第3話 心地いい矛盾
歩き始めて数分は思い出話に花が咲いたが、やがてどちらからともなく口数が減っていき、ついに沈黙が訪れる。
2人の足音が響く中、先に口を開いたのは奏音だった。
「美緒は今もよくあの公園に行くの?」
「……うん」
「相変わらず、美緒は美緒のままだね」
奏音は嬉しそうにそう言うが、一方の私は過去にしがみついたままの自分を肯定できずにうつむく。
「そう言う奏音はずいぶん変わったね。しばらく見ない間に、すごく大人びた」
「そうかな?」
「うん。私のクラスにも奏音のファンがたくさんいるよ」
「でも、いくらモテても好きな人に振り向いてもらえなきゃ意味ないよ」
好きな人、かぁ。やっぱり奏音には好きな人がいるのか。
でもこれは奏音の問題。そう分かっているのに、私はもやもやとした感情を抱いてしまう。
奏音に好きな人がいることを知って、悔しいとか羨ましいとか、そういう感情。
そして、まだ奏音はその好きな人に振り向いてもらえていないことに対する安心感のようなもの。
どちらも間違った感情だ。だって、奏音に好きな人がいようが私には関係のない話で、むしろ応援すべきはずなのに。
「美緒? どうかした?」
奏音の声を聞き我に返る。
こんなことを考えている場合じゃない。
私はさっきまで抱いていた暗い感情を心の奥底にしまい込む。
「ううん。なんでもない。あ、もう家だね。今日は本当にありがとう」
「あれくらい全然いいよ。むしろ、もっと俺を頼って」
「そんなに頼るわけにはいかないよ。じゃあまた今度」
「うん。じゃあまた」
別れを告げた私は逃げるように家の中に入ると、玄関のドアを背にしゃがみ込んだ。
さっきの私は、奏音から変なふうに見えなかっただろうか。うまく笑えていただろうか。
こんな感情、初めてだ。奏音と一緒にいると不安で心配な気持ちになるのに、奏音のそばにいると不思議な安心感に包まれる。
矛盾した色々な感情が私の中で暴れて心がぐちゃぐちゃになる。
でも、なんだろう。今はこの矛盾した流れに体を預けたいと思うような。
そんな心地よさを感じる私だった。
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