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「札、ひっくり返してきますね!」


「ん、よろしく〜」


 外へ出て、お店の扉にかかっている木の札をひっくり返す。私は札を返すときの音が好きで、今日みたいに人数の少ない日は必ずやると自分の中で決めている。そうすることでなんとなく、いつもより気合いが入る気がする。


「お、無事咲いたねぇ....。良かった....」


 ふと、扉の斜め前に置いてあるチューリップの鉢植えが目に入った。白いチューリップが風に吹かれてゆらゆら揺れていた。


「あの....」


 声がした方に目を向けると、背の高いショートヘアの子が私のことを見ていた。日向くんだ。


「....あっ、いらっしゃいませ!.....って、あれ?今日お休みなんじゃ......?」


「そうなんですけど....ちょっと相談が......」


「相談?麻由さんならお店の中にいるよ」


「はい、ありがとうございます.....!」


 日向くんはそう言うと、嬉しそうにお店の中に入っていった。日向くんは一つ年下の男の子で、とても可愛らしい顔立ちをしている。だからなのか、初対面の人には女の子と間違えられる事が多いのだそう。本人はそれがコンプレックスなんだとか。


「私も入るか....」


 外での作業を終えて、お店の中に入る。ついさっきまでお店の中で話していた麻由さん達は、裏に入って話し込んでいるようでここには私しかいなかった。


「うわっ、申し訳ないことしたな...」


 ✱✱✱


「はい、気をつけて持ってね」


「うん!おねーさんありがとう!」


 小さい花束を持った女の子を見送る。毎日たくさんのお客さんがくるけれど、たまに小さい子ども達だけでお店にやってくるときがある。そういう子達が、誰かのために一生懸命花を選んでいるの見ているとこっちまで笑顔になる。そんな瞬間が、ここで働いている間の密かな楽しみになっていたりする。


「ふぅ......」


「お疲れ様〜!大丈夫?」


「はい、いつもよりは少ないかも....?あ、お話終わりました?」


「ん、長いこと空けちゃってごめんね〜。そろそろお昼だから代わるよ」


「はい!ありがとうこざいます!!!」


 私は今日の昼までにあった嬉しかったことを思い出しながら、お店の裏へ入った。

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