約束
二人は目があった。
一方は身体中が血まみれな一人の女戦士。
一方は…肌は浅黒く、口からはするどい牙が生え、目は真っ赤であり、大きな角が生えており、背中にはコウモリのような真っ黒な羽が生えている。爪もするどく、足は烏のようであった。
アモルは愛の神でありながらも、人間の魂を刈り取れる存在であるため、人間が恐れ近寄らないように醜い姿をしている。
先に動き出したのはテネレッツァの方だった。
自らが握った剣に目をやる。
自らの首に触れてみる。
傷はない。
どうやらまだ死んだ訳では無いと認識する。
ということはお迎えではない。
…、テネレッツァは考える。
というのも、周りは見晴らしが良い場所なのに、いきなり降ってきた存在であること。
そしてその見た目に一番問題があった。
それは皆が悪魔と呼ぶ存在の姿であったのだ。
そんな見た目であるからこそ、テネレッツァは自分が罪を侵した人間だから罰を与えにきたのか?とも思ったが…。
その悪魔のような存在があまりにもキョトンとしている為、テネレッツァもまた困惑した。
「あ、あの…どちらさまでしょうか?…。」
自らから名乗るのが礼儀ということさえ忘れて尋ねていた。
………。
!?
アモルはハッと我に返った。
やってしまった。
勝手に外界に降りてしまった。
創造神に叱られる。
一番に考えたのはそれだった。
「あ…あの…。」
テネレッツァはもう一度声をかける。
!?
「わぁっ!!………え?君、俺怖くないの?」
話しかけられたことに同様して大声をあげてしまったアモル。
だが不思議だった。
未知の生き物だし、人間が恐れるように造った(てへぺろ)と言っていた創造神の言葉を信じてきていたので、怖がられるのが当たり前だと思ってきたからである。
「たしかに…変わった方だなとは思いますが…なんででしょう…?悪い方には思えなくて。急に降ってこられたのでビックリしましたが…。」
テネレッツァ自身も冷静な自分が不思議ではあった。
「え…っと…アモル…と申します。職業は死神で…悪に染まりきった人間増えすぎた人間の魂を狩るのが仕事です…。まぁ、まだ一度も狩ったことはありませんが…。」
何故か敬語で、しかも真実を話してしまうアモル。
まるでお見合いのような空気感がそこにはある。
魂を狩る、その言葉にテネレッツァは反応した。
「アモル様!では私の魂を狩ってください。私は…悪です…。」
うつむき言葉を放つテネレッツァ。
「俺にはまったく悪には見えないけど?信じてもらえるかわからないけど、君はとても綺麗な魂の色をしているから。ただちょっとたしかに光に陰りは見えるけど、これは悲しんでるからだから。」
?となるテネレッツァ。
「これでも毎日たくさんの人間をみてきたからね。間違いないよ。君は美しい魂の持ち主だよ。本当に綺麗。」
その言葉にテネレッツァは心に詰まっていたカケラがポロッと1個取れた気がした。
それでも、自分が間違えた選択については心が濁った。
「私は今日…戦闘能力のない一般市民を殺してしまいました。私は悪です。」
握っていた剣を横に寝かせ、きちんとアモルの目をまっすぐ見つめた。
たしかに赤黒く恐ろしい印象を持たれそうな目ではあったが、全体から伝わる雰囲気に優しさを感じずにはいられなかった。
ただでも、だからこそか、この神?に自分の命を終わらせてほしかった。
「んー悪って言葉の意味の解釈違いだね。君はたしかに罪のない一般市民を手にかけてしまったかもしれない。ただ、俺にしてみれば戦争中にはよくあることだよ。戦争は人間を悪のように変えてしまうからね。戦争が悪だよ。君は人を殺めたのが罪だと思うのなら、その罪も背負って生きていけばいい。そして絶対に幸せになること。これが君の枷だね。」
「?幸せになる??」
罪を背負って苦しんで生きるが普通では?と、テネレッツァは思った。
