第23話
夜斗はリビングへと真桜を連れていき床に正座させた
舞夜と夜暮が遠くから見守る中、夜斗が手を高く上げて指を鳴らした
「さぁ、事細かに話してもらう。この俺を謀ったのだから、それはそれは上等な理由があるんだろう?」
(…嘘つけ)
夜斗を騙すことなど不可能だ
嘘を見抜くこともできる「眼」を持つ以上、サプライズすら難しい
常にその眼を使っているわけではないため不可能ではないが
「謀った…?」
「俺から逃げ果せたのだからな、俺を騙したと言っても過言じゃないだろ」
1度は捕らえたにも関わらず逃がす…などという不祥事を起こすなどありえない
それほど夜斗は用意周到で狡猾だ
「…嘘はわかるんでしょ、あんたは」
「わかるのと信じるのは別の話だ。お前のような小娘にはわからないか?」
わざと煽るように言う夜斗に苛立ちながらも、桜音が握る銃の圧に耐えかねて顔を伏せる
「…何から話せばいいの」
「裏コードを利用した理由と、どこでそれを知ったのかだ」
「…その名前知ってるなんて…。あんたこそどこで…」
「探偵だからな、その程度の知識はある」
「…裏コードを知ったのはほんとに偶然。お姉ちゃんとお互いの親で家族旅行をしてて、帰りの車の中で寝てたの。私が写真を取り落とした時、ちょうど前の踏切が閉まって深夜が目覚めた」
舞夜が目を閉じ、すぐに開いた
弱々しい雰囲気から一転して強気な様子が見て取れる
「深夜が私の足元に落ちた写真を見て、暴走したの。裏コードって言葉自体は、そのときの深夜が喋ってた言葉。写真に写っていたのはお姉ちゃんのお母さんだけだったけど、守ろうとしたお父さんも深夜に殺された」
「何となく覚えてるわ。たしかに、初回は意図した刷り込みじゃなかったわね」
「そこで私と私の両親は、裏コードを知ったの。そして永久封印するために、暴走が止まったお姉ちゃんを病院に連れて行って記憶処理をした」
「そうね。おかげで、舞夜が私に気づくまで時間がかかったわ」
裏コード…要するに深夜の暴走状態の発見自体はただの偶然だ
しかし、それを利用するのは明確に悪意がある。そう、夜暮は判断した
「…それがどうして、舞夜を…深夜を利用する話になる。恨みか」
夜暮が怒気を孕んだ声で訊ねる
今にも詰め寄りそうな夜暮を深夜が片手で止めた
「貴女、私について何か隠してるわね」
「…なんでそう思うの?」
「貴女にとって、私という存在は恐怖対象でしかないわ。暴走状態ならなおさらよね?それをわざわざ喚び起こしてまで私に人を殺させたのには理由がある。それは、私自身になにかがあるわ」
「…正解。厳密には調べることができたのは半年くらい前で、かつてお姉ちゃんと同じく裏コードを持っていた人の記録を聞いたの」
過去にいたのは男性側だったものの、症状としては似たようなものだ
裏人格の暴走を称して裏コードと呼び、第一の保有者は猟奇殺人のような事件を引き起こした
「その人は、妻を得て子供を成したときに裏コードが消失したと言われてる。だから、強制婚姻で結婚したダメ男が無理矢理にでも子供を作れば、貴女が消えると思った」
「…子供、ね。確証はないということかしら」
「全くないけど、貴女を消すためなら人を殺す。それが私のやり方なの」
何が悪いのか?とでも言いたげにあっさり言い放つ
そんな真桜を睨みながら歩み寄り、舞夜の小さな手で強く頬を張る
「…え…?」
「え、じゃないわよ!なんだかんだ聞いてたら自分のため?冗談じゃないわ!」
「わ、私のためじゃ…」
「貴女のためでしょう!私が消えたら?裏コードが消えたら?使おうとしなければ裏コードなんか起動しないわよ。それを無理矢理起動して、嫌がる舞夜に人殺しの罪を着せたのは、貴女が裏コードに殺されたくないからよ!」
夜暮が深夜を羽交い締めにしようとするが振り払われた
手にした鎮静剤を使うか躊躇していると、夜斗が夜暮の肩を掴んでそれを止める
「夜斗…」
「姉妹喧嘩を他人が止めるのは無意味だ。やらせてやればいい」
「…そうだな」
深夜は散々言いたい放題に真桜を責め立てた
震え始めた真桜に呆れたような目を向けてから抱きしめる
「まぁいいわ。貴女の本音が見えたから。そんなことしなくても、私は自分の意志で消えられる」
「…そうなの?」
「そうよ。ただ、私が持つ負の感情が舞夜に戻るだけ。人よりちょっと強い殺意…。けど、もう舞夜なら問題ないわ」
深夜が夜暮に目を向けてウインクする
「そもそも多重人格とは違って、裏人格は感情が解離してるの。時間が経つと、裏人格も魂を持つけど…魂があれば簡単に死ねるわ」
「…まぁそうだな」
向けられた視線に答える夜斗
少し表情は気まずそうだ
「安心しなさい、東雲真桜。…明日から、貴女のお姉ちゃんをよろしくね」
「待て、深夜。お前どうする気だ」
「安心なさいな。貴方が好きな舞夜は返ってくるわよ。ただ、私が消えるだけ」
「許さん。深夜も、大切な人になっている。邪魔をするなら、夜斗といえども…」
「訓練をしていないお前になにができる」
突然冷たい声に変わった夜斗が夜暮の前に立つ
その体は実際のソレよりかなり大きく見えた
「俺は、少なくとも黒桜と桜坂の技術を持つ。お前はあくまで触りだけやったに過ぎない。そんなお前が俺に勝てるか?」
「…やってみなければわからん。俺が勝てば、深夜の要望を捨て置け」
「…いいぜ」
夜暮は記憶を辿り、時雨に教わった近接格闘を思い出していた
そして水道から落ちる水滴が洗面器に当たる音を皮切りに一歩を踏み出す。が
「…医者が戦闘において武装探偵に勝つことはできない。そう言ったはずだ」
数秒で意識を失わせた夜斗が、地に倒れる夜暮を見下ろす
真桜は従兄でも容赦しない夜斗に恐怖すると同時に、あることを言いそうになっていた
(自分の周りのひとを傷つけられたら怒るのに自分はやるの…?)
深夜は寂しげに真桜を突き放し、また夜斗に目を向ける
ため息を付いた夜斗が深夜の肩を軽く叩き、部屋を出ていった
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