第2話 好きだけど

「あ、きた。天谷さーん」


 昨日とは違う可愛い髪型で姫咲さんは私を迎えた。


「おはよう姫咲さん」

「うん、おはよ〜」


 姫咲さんはすっかり可愛い子モードに入ってる。そりゃそうだ。もう既に同じ学校の子達からの視線が沢山向けられているのだから。

 すると姫咲さんは私の顔をチラチラと見たあとに口を開いた。


「ねえ、苗字で呼ぶのちょっと距離感ないかなぁ、私下の名前で呼びたい! ……いいかな、美咲?」


 姫咲さんは可愛い表情で私の顔をのぞき込む。


「……っ、わかったよ。彩夏」


 そんな彼女の顔に負けて私はため息をついた。私ってほんとにちょろい。

 平常心、平常心……。


「あれ天谷先輩と姫咲先輩……? なんで一緒に……」

「あの二人話してるとこ見た事ないけど」

「こう見ると二人、お似合いだな……」


 ちょうど人の多い時間帯だったことから、目立つ私たちは注目の的。

 ……うぅ、視線と声が辛い。だめだ、私は学校ではかっこいい先輩なんだから。こんな所で……。


「皆こっちみてるね……美咲緊張してる? 大丈夫だよ、私があとで話しとくから」

「話しとくって何を……?」

「んー、色々?」


 付き合ってるのをバラしたらみんな混乱するだろうしさすがに言わないと思うけど。

 ……ほんとにみんな私たちの方しか見てない。違う道から行こうって言えばよかった。

 彩夏、バラしたりしないよね……?


◆◆◆


「美咲〜、遊びに来たんだぁ一緒にお弁当食べよ〜」


 声のする方を向いてみれば彩夏が廊下の窓から教室の私に向かって大きく手を振っていた。


「あ、うん。今行く」


 おかげで皆の視線はまた私の方に向けられていた。何を話したのか知らないけどこの視線は当分向けられそうだ。


「あやちゃん! 天谷さんと……ど、どういう関係なの……!?」


 隣の教室からだろうか、女の子が飛び出してきて彩夏に詰め寄っている。

 ……この子は昨日彩夏と靴箱にいた子?


「急に一緒に登校してきて、今まで話してたとこなんて見た事ないのに。しかも下の名前で呼びあってるし……天谷さんだけがあやちゃんを独り占めにするなんて……ずるい」

「……」


 何故か嫉妬の意を向けられて、私はしばらく黙り込む。


「ちょっと! 天谷さん困ってるじゃない!」


 あの子は確か私のファンの子……。まさかこれが人を巻き込むなんて思わなかった。どうしよう。


「ちょっと皆落ち着いて​───」

「あー、皆! 突然過ぎてごめんね? びっくりしちゃったかな……。実は前から学校以外でだけ仲良くしてたの。それで、今日皆に言っちゃおうと思って……」


 この人、まさか……


「彩夏……!」

「私たち、昨日付き合ったの」


 教室がドッと驚きと困惑の声で包まれた。彩夏のとんでもない発言に私は思わずため息をつく。

 うーん、こういう時何を言うのが正解だろう。


「……皆、落ち着いて。彩夏と付き合ったからと言って皆から離れるわけじゃないよ。いつも通り話しかけて欲しいんだ、変わらずね」


 私の言ったことに納得したのか、困惑しながらも皆ちゃんと頷いている。

 ……うん、これでいい。あとは……


「あと、そこの彩夏の友達さん。私は彩夏を独り占めにする気なんてない。彩夏は皆に愛されてて欲しいんだ。私は外でいつでも会えるから大丈夫」

「……ほんとに付き合ってるの?」

「ほんとだよ」

「皆を騙す嘘とかじゃなくて、ほんとのほんとに?」

「本当だって」

「嘘……そんな訳……あやちゃんが……」


 何を騙す必要があるんだろうか。とにかくこの子は人一倍彩夏への思いが強いみたいだ。

 どうやったら信じてくれるんだ……。

 今、何故かキスをするというのが頭によぎった。確かに信じさせるにはそうしてもいいかもしれない。でも……


 あぁ、もう! どうにでもなれ!


 私は彩夏を抱き寄せて唇を重ねた。昨日のことを思い出しながらしたもので顔が真っ赤になる。


「こ、これで! 信じた、でしょ……?」

「は、はひ……!」


 突然の出来事に驚いたその子は私たちを見つめて顔を赤くしながら声を上げた。

 すると彩夏は私の方をじっと見つめてこう言う。


「美咲……急にそんなことされたらびっくりしちゃうじゃん……私の初キス……」


 彩夏は顔を赤くして俯く。何言ってるんだこの人。初キス……? 昨日のこと記憶にないのか。

 すると彩夏の表情に打たれた皆が「キャー!」と黄色い歓声を上げて大興奮していた。

 ……この、演技派め。


「はいはい皆昼休み終わっちゃうよ。困らせちゃってごめん、またねー」


 私は大急ぎでその場を切り上げて彩夏の腕を引っ張って屋上に連れていく。


◆◆◆


「災難だ……」


 私は屋上に座ってため息を着く。


「私の演技、なかなかじゃない?」

「……演技するのはいいけど、初キスって嘘つくのは私が困惑する」

「だって学校では私、純粋無垢な女の子なんだし、初キスって言った方がいいでしょ」


 確かにそうだけど、それよりも昨日のあそこの記憶だけなくしてるのかと思った。


「それとも、美咲は私の事嫌い?」

「なんでそうなる。話の脈略おかしいでしょ」

「いーから。どうなの、嫌い? 好き?」


 彩夏はどんどん私に詰め寄ってくる。

 好きとか嫌いとかそういう問題じゃないし……。


「……好き、だけど」

「そうだよね、知ってる。顔に書いてるもん」

「もう、うるさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かっこいいとカワイイ 天良みーや @amai_miyabi41

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