2

 お昼からの時間はあっとゆう間だった。元々今日はいつもよりお客さんも少なかったけれど、午前中より午後の方が時間の進み方が早い気がする。


「お疲れ様〜!あと片付けは私がやっておくから暗くなる前に帰りなね!」


「えっ、でも...」


「いーのいーの!いつも頑張ってくれてるし、それに....」


 麻由さんは、お店の出入口の方に視線を向けて微笑んで言葉を続ける。


「待ってくれてる人も、いるみたいだし...?」


「え.....?」


 私は意味が分からずに、麻由さんの視線の先を見た。そこには、扉を背にして日向くんが立っていた。


「なんで?!」


 私が驚いていると、麻由さんはイタズラが成功したときの子供のように笑って『さぁ?』と口を動かした。麻由さんは時々、何がしたいのか分からないときがある。いい意味でも悪い意味でも、麻由さんのイタズラには毎回驚かされる。けれどそのイタズラがあるおかげで、毎日飽きずにここでやっていけている。


「あのほんと....今回はなんでまた?いつも私、これくらいの明るさなら一人でも大丈夫ですよ...?というか、冬場で暗くても普通に一人で.....」


 私がそう言うと、麻由さんは小さくため息をついて明らかに落ち込んだ顔になる。今回も本当に何がしたいのか、まるで分からないけれど...今私がここで麻由さんのイタズラに乗らずにいつも通り帰ると、なんとなく悪い気がした。麻由さんなりに何か考えがあることは確かなんだろう。


「わかりました。それじゃあ、お言葉に甘えてお先に失礼します」


「ん、じゃーまた明日!」


 そう言って私を見送る麻由の表情は、明るいものに戻っていた。



「ほんと...なんだったんだ....?」


 帰る支度を済ませて、お店を出る。モヤモヤと考え事をしながら、帰り道を歩いていると後ろから『お疲れ様です』と声をかけられる。


「あっ、お疲れ様.....じゃないか。こんばんは....かな?今日は本当によく会うね」


 私が少し慌てたように言うと、日向くんは『そうですね』と微笑む。この笑顔をることも、私のちょっとした楽しみであることは自分以外誰も知らない......はずだ....多分。


「今日もいい天気でしたね。忙しかったですか?」


「んやー?いつもよりは.....あ、でも今日来てたお客さん日向くんに会いたがってたよ。」


「え?」


「この前途中まで荷物持って着いてきてくれて〜って。」


「あぁ、たくさん持ってたので心配で....」


「そっか、そういう優しいとこ私は好きだよ」


 私がそう言うと、日向くんは驚いた顔でこちらを見て固まってしまった。私は何か、やばいことでも言ってしまったのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る