第2話 たとえ勘違いだとしても

「嫌!」


 私は思わず目をつむって顔を背ける。


「何してんの?」


 しかし、巴のいる方向から柔らかい声が聞こえてきて目を開ける。


「奏音!?」


 そこには、巴の右手を掴む、幼馴染の奏音の姿があった。


「なんで君がそのストラップを持っているの? それは俺が美緒にあげた物なんだけど」


「それは……」


「美緒に返して。それで、美緒に謝って」


「でもっ。……ごめんなさい」


 一瞬躊躇ためらいを見せた巴だったが奏音の鬼気迫る表情に気圧されたのか、私に頭を下げてストラップを返してくれた。

 そうして巴がその場を立ち去ると、辺りにいるのは私と奏音の2人だけになった。


「ありがとう、奏音。助かった」

 

「いいよ、あのくらい。それよりあのストラップ、まだ大事にしてくれてたんだ」


「当たり前だよ。だってあのストラップは……」


「……?」


「ううん、なんでもない」


 私は話をそらしたくて奏音に疑問をぶつける。

 

「でも、どうして?」


「どうしてって、何が?」


「どうして私を助けてくれたの?」


 私と奏音は、小学校は同じだったけど中学は違う。そして高校でまた一緒になったのだ。

 高校で再会したものの、どこか気まずく以前のように仲良く話すことはなくなってしまった。

 それに、3年ぶりに会った奏音は垢抜けてモテモテになっていたからますます話しかけづらかった。

 だから私は、奏音とはもうすっかり縁が切れてしまったんだと思っていた。


「そんなの、美緒のために決まってる」


 しかし奏音の甘い声に、私は思わず勘違いしそうになる。

 奏音は私のことが好きなんじゃないか、と。

 だけどそんな妄想は間違ってるに決まってる。

 たまたま通りかかっただけなんだろう。きっと、話すことも今日の一回きりなのだろう。なにより、あんなにかっこいい奏音に自分が似合うわけがない。


「美緒、今日は久しぶりに一緒に帰らない?」


 そう思うから、私は奏音の甘い誘惑に逆らうことができない。

 今日この瞬間だけは勘違いしていたい。


 私は今日、3年ぶりに奏音と2人で家に帰った。

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