第5話 この気持ちは止まらない
「やっぱり、お母さんも言ってたとおり、この気持ちは伝えた方がいい気がする」
自分から何も行動を起こさずにただ他人のことを妬むなんて、そんなことはしたくない。
それに、この膨れ上がった感情を胸の中に隠したまま過ごすのはとてもつらいと、直感的にそう思った。
「だけど、……怖い」
自分の気持ちを伝えたとき、それが奏音に届かなかったらどうしよう。
いや、奏音ならきっと受け止めてくれる。
「私が本当に怖いのは、奏音の気持ちを知ることだ」
でも、やるしかない。
私と奏音2人の気持ちをお互いに確かめ合うしかないんだ。
そう決めた私は、高鳴る心臓を布団の中の闇に押し込んだ。
次の日の放課後、私は奏音がいる隣のクラスに足を運んだ。
「ね、ねぇ、奏音。今日も一緒に帰らない?」
「もちろんいいよ。あ、でも俺今日日直だから、その仕事が終わってからでもいい?」
「じゃあ、私、手伝うよ」
「本当!? 助かる」
黒板を綺麗にしたり机や椅子の整頓をしたりしていると、気づけば教室に残っているのは私たちだけになっていた。
「ありがと~。美緒のおかげで思ってたより早く終わったよ」
告白するなら今しかない。
そう思うけれど、いざ奏音を前にすると弱々しく唇が震えるばかりで、言葉にはならない。
「どうかした?」
奏音が心配そうな顔で私の目を覗き込む。
どうしようもないくらい自分のことしか考えていない私のことを、奏音はこんなにも気遣ってくれるなんて。
その瞬間、私の胸に熱いものが込み上げてきた。
「あの! ……私、昨日再会したときから奏音のこと……ううん、それよりもっと前。幼馴染として遊んでいたころから奏音と一緒にいるのが楽しくて――」
しどろもどろに話す私の言葉を、奏音はただ見守るように聞いてくれた。
「でも! 昨日会ったときはそれだけじゃなくて、自分勝手な醜い感情も
うつむいた私の視界が滲んてくる。
しかし、奏音の動く気配に顔を上げた瞬間、目の前に奏音の胸が迫ってきた。
「美緒は何も間違っていないよ。美緒の偽りのない気持ちなら、俺は黙ってそれを受け取る」
ぎゅう〜、と奏音の抱きしめる力が強くなる。
「美緒、俺も美緒に伝えたいことがあるから、今からあの公園に行こう?」
本当にこのままで良いのか、 納得しきれない部分もあったけれど、私は奏音の甘い誘惑に抗うことができず、自分の中の違和感には気づかないふりをして私たちは公園へと向かった。
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