第4話

静岡県、田舎とも都会とも言えない場所にある、某企業が営む大型ショッピングセンターにて

夜暮の隣を歩く舞夜は、夜暮の顔を見ていた

正確には顔色を窺っているのだ


(…読めない。言葉は冷たいけど、なにか…なにかあるはずなのに…)

「俺の顔になにかついているか?」

「ううん。笑わないなって」

「いつ寝首をかかれるかわからんからな」

「そんなことしないよ、私は」

「お前はそうだろうな」


女性服が羅列された店に入り、舞夜に合う服をいくつか選ぶ夜暮

それを最終的に決めるのは舞夜だ


「夜暮さんの趣味じゃなくていいの?」

「構わん。俺の趣味だと永遠に患者の服になるが」

「おっけー自分で選ぶ」

「それと、さん付けする必要はない。呼び捨てておけ」

「んー…了解」


少し迷ったが、すぐに思い直して理解した旨を伝える

そこから会計までは口を開かない夜暮を少し不服に思いながらも買い物を済ませた


数時間で3件の店をハシゴした結果、目的のものが全て揃った

夜暮は金に糸目をつけず、舞夜が見つめたものは全て買ってしまい車に乗せてしまう


「…なんでこんなに良くしてくれるの?」

「曲がりなりにも妻だからな。多少いい暮らしはさせてやる。が、俺の実験につきあわせる」

「最後がなければなぁ…」

「そもそも実験がなきゃ拒否してるがな」


そうして買ったものを家に搬入し、組み立てること2時間

シングルベッドに乗せられたお高いマットレス

そのベッドの上を覆うようにして物置が設置されている

ベッドの隣にはパソコンデスクが置かれ、クローゼットの中には所狭しと服が詰め込まれた


「足りないものがあれば言え。通販で揃える」

「今のところは思いつかないかな」

「ならいい。ひとまず、風呂に入ることだ。連れ回したのは俺だが、汗をかいたことだろうしな」


その言葉を鵜呑みにして舞夜が風呂へ向かう

バスタオルは脱衣所に積み重ねてあるため見ればわかるだろうと気にせず、またベランダに出た


「俺だ」

『…暇かよ。こちとら今から弥生やよいと風呂入る直前なんだが』

「少し話すことがある。数分寄越せ」

『いいぜ。なんだよ』

「舞夜には戸籍上妹がいるらしい。現在の様子を確認してほしいんだ」

『なんだ、興味持ったのか』

「…お前の話を深く考えた。警官が証拠を隠滅して起訴したという話だ」

『それがなんだよ』


含みのある声を放つ夜斗

どうやら夜暮が言いたいことを理解しているようだ


「舞夜の妹は、その警官になにかされた恐れがある」

『ま、そうなるわな。仮に警官がその…舞夜だっけ?その子の妹を誘拐したとすれば、ちと辻褄が合うとこもある』


姉を殺人鬼に仕立て上げることで嫌悪感を抱かせ、家出させる

それに伴い必要だからと保護したふりをして囲うのは可能だ

ぶっ飛んだ思考であることは確かだが、かつてそういう事件があった


「舞う桜と書く名前らしい。調べられるか」

『お茶の子さいさいだ。ついでに、その警官のことも調べさせる』

「頼む。判明次第、捕獲できるか」

『もちろん。それどころか、こっちで始末できるぜ?』


夜斗が務める探偵社は警察より上位の権限を有しており、いざとなれば犯人をその場で殺せる

それをすればかなり安易に解決する事件もあるのだが


「…それは、その時考える。とにかく時間をかけてもいいから探し出してくれ」

『あいよ。とはいえ今の俺は教師だから、担当するのは別のやつだけどな』


夜斗は現在、県からの依頼で教師を兼務している

兼務とは言え教師の仕事が忙しく探偵はやるヒマがないため、ほとんど同僚任せだ


「それは仕方がないことだ。任せる」

『おう。結婚式やるのか?』

「舞夜が望めばな。やるとしても、親族しか呼ばん」

『霊斗は呼んでやれよ』

「…あれは実質親族だ」

『ならいいさ』


笑う夜斗の意図を感じて少しイラッとする夜暮

普段人を信用することがない夜暮が、唯一血縁以外で認めているのが霊斗という人物だ

夜斗の友人でしかないのだが、ソレ故に興味を持ったのがきっかけになる


「…舞夜の妹、か。まだ生きていればいいがな」


寒空に耐えきれず部屋に戻り、タオルを巻いただけの姿で部屋をうろつく舞夜にため息を付いた

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