第16話
「ということがあったんだ」
「…お前正気か?」
「…正気ではない、と断言しておく。さすが夜斗の従兄だけある」
「酷いなお前ら。俺は客だぞ」
目の前に出された紅茶を手に文句を言う夜暮
夜斗と弥生が呆れたような顔で夜暮を見ている
「客っつか押しかけていただけだろ」
「ほんと、夜斗の周りはこういう人ばかり。退屈しないけど」
「む…緋月と八城のことか」
「うん。あの2人、くるときは本当に唐突だから。時間も意味の分からない時間にくるし」
そう言って夜斗の前にも紅茶をおき、当然のように夜斗の隣へと座る
ここは夜斗の家だ。席の配置は彼らが決めること
「…いつもその位置なのか」
「「なにか問題でも?」」
「アッイエナンデモ」
2人からの圧に耐えかねて強気な姿勢が弱まる夜暮
「そもそもな、夜暮。それは告白とは言わない」
「む…?」
「それは感情の押し付け。答えを聞いてないなら、なおさらのこと。私と夜斗みたいに、通じ合ってるならともかく貴方たちは言葉にしないと伝わらない」
「それはそうだが…」
少し項垂れる夜暮だったが、すぐに持ち直した
「し、しかし断られたわけでもない」
「いや断る選択肢ねぇだろ。刑なんだから」
「そもそも、強制婚姻は離婚できない。上辺だけでも好きだと嘯けばいいだけで貴方は手のひらで踊らされる」
「うぐ…痛いところを…」
今まで人を好きになったことも、好かれたこともない夜暮
結婚して自分の感情に気づいた今有頂天になるのは夜斗にも弥生にも理解できる
実際この2人も、結婚してからのイチャイチャが凄まじい
「そもそも放っておいたって責められてなんでここに一人できてんだよ」
「それは単純明快。俺が舞夜を人目に触れさせたくなかったからだ。本人に説明したら真っ赤になって怒っていたが、最終的には理解された」
((…相思相愛パターン)かよ)
夜斗と弥生の考えが一致し、顔を見合わせて苦笑した
その様子を見ても夜暮にはなんのことかわからない
「…なんだ」
「いーや。そんなんなら、正式に指輪でも買ってやれよ。ただし、結婚指輪は給料3ヶ月分じゃないらしいぞ」
「そうなのか!?」
「…似たもの親族」
夜斗はかつて弥生との結婚指輪を買った際、給料3ヶ月分だと思いこんでかなり高いのを買っている
夜暮もその手の思考の人間だったようだ
「ま、指輪くらい2人で選んでこい」
そう言って笑う夜斗の左手に黒く輝く時計
これは弥生が夜斗に買ったもので、文学的な意味がある
「そうするか…。次の休みに連れて行こう」
「その前にちゃんとプロポーズしとけよ。俺はやったんだから」
「同調圧力をかけるな。するつもりだが」
「…本当に似たもの親族」
弥生が呆れの視線を送る中、夜暮が身を乗り出した
「そこで相談だ」
「おう」
「プロポーズとは、どうやるものなんだ」
「…どう、って人生に一回しかないイベントだからな。人それぞれだろ」
「私たちのときは…」
ここから長い惚気話が始まったため割愛
「という感じ」
「…甘すぎてスクラロースかと思ったぞ」
「それはどう評価されたの?」
「ま、まぁ指輪が定石か。婚約指輪、という形になるのか」
「婚約指輪ってか結婚してるだろ既に」
「ああそうか。なら結婚指輪か?だがその指輪は2人で選びたいところだ」
「そこだけ夜斗より常識人」
実際女性は結婚指輪を一緒に選びたいという人が多い
弥生は夜斗が選んだものならなんでもいいというタイプのため気にしていないが
「あー…弥生、なんかそういう意味を持つアクセサリー知らんか?」
「何個か知ってる。時計は【あなたと同じ時を刻みたい】だし、ネックレスは【あなたを束縛したい】という意味がある。また、ブレスレットは【あなたは大切な人です】という意味になる」
「よく知ってんな…。で、夜暮はなんかピンときたか?」
「全部だ」
「吹っ切れたなこいつ…」
ほんの少し前までは「結婚に意味はない」とかほざいていたというのに自分の感情を認識した今敵なしのようだ
「なら、小手調べでブレスレットがおすすめ。大切な人という言葉にも、重複する意味があるから。もし向こうが黒淵弟を愛してなくても、そういう意味じゃないとごまかせる」
「また刺さった…。まぁ、ならブレスレットだな。よし夜斗、車を出せ」
「俺の車はねぇよ。弥生の運転になるぞ」
「私は構わないけど」
「頼む」
「了解。準備するから15分待って」
弥生が自室に戻るのを見送り、夜暮が夜斗に聴きたいことを聞いてみた
「今の会話、どこまで短縮できる?」
「車の下りか?一往復で終わる」
「どうなるんだ?」
「俺が「弥生」って呼べば「準備する」って返ってくるぞ」
「そこまでくるとエスパーだな」
弥生が支度を終わらせるまでにはぴったり15分かかった
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