第12話
翌月、結婚2ヶ月の記念日
夜暮は帰り道に見つけたケーキ屋に立ち寄っていた
(こんなところにケーキ屋か。気づかなかったな)
今日はたまたま別の道から帰ろうという気まぐれを起こしたに過ぎない
その結果、夜暮の目の前に現れたのがこのケーキ屋だ
(そういえば今日は結婚記念日というやつか。ケーキでも買って帰るかな)
小さめのホールケーキを頼み、結婚記念日であることを伝えてチョコの板にソレを書いてもらう
数分で準備が終わり、カードで支払って店の外に出た
「ふむ…。中々いい値段したな」
トータルで7000円程度だったが、節約生活を送る夜暮にとっての7000円は大きい
今では夜暮も月に1万円ほど自分に小遣いを与え、残りは貯金に回しているのだ
その一万円を使い切るなんてことは滅多にないため、多少小遣いの貯蓄はあるがこれを自分だけのため以外に使うとは思わなかった
(心境の変化と言い切るのは簡単なのだがな)
手に持つ箱にはドライアイスが少し入れられている
とはいえここからまっすぐ帰れば徒歩10分程度なのだが、ないよりはあったほうがいいだろう
「ただいま」
「おかえり〜」
いつものように夕飯を作っていたのか、キッチンからパタパタと駆け寄ってくる舞夜
夜暮の両手にある荷物を手にとり、不思議そうに箱を眺めた
「なに?これ」
「ま、まぁ…一応結婚記念日ではある、からな。日だけでも、多少祝い事のつもりだ。今後毎月やるわけにはいかんが、たまにはな」
「へぇ〜?覚えてたんだね」
「日にちはな。月もさして前ではないことだし覚えている」
今日は3月10日で本当にぴったり2ヶ月が経過したところだ
「来年には月を忘れている可能性はあるがな」
「覚えといてよ。私が釈放された翌日だから」
「その言い方されると忘れがたくなるな…」
ふと鳴り響いた電話を取るため、部屋の奥へ行きベランダに出た夜暮
着信者の名前を見て大きくため息をついた
「
『暇っちゃ暇だなぁ。ともかく結婚おめでとう!』
「ああ…お互いにな」
電話相手は夜暮が高校生のときにできた友人だ
親族やその関係者を除けば3人しかいない話し相手の1人でもある
「
『ダイレクト殺人予告!?』
「当然だ」
夜暮が八雲に幼馴染である澪を紹介したことで付き合い出したのがきっかけだ
しかしそれ以上の干渉は一切しなかったため、結婚するに至ったのは本人たちの気持ちと努力の賜物ということになる
『で、なんのようだ?』
「俺のセリフだなそれ。かけてきたのお前だろう」
『そうだっけな。いやお前のことだし、昔のこと気にしてんのかなって』
「…気にするなという方が無理な話だ。今でも、あいつのことは殺したいほど憎んでいる。だが最も憎むべきなのは、あいつを信用した俺自身だ」
あいつというのは夜暮が夜斗と美月の関係性を教えた男のことだ
夜斗にはその男の名前は伝えていない。何故なら伝えれば、今いる友人を切る可能性がある
「
『ははっ。それに関しては同意だ。けど、お前の妻だって傍から見れば同じなんだぜ?』
「それは…そうだな」
『本人特有の事情があったのかもしれないだろ?まぁ今となってはどうでもいいんだけどな』
八雲は夜暮のように冷めた男ではない
かといって、自分に害がなければいいというほど楽観主義でもない
敵は全て潰す、というのが彼のやり方だ
しかしそんな彼が動かないということは、少なくとも八雲に敵対はしていない
「…つまり、もしあいつがお前や澪に害を与えようとすれば…」
『ははっ。そんな度胸があるとは思えないけど、そんときは持つ力を使って潰すさ。今の俺は、あの時より強い』
そう言って口先で笑う八雲の声は笑っていない
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