第6話

その日の夜

夜暮お手製の機械から放たれた音が殺人鬼――深夜を起こした

目をこすり欠伸をする可愛らしい仕草からは想像できないほどの人を殺している


「起きたか、深夜」

「えぇ、起きたわ。久しぶりね」

「そうでもないがな。7日程度しか空いていない」

「そうだったかしら。で、今日はなに?」

「確認したいことがある。お前は起きてすぐに見た写真の人物を殺すと言ったな」

「えぇ、そうよ。起きてから数秒経つと見ても衝動が起きなくなるわ」


口調も何もかもが舞夜と真逆といっても過言ではない

深夜は元々、ただ強気な少女だったという

それがどうして殺人衝動を引き起こすのかは未だ本人にもわからない


「つまり、お前に写真を見せた者がいる」

「そうね。黒いフードで顔を隠していたけど、体格と声から察するに20代くらいかしら。歩くときの重心から、右側になにか重量物を持ってるわ。けど引きずってはいないから片手で軽々持てる程度の重さね」

「よく見ているな。俺のもとに来てからはどうだ?」


今のところ深夜が勝手に外へ出る様子はないため、部屋に侵入されているわけではない

が、近くにはいるかもしれないのだ


「舞夜の中から見てる限り、近くに来てる感じはしないわ。けど舞夜が釈放されたときに、運転していた男が似た雰囲気だった気がするわね」

「…やはりあの警官か。証明できるか?」

「私が証言台に立つのは現実的とは言えないわよね。映像は残してないから証明は難しいわ」


そう言いながら長い髪を指に巻くようにして手遊びを始める深夜

その様子を見ることなく手元のタブレット端末にメモ書きを残す


「他に特徴は?」

「ないわね。ただ、私が見た写真は全部記憶してるわ。貴方もデータとして持ってるでしょ?」

「いくつかは持ってる」

「あの男が私に写真を見せる時、決まって聞いてもいない理由を話すのよ。で、何となくわかったことがあるわ」


深夜が暗い部屋で仄かに赤く光る目を夜暮に向けた

不思議とその双眸に引かれ、目を向ける


「あれは、ただの私怨よ。元恋人や弟、そして今の恋人の兄。犠牲者はみんな、あの警官に縁があるわ。そして私に…というか、舞夜に罪を着せて手柄を取りつつ疑いの目を向けさせないようにしてるのよ」

「…なるほどな。その線で探させれば、もしかすれば…」

「やめたほうがいいわ。あの男、警視総監の息子だから。今までも事件を揉み消してもらってるとか自慢げに言ってたわよ」


聞けば、何度か対象の設定を失敗したことがありその時に自慢げに話していたという

交通事故から薬物まで全て隠し通しているらしい


「…警察は頼れないということか」

「そうよ。だから、罪を暴こうとするのはやめなさい。貴方は、舞夜がようやく見つけた微かな希望なのよ。失わせる訳にはいかない」


深夜の視線は真剣そのものだ

本気で主人格である舞夜を想い、夜暮の身を案じている


「それは無理だ」

「納得のいく説明をしてくれるのかしら」

「いいだろう。その男を放置すれば、いずれ俺を殺す可能性がある。果ては夜斗…俺の従弟や兄貴すら巻き込むだろう。そうなる前に消さなくてはならん」

「…理屈はわかるわ。けど、されるとも限らないでしょ」

「リスクは減らすに越したことはない。俺は、俺の大切な人を殺させる訳にはいかない。お前たち実験体も含めてな」


そう言ってタブレット端末をスリープモードにして深夜を見る

暗闇でもわかるほど露骨に顔を赤らめて、両手でその顔を隠していた


「…おい」

「わ、わかってるわよ!?別に私たちを好きでそういうキザなセリフ言ってるわけじゃないものね!けど女の子は単純なのよ気をつけなさい!」

「…わかっているならいいが、単純だとわかってるなら直せ」

「…っ!もう知らない!」

「あ、おい!…寝たか。まぁいい」


女心は秋の空

夜暮に秋の空を理解できる日はくるのだろうか

当の本人は、今知り得た情報をメールで夜斗に送り、自室へ戻って眠りについた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る