第2話
2023年12月16日午前6時、舞夜が起床した
と同時に他の囚人たちが起きたらしく、少し騒がしくなってきた
「1285番、出ろ」
昨日とは別の看守が舞夜を呼び、鉄格子の鍵を開けた
そして手につけられた手錠へと縄をつなぎ先を歩く
(この手錠も、見納め…?)
更衣室に連れて行かれて服を渡された
事前の予告通り、灰色のパーカーと黒いスカート
そして黒いニーソックスが手の中にあり、更衣室の中には白い下着が1セットと白い厚底スニーカーが置かれている
(…なんか、おかしな趣味…)
クスッと笑い、看守に急かされて着替え始める
着ていた囚人服を脱いでカゴに放り込み、白い下着を身に着けてスカートを履く
パーカーの中に着る白いブラウスを広げて体に合わせ、サイズが間違いないことを確認しながら全てを装着した
そして服を着てニーソックスを履き、靴に足を通した舞夜が外に出て看守に訊ねる
「…どう?」
「…看守という立場じゃなきゃナンパしてたかも」
「そう…」
ジト目を向ける舞夜から目を逸らしながら、再度手錠をかける看守
そのまま外に連れて行かれ、警察に引き渡された
とはいえ乗っているのは黒い覆面パトカーで、パッと見は護送とは気づかないだろう
「また会ったね」
「…!あのときの…」
「おっと、そんな殺意を向けないでくれよ。殺人鬼に目をつけられたくはないんだ」
「…左手の、結婚指輪?」
「っ…!よ、よく見てるね」
「…普通に見える。あまり、喋らない方がいい。私は、殺人鬼じゃない。けど、ね?」
言わなくてもわかるでしょ?とでも言いたげな舞夜
実際殺す気などさらさらないのだが、こうして罪人を嘲笑う人間を黙らせることができるのは知っている
特に、この男は舞夜を捕らえて殺人をでっちあげた張本人
舞夜が感じる怒りも桁違いだ
しかし今更気にしても仕方のないことだ。いつか暴かれると信じるしかない
(…でも絶対地獄に落とす)
(ま、また殺気!?なんで俺この役受けたんだろう!?)
後の時間は双方全く喋らず、舞夜は道を覚えることに必死で、運転する警察は殺気に耐えることに必死だ
そしてそんな中、街中に現れたタワーマンションに到着して下ろされた
「ここの最上階だ。金持ちだけど好事家だって話だから、気に入られればマトモに生活させてもらえるかもね」
「…じゃあ、またね」
ビクッと震える男性警官を放置してエントランスに入る
そしてオートロックに備え付けられたインターホンで今言われた部屋を呼び出す
『…誰だ?』
「…私は舞夜」
『ああ…強制婚姻のやつか。エントランスをあける。エレベーターで上がってこい』
ピッと音がなり、エントランスの自動ドアが開く
おっかなびっくりな様子で中に入り、管理人の視線から逃げるようにしてエレベーターに向かった
そして最上階に上がり、左側の家の前に立つ
「…チャイム鳴らせよ」
「あ…」
「まぁいい、入れ」
中から出てきた若い男に招き入れられて部屋に入り、靴を脱いで奥へ進む
広いリビングダイニングには何も置かれていない
2つある部屋のうち片方から出してきた折りたたみのテーブルを広げる男
「
「…東雲舞夜、です」
「楽にしておけ。どうせ、俺もお前も逃れる術を持たん」
「…強制婚姻の選定基準がわからない」
「…簡単に説明してやる。基本的にニートが選定されるが、稀に俺みたいな跡継ぎを作る必要がありながら恋人がいないやつも対象になることがあるんだ」
キッチンから持ってきたパックの紅茶を入れて差し出す夜暮
ソレを手に取り匂いをかぎ、違和感がないことを確認してから口をつけた
「一応後者の場合拒否権がある。まぁ今回は親父からの圧力に屈したふりをした」
「…ふり?」
「ああ。お前の病名は解離性同一性障害。簡潔に言えば多重人格だな。俺の専門だから、俺が持つ対処法が通じるのか試そうと思った」
「…実験体?」
「ああ。まぁ従弟の力を借りつつ、お前の裏を殺すのが目的だ」
そこまで聞いてようやく理解した
舞夜が持つ、「自分は夜寝ている」という認識は正しい。しかし、舞夜が寝ていることと体が寝ていることは別
他に人格がいて、そっちが人を殺していたのなら辻褄が合う
「…好きにして。跡継ぎも、私が産めばいいんでしょ?」
「実験が終わったらな。最近紫電病患者の研究も一段落したし、多重人格の治療に注力できる」
紫電病というものは脳から発される生体電気信号が高圧になってしまうという病気だ
夜暮は先週末、担当していた紫電病患者が息を引き取ったばかりで悪く言えば暇を持て余している
「治療…?」
「厳密に言えば違うがな。どちらかといえば、周囲の人間にとって都合がいいように人格を消す。特にお前のような、裏側が殺人鬼なんてのは周りにとっては都合が悪すぎる」
「…だから、私を貴方に…?」
「お国の上がそこまで高尚な頭脳を持っているのなら、刑務所で処置をさせればいいだけのことだ。わざわざ俺の妻にする必要はない」
夜暮は冷たく言いながら鳴り出した折りたたみ式のガラホを手にベランダに出た
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