない。

テネレッツァはかろうじて一命をとりとめたが…


「ぐわぁーっ!!」


口からは牙が生え、目は真っ赤に血走り悪魔モドキの姿となってしまい、雄叫びを上げ躊躇なく人に襲いかかり始めた。

魂狩を行う悪魔となってしまったのである。


「そうじゃない…そうじゃないのに…。」


アモルは自らの力を呪った。

敵味方関係なく、人々の魂を刈り取っていくテネレッツァ。


「絶対、私が悪だと判断したら殺してくださいね?」


テネレッツァの言葉が頭をよぎった。


「俺がやらなきゃ…テネレッツァはこんなの…望んでない…。」


アモルはテネレッツァに向かい走り出す。

逃げ惑う人々。

荒れ狂うテネレッツァ。


アモルはテネレッツァをフワッと抱きしめた。


「ごめん…ごめん…ごめんね…テネレッツァ。幸せになれって言ったのに…何も力になれなくてごめんね…ごめんね。」


アモルの目からは涙が溢れていた。

アモルの触れた者は魂を奪われる。

テネレッツァはゆっくりアモルにうなだれていった。


「こんなぬくもりの中で死ねるなんて…幸せだよ。ありがとう、アモル。」


悪魔となってしまった彼女の体は残ることはない。

キラキラとしか光と変わりながら、ゆっくりと溶けるようにテネレッツァの姿は見えなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る