第13話
舞夜は夜の公園でブランコに乗りながら足をぶらぶらさせていた
結婚記念日から3日ほど経過し、夜暮が当直対応で不在
そうなると舞夜はかなり暇になり、こうして遊びに出ることもある
(…視線を感じる。もしかして、誰かが近くに…?)
ふと思い立ったのは、夜暮が忠告してきたこと
それは、「深夜を利用して人を殺す輩がいるかもしれない」ということ
つまり踏切の音が聞こえないここなら大丈夫…なはずなのだ
(…待って。違う。踏切の音は、あくまできっかけにすぎない。深夜は、起きた直後に写真を見なければ人を殺したりしない。つまり今悪意のある人が近くにきたら――)
その思考を最後に、舞夜は気を失った
一方、当直対応が終わり白衣を脱いだ夜暮
夜暮の病院は夜間を一人で耐えるわけではなく、4人の医師で時間を決めて行う
夜暮の場合、日勤からそのまま夜勤に入るため1番早い17時から22時までのシフトだ
2番目は22時から3時、3番目は3時から8時となり、4番目は17時から翌8時まで常に仮眠室で待機している
一番人気なのは4番目で、これは残業代が15時間分も付与される上に呼ばれることも少ないことに起因する
(電話、か…そんな気分ではないが…夜斗?)
『ようやく出たか。今どこにいる?』
「病院を出たところだ。当直だったからな」
『そーか、なら話は早いな』
病院を出て目の前のロータリーに止められた車に乗っていたのは夜斗だった
「…なんだ」
「説明は後だ。乗れ」
「急ぐぞ。俺運転しないけど」
後部座席に乗っていたのは夜暮の友人である
夜斗にとっては幼馴染であり元担任教師だ
「…なんだってんだ」
「八城説明よろしく。俺は霊斗に連絡して先に向かわせる」
どこかへ…というか今言ったように霊斗に連絡しているのだろう
夜斗がハンズフリーイヤホンで電話をしながら運転する中、後部座席で八城に問いかける
「何があった?」
「すっごい簡単に言うと緊急事態」
「簡単すぎる」
「舞夜さんが何者かに襲われた。睡眠ガスで眠らされ、起きたら暴走が始まっていたんだ。向かう先は北だから多分八雲のとこだ」
「八雲の…まさかインプットされたのか!?」
思わず叫び声を上げ、すぐに謝る夜暮
耳を劈かれた八城が頭を振って立ち直った
「多分な。不審者が手にしていた機械はMP3プレイヤーだったらしいから、おそらくインプットが使えるのを知っているんだ。さすがにインプットされた人の顔までは見えなかったが、方角とお前の関係者っていう条件なら八雲しかいない」
「そんな…だから外に出るときは気をつけろとあれほど…!」
「舞夜さんに怒るのは筋違いだ。だが、これで犯人は絞り込めた。とりあえず今から夜斗と緋月を使って深夜ちゃんを鎮圧する」
「鎮圧…って殺す気か」
凍てつくような視線を2人に向ける夜暮
その視線は普通の人であれば屈するほど圧が強いがこの2人は既に慣れてしまっている
「殺しはしねぇよ。ただ、動きを止めて鎮静剤を打ち込むだけだ」
「鎮静剤はもう俺が試して効果がないことはわかっている。医学的に無理だ」
夜暮はかつて実験を繰り返していた頃、試しにと写真を見せたあとに鎮静剤を使ってみた
しかし鎮静剤は効果を発揮せず、マネキンを破壊するまで深夜は止まらなかったのだ
「ちょっと洶者に頼んで作らせた特殊なやつだから多分効くはずだ。とにかく、八城と夜暮はこれを」
夜斗が後部座席に投げたのは、1つの拳銃と注射器だ
注射器は夜暮が受け取り、銃は八城が手に取った
「黒桜探偵社実働部隊冬風夜斗の権限に基づき、月宮八城及び黒淵夜暮を臨時で部隊員として登録する。もし、俺が鎮圧に失敗したら撃て。殺しても仕方のない」
「わかった」
「結局殺すのか」
「この俺と霊斗がミスするわけないだろ。あくまで保険だ。そして俺が鎮圧したら夜暮は鎮静剤を静脈注射しろ」
「静脈注射…かなり久々にやるな」
「自信がないなら探偵社に連絡して衛生班を呼ぶ」
「いや、俺がやる。やらせてくれ」
「そうこなくちゃな」
と強がったはいいが、静脈注射なんて現場でやったことは数回しかない
医者になってから心療内科で人に触れないよう仕事をしてきたため、血管を探すのすら久しぶりだ
(…衰えていてくれるなよ、俺の腕よ)
そんなことを考える夜暮を横目に、夜斗は車をとある公園の前に止めた
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