2人の
盛山山葵
「好き」
第1話 変われない私と移ろう世界
年季を感じる校舎に到着した私は靴を履き替えようとしてため息をつく。
「はぁ~。またか」
下駄箱の、本来収まっているはずの場所に上履きが入っていない。
辺りを見回して探すと、掲示物が並べられた机の下に転がっているのを見つけた。
またアイツ――
何が気に障ったのか、先月からやたらと私に突っかかってくる。最初は気にも留めていなかったが、最近エスカレートしてきたのもあり、そろそろ誰かに相談した方がいいかもな、と思うけど。
「そうは言っても、コツコツ勉強することしか取り柄がない私には相談できるような友だちなんていないんだよな」
しかしその日はそれ以降、巴からの嫌がらせはないまま学校が終わった。
ようやく落ち着いてきたのか、と安堵しながら私はいつもの公園に行く。
小学生の頃から、ここの公園のブランコに揺られてから家に帰るのが私の日課で、高校生になった今でもその習慣は続いている。
小学生のときは私にも一緒に外で遊び回るような友だちがいて、いつもこの公園で遊んでいた。あの頃はずいぶんにぎやかだったのに、今は錆びついたブランコと私というつまらない人間しかこの空間には存在しない。
そのことに対して寂しさと同時に、じんわりと安らぎのようなものも感じる自分がいる。
「ずっとここにいたいな」
だけど、私だけここにとどまるわけにはいかないだろう。他の友だちはみんな新しい人間関係を作って、新しい舞台を生きているんだ。
頭では分かっているのに、私はこの優しくて温かい空間に、つい身体を委ねてしまう。
「そろそろ家に帰らなきゃ」
つい考えこんでしまった。すっかり夕暮れだ。
ブランコから降り、公園から出ようと歩き始めたところで声を掛けられる。
「あ、
馴れ馴れしい口調で話しかけてきたのは、悠然とした態度で立ちはだかる巴だった。
「白々しいこと言わないで。どうせ後をつけて来たんでしょ。あなたと話すことなんて何もないから」
そう言って巴の横を通りすぎ、公園を後にしようとする私だったが、巴の言葉に足を止める。
「あれ?
「それは……!」
振り返って見ると、巴の右手には私が普段からカバンに付けているストラップがあった。
小学生の頃からずっと大事に持っている、大切な人からもらった特別な物。
「返して!」
ストラップを取り返そうと掴みかかるが、軽くかわされる。
「あははっ! これ、そんなに大事なんだ?」
「返してよ」
今まで溜まっていた苛立ちをぶつけるように言うが、巴は気にするどころか楽しそうな様子で笑っている。
「こんなもの、いらないよね?」
そう言って巴はストラップを持った手を振り上げる。
「やめて――!!」
そして巴は、私が止める間もなく側溝に向かってストラップを投げつけた。
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