第11話
その日、通話がおわった直後
夜暮の兄の家にて
「終わったのか?
「えぇ、終わりましたよ」
回転椅子を回して夜斗に向き直った夜暮の兄――冥賀がメガネを指で押し上げた
そこにいたのは、天音にマウントを取られて動けなくなった夜斗だ
「…何しているんですか?」
「俺が聞きたい。引き剥がしてくれ、マジで」
「嫌です。その状態の天音はテコでも動かないので」
「よく知ってんな…っと!」
「うわぁ!?」
力ずくで押し退けられた天音が床に転がる
押し退けた夜斗は砂埃を払うように服を叩き、崩れた服を直す
「ったく…。夜暮はまだ覚えてんのか?」
「ああ、あの一件ですか。覚えているでしょうね」
冥賀が言う一件というのは、夜斗の身に起きた事故のことだ
かつて夜斗はクラスメイトに刺され、それを助けようとした仲のいい女の子を見殺しにしている
「とはいえあの頃の夜暮はまだ中学生…。少し幼くても仕方のないことですがね」
「それでも本人はそう思わないってことだろ」
「なにかあるの?私その話霊くんから微妙にしか聞いてないんだよね」
天音が言う霊くんというのは夜斗の親友である緋月
少し前にオカルトな事件に巻き込まれ、その顛末は天音に共有されているのだがそれ以上のことは知らない
「端的に言うと、俺と
「端的すぎるかなぁ。もっと細かく」
「…夜暮が信用して「広めるな」と言って友人に話したんだ。それが夜暮の同級生の中で広まり、その弟や妹を経由して俺の学年でも広まった」
美月は学校中どころか、その地域全体で可愛いと持て囃されていた
そして仲がいい男がいるという話もあり、その人物を探す人が多かったのだ
夜暮は当時の夜斗や美月と過ごすことがあり、仲がいいことを知っていた
「それで、今のあの人は人を信じなくなったんだね」
「信用した人に裏切られるってのはそれだけ辛いことなんだろ。それ以来夜暮は人と話さなくなり、それでも話しかけてきた人だけを信じるようになった。けどまぁ、あしらわれたらほとんどの人は夜暮に話しかけなくなるからな。友達は減っていった」
夜暮がそれを同級生に広め、同級生が夜斗の学年の弟に伝えた結果小学校全体に広まってしまった
そしてその仲がいいという事実は強い嫉妬を生み出し、夜斗は背後からナイフで刺されて死にかけたのだ
さらに、刺されて倒れた夜斗から離れず声をかけ続けた美月は通りすがりの車に撥ねられて最終的に死亡している
「罪悪感かぁ。私に対して持ってないの?夜斗」
「ないな。霊斗のことを言いたいのかもしれんが、今冥賀に引き合わせてやったんだから感謝してほしいくらいだ」
「別に夜斗何もしてないよね!?なんならあのとき私を無視して弥生ちゃんに駆け寄ってたし!」
「無論だ。まず駆け寄るのは妻に決まってる」
そんな言い争いを温かい目で見守る冥賀がふと外を見た
静かな夜で、風一つ吹かない
街中だというのに星空が見えるほど透き通った空が見える
「静かですね」
「…そうだな」
「そうだね」
「嵐の前は静かだと言いますが、この静けさはどちらでしょうか」
冥賀の考えは懸念で終わるのか、それとも
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