第18話
「夜暮もここか」
「あ、ああ…」
「目的地は察していたけど。澪さんは?」
「俺が買うものの在庫を見るとかで奥に入った。夜斗と元橘は?」
「元橘て…。俺らは澪に頼んで作らせたものの引き取りだ。シリーズ化して売ってるらしいが、俺らのはプロトタイプだな」
戻ってきた澪が夜暮に物を渡し、夜斗に駆け寄る
「夜斗!なんか大きくなった?」
「気の所為だ。身長体重共に前会った時から変わっていない。というか、最後に会ってから3ヶ月くらいだろ」
「なんか気持ち的に大きくなった感じがするんだよねー。その様子だとプロポーズもうまくいったでしょ?」
「ああ。そうじゃなきゃあんなもの依頼しないだろ」
「それもそっか!じゃあこれ依頼のものだから」
澪が渡したのは黒い箱だ
夜暮が受け取ったものより少し大きい
「ああ、ありがとな」
「む…少し大きいな」
「俺が頼んだのはペア仕様だからな。若干規格が違う。これのシリーズのメイン機能は監視用だけど、プロトタイプは細かい振動や光の明滅で相手の体調までわかる」
「…さすがの私たちでも、相手の感情を読めるのがせいぜいだから。体調はお互いに言わないと分からなくて不便」
「それを不便だと感じるのはお前らくらいなものだ」
そしてその機能を使いこなすには夜斗が持つ特殊な眼と、弥生の高性能な耳が必要不可欠
つまり一般人には使えないため、販売のために作られたものはこれのダウングレード版だ
「…つまり、お前たちが持つその共感覚が消えた時点で使えなくなるのか」
「まぁそうだな。その頃には体調すら言わずとも伝わるようになってるはずだ」
「その見立てはもはや恐怖まであるな…。まぁいい、澪。いくらだ?」
「色見て50万円だよ。それもチタンだし」
「ちなみに廉価モデルは5万らしいぞ。素材がプラスチックとか樹脂になるけど」
「いや、これでいい。現金はないからカードで」
「ほーい。レジまで来てね。夜斗のそれはもう貰ってるから大丈夫だよ」
「ああ」「ういよ」
夜斗がショップから出ていくのを横目に夜暮は澪に続いてレジに向かう
取り出したるカードは黒光りしていた
「ブラックカードなんだね」
「ああ。病院での収入がそれなりにあるし、経営権も多少持ってるからな」
「ほえー。ほいほいほいっ、と。暗証番号いれて緑のボタン押してね」
澪が目線を逸らすのとほぼ同時に、目にも止まらぬ早さで暗証番号を入力して緑の確定ボタンを押した夜暮
その手際に驚きつつも処理を進める
「ほい!支払い完了」
「ありがとう」
「……?」
「なんだ、俺の顔になにかついているか?」
夜暮はポケットから取り出したハンカチを手に訊ねる
プッと吹き出して笑う澪に戸惑ってしまった
「あはは、ごめんごめん。夜暮にお礼言われたの、何年ぶりかなって思ってさ」
「…まぁ確かにな。お前の店で買うことはなかったし、そもそも最後に会ったのは八雲を紹介したときだったか?」
「そうそう。それに、昔からあまり素直にありがとうって言わなかったでしょ?大体は怖い顔で「礼を言う」って感じだったし」
「言われてみれば…」
「ほんと変わったね。そういう意味じゃ舞夜ちゃんに感謝しないと」
そう言って微笑みを浮かべる澪
どうやら夜暮はさらに冷徹だ、というのが澪のイメージらしい
「…そうか」
「まぁむかしの夜暮のことは好きだったけどね。八雲紹介された時点で諦めたし、今の夜暮は昔の私が好きだった夜暮じゃないから」
「そうなのか?」
「うん。私が好きだったのは、あくまで私だけに優しい夜暮だったの。今は、みんなに優しいからさ。ちょっと寂しくは思うけど、私にも夜暮にも家庭があるわけだし」
澪が夜暮に未練を持っているかと聞かれればそれは違うとお互いに断言することだろう
夜暮も、澪の性格は理解しているつもりだ
諦めたと本人が言うのなら、そこで涙を流そうがなんだろうが絶対に諦めている
「残念だったね、夜暮。こんなかわいい幼馴染属性逃がすなんて」
「そうかもな。だが、お前は俺で留められる者ではない。それに、舞夜と出会うまでは恋愛などバグだと思っていたからな。そういう点ではある意味よかったかもしれん」
「そうだね〜。私も、夜暮を諦めて八雲といるうちに愛して愛される方が私の性格にあってることがわかったし、よかったかも」
そう言って笑う澪の目に憂いはない
遠目に見る夜斗も、そう感じていた
夜斗の目は人の感情を色にして捉える
その「眼」はまだ衰えていないのだ(本人談)
「ま、ともかく指輪を買うことになればお前の店にくるだろう」
「先に電話してくれれば指輪系の店舗にいるようにするよ。好きなだけ付き合ってあげる」
「了解した。そのときは、事前予約してから行こう」
そう言って店を出る夜暮
待ちくたびれて飲み物を買いにいった夜斗たちが戻り、車へと向かう最中
「澪の想いに気づけてよかったな」
「…知っていたのか」
「当然だろ。俺の「眼」は誤魔化せない。けど俺から言うのも勿体ないし、本人が諦めるって言ってたからな。さっきも、色を見てた限り全く未練はなかった」
全てを見破るその「眼」に驚きつつも感服する
自分は全く知らないことさえ、夜斗は知っているのだから
それは人の感情にとどまらず、あらゆる知識においても夜斗を超えることはできないと理解していた
「さすがだな、我が従弟よ」
「お褒めにいただき光栄ですよ、っと」
後ろから見守る弥生がクスッと笑い、夜斗の腕に絡みついた
今度は夜暮が温かく見守ることになり、最近では珍しくなくなった微笑みを浮かべるのだった
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