3
どれくらいの時間そうしていただろうか。もしかすると本の数秒の間だけかもしれないけれど、私はこの沈黙がとても怖かった。
「....それってどういう意味ですか?」
「....え?」
「その....好き、とか....誰にでも使うんですか?先輩って」
そう言われて、私はハッとする。さっきは、あまりにも自然に出てしまったから気にもしなかったのに。自分が『好き』と発したのを理解すると、全身から火が出そうなほど体温が急激に上がり始める。
「えっ....えっと?」
「すみません.....でも、一つだけ聞いてもいいですか?」
「なに....?」
全身から火が出そうなほどの熱が抜けない私を置いて、日向くんは話を続ける。こんなによく喋っている日向くんを見るのは、初めてかもしれない。なんて、火照るからだとは反対に頭の中ではそんなことを考えていた。
「先輩、好きな人とかいるんですか?」
「.......?!」
この状況でそれは反則だろ。頭の中に一番に浮かんだ
「あっ、あのっ......」
いつもなら笑って返せるはずなのに、今日はそれができなかった。いつもなら、そう....いつもなら....『年上をからかうな』なんて、笑い話にして終われるのに。いつもなら、日向くんだって可愛らしい笑顔で話しているはずなのに。今日はとても真剣な表情をしていた。
「もっ、もう!!からかってる?!」
あぁ、やばい。
何がやばいのかは分からなかったけれど、とにかくやばいのだ。私の恋愛に関する気持ちは、あの時にちゃんと後始末をしたつもりだった。けれど私の中で、ぐらり。と何かが揺れ動いた気がした。それも、かなり大きく。
「先輩......?」
声をかけられて気がつく。私はどれくらいここで固まっていたんだろう。
「質問の答えはまた今度聞きますね。それじゃあ、僕はこれで」
そう言って去っていく日向くんの姿は、さっきとは真逆のいつもの可愛らしいものだった。
「策士め....」
私は思わず呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます