第9話 この気持ちの正体

 教室を飛び出した勢いのまま家に帰った私はベッドに倒れ込む。

 布団に顔をうずめて悶える。


「ああ〜、やっちゃったよ」


 どうしてあんな感情を抱いてしまったんだろう。

 奏音が他の女子と仲良さそうにしていたから?

 でも、奏音の人望が厚いのは私にとっても誇らしいことだし、勉強を教えるのだって奏音の優しさの表れだろう。

 だったら私はそのことを喜べば良かったのに、なぜかあの光景を見ているのがつらかった。


「私は奏音のあの優しさを好きになったはずなのに、それを否定してしまったら私の気持ちは……」


 私はまた、正体を掴みきれない矛盾に心を乱される。

 奏音と再会してからこればっかりだ。

 頭では否定したいのに、抑えようとするのも億劫になるくらい大きな感情が腹の底から湧いてきて、私を理性ごと押しのけようとする。

 

「一体この感情は何?」


 そうつぶやくのと同時に、控えめなノックの音が聞こえてきた。


「お姉ちゃん……入ってもいい?」


「……どうぞ」


 ゆっくりとドアが開き、妹が部屋に入ってくる。


「どうしたの?」


「さっき帰ってきたときのお姉ちゃん、なんだか元気がなさそうだったから」


「ありがとう。でも、気にしないで。これは私の問題だから」

 

「……奏音くんとなにかあったの?」


 す、鋭い。

 たしかにこれは私だけの問題。だけど、一人で考えていても埒が明かないのも確かだ。

 ここはひとつ、妹に相談してみるのもありかもしれない。


「理由と感情ってどっちを大切にしたらいいのかな?」


 私は今日見たこと、感じたことをなるべくそのまま妹に伝える。


「お姉ちゃんのその気持ちは――きっとやきもちだよ」


「やきもち……?」


「うん。好きな人に、自分のことを一番好きでいてほしいって願う気持ちのこと」


 私と違って恋愛経験が豊富な妹の言うことだから、おそらくそれは正しいのだろう。

 しかし、この感情を抱いてしまうことは、やきもちをやくことははたして正しいのだろうか。


「それでもやっぱり、私にはよく分からないよ」


「うん。誰にも分からない。だから、自分なりの答えを見つけて納得するしかないの」


 さすが恋愛マスターの妹。説得力が違う。

 それでも私は、ようやく自分の気持ちの正体を掴めた気がする。

 

 ピンポーン。

 妹との会話が一段落したところでインターホンが鳴った。

 玄関まで行きドアを開けると、そこには奏音が立っていた。

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