第8話 掴めそうで掴めない
昼ご飯を食べた後は少しのんびりしてからパステルカラーのコーヒーカップで和やかな時間を楽しんだ。
「美緒、最後に観覧車に乗ろう」
「うん。実は私、子どもの頃から観覧車が一番好きなんだ」
観覧車の列はちょうど空いていて、あまり待つことなく乗ることができた。
手を繋いだまま隣り合わせで座ると、ゆっくりとゴンドラが上がり始める。
「あ! 見て見て。あそこ、最初に入ったお化け屋敷だ」
「本当だ。あ、あっちにはジェットコースターもあるぞ。あんなにデカかったんだな」
徐々に広がる景色に、今日の思い出が蘇ってくる。
そして、ゴンドラが頂点に差し掛かろうとしたとき、私たちの気持ちも最高潮に達した。
2人だけの空間で顔を見合わせ、そのまま唇を重ねる。
どちらからともなく、私たちは求め合う。
一度唇を離すと奏音の顔が見え、さらに愛おしくなって軽いキスを何度も繰り返す。
「奏音、好きだよ……」
「俺も好きだ」
キスを終えた後もゴンドラが地上に戻るまでの間、奏音に体をくっつけて自分の頭を奏音の肩に乗せ、余韻に浸る。
それからの帰り道はさすがに疲れて会話はあまりなかったけど、今日一日を通して私は奏音の心と深く繋がれた気がした。
その次の日、私がいつものように奏音の教室まで迎えに行くと、なにやら話し声が聞こえてきた。
「ありがとう。奏音くん」
え?
教室を覗くと、奏音と隣り合って机に座り勉強を教えてもらっている女子の姿があった。
「じゃあ、今日はここまでにしようか」
私が来たことに気づいたのか、奏音は隣の女子に声をかけて立ち上がる。
「おまたせ、美緒」
そう言おうとした奏音だったが、私の顔を見て言いよどむ。
その女は誰?
その女と何をしていたの?
私は今どんな表情なんだろう?
その女とはどういう関係なの?
その女は奏音のことをどう思ってるの?
奏音にとっての私は何なの?
昨日感じた愛は全部嘘だったの?
思考が上手くまとまらない。
私は今何を感じているの?
この場で口を開いたら、取り返しのつかないことを言ってしまいそうな気がして怖い。
「ごめん、今日は私、先に帰るね」
そう言うだけで精一杯だった。
「ちょっと待って、美緒!」
奏音の制止を無視し、私は駆け出した。
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