「そう、幸せになること。人は幸せであれば、そもそも戦争なんてしないはずなんだよ。何度も言うけど戦争が悪なの。君、王族の人間でしょ?何か戦争を止められる位置にいる素晴らしい人間だと思うけどな。」
「王族の人間だけど…私は王家にはいらない人間ですから…。その力もないです。私は無力な必要のない人間なんです。」
事実そうだった。
さっき王族の話を聞いた時は耳を疑ったくらいだ。
アモルはしばらく黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「君が世に言うメンヘラってやつか。初めてお会いしたよ。俺の見た目も気持ち悪がらないし。」
テネレッツァは目を丸くして聞いていた。
「今まで君を見ていなかったから知らなかったけど、本当にしんどい想いをしてきたんだね。ここまでよく頑張ってきたね。誰にも必要されないからって、自らが剣を握って戦争にいくなんて…。頑張って体も鍛えたんだね。それだけ血を浴びるくらい前線にたっているんだね。誰もがやりたくないことを率先してやってるんだね。君は素晴らしい存在だよ。無力なんかじゃない。君なりに一生懸命やってるじゃん。君は…すごいよ。」
馬鹿にされるのかと思った。
ポロポロポロッ
テネレッツァの中につかえていたものが、どんどん溢れ出していく。
「そうだ。俺、君の自殺を止めたくて慌てて水鏡に飛び込んだんだった。死ななくていいよ。てか、死なないでよ。俺が嫌だからさ。きっと戦争はまだ無くならないだろうけど、一回君は心の休息をしたほうがいいよ。行かなくていい。誰かのためじゃなくて一回自分を生きてみなよ。」
「それは無理だよ。私の生きる意味がなくなる。もっと私は必要ない人間になるよ。やだ。怖いよ…。」
テネレッツァは慌てて首を横にふり、せっかく止まっていた涙が再び溢れ出しそうになっていた。
「…そっか…。…。わかった!じゃあ、俺が毎日君に会いに行くから。俺の話し相手になってよ。世界に干渉するのは叱られるけど、俺、人間のことちゃんと知りたいんだよね。」
黙るテネレッツァ。
兵として戦わないで国のために生きないで…本当にそれでいいのか、テネレッツァは真剣に考えていた。
家族も私の死を望んでいることはウスウス気づいている。
戦争で亡くなったら都合がいいのではないだろうか?
いくら神様の頼みといえ…私なんかが神の役にたてるのだろうが…。
「また誰かの為を考えてるでしょ?もったいない。君は元々が周りの為を考えられる人だから、自分の為を優先したところでやっとイーブンになるくらいだから何も心配いらないから。」
自分の為=ただのワガママになるのでは?とつねに頭はネガティブ全開であった。
「じゃあわかった。君が本当に悪だと思ったら躊躇することなく君の魂を狩らせてもらう。神基準なら誰も文句ないでしょ?約束する。だから今は生きてほしい。」
自分が悪なら殺してもらえる。
その言葉でやっと決心がついた。
「わかりました…一度考え直してみます。ただ、絶対、私が悪だと判断したら殺してくださいね?」
「わかったわかった。神に二言はない。絶対明日も会いに行くから。…名前は?」
「テネレッツァ。」
「名前も綺麗だね。俺はいつでも君を見守ってるからね。じゃあ、また明日。」
そういうと、アモルは一瞬で目の前から姿を消した。
見た目の恐ろしい、だけどあたたかい言葉をくれる神。
テネレッツァは、あたりがすっかり夕暮れ時になっていることに気がついた。
はやく帰って夕食の準備に間に合わなければ。
そう思い慌てて剣を柄に直そうとした時、黒い羽が落ちているのが目に入った。
静かに手に取ると、浮かんできたのは恐ろしい姿の悪魔のような存在だった。
だけど自然と笑みがこぼれた。
彼は、たしかに愛の神だった。
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