殺人姫の嫁ぎ先
さむがりなひと
第1話
「判決を下す!」
目の前の男がよく通る声で告げる
身に覚えのない深夜の大量殺人事件
これの犯人に仕立て上げられた少女が、全身を拘束された状態で判決を聞いていた
(…なんで、私が…)
「主文!被告、
(……なんて?)
傍聴席から聞こえる哀れみの声から、ろくでもない刑であることは間違いないだろう
たしかに今聞こえた単語が裁判長から発せられたという事実は謎が多い
「くっ…申し訳ありません、力及ばず…」
(…正直、なんなのか…)
弁護士が悔しげな声をあげる中、少女――舞夜は検察の男に連れられて裁判所を出た
独房に戻され、拘束が解かれた舞夜は体の動きを確認する
長時間に渡る拘束の結果、後遺症が出てしまうのも珍しい話ではない
数時間後
「1285番、出ろ」
「…?はい」
オレンジ色の服を着たまま連れて行かれたのは面会室
ガラス越しに顔を合わせたのは先程の弁護士だ
「弁護士さん…」
「申し訳ありません…無罪とまでいかずとも、刑が軽くなればよかったのに…」
「あの…強制婚姻、って…?」
「ご存知ないのですか!?こ、こほん…」
突然の叫び声に耳を貫かれた看守が弁護士を睨みつけた
それに気づきわざとらしく咳払いした弁護士が説明を始める
「強制婚姻というものは、今まで結婚したことがない独身の異性と無理やり結婚させるというものです」
「…重いの?」
「一概に全て重いとはなんとも…。ただ、無差別連続大量殺人の刑罰としては最も重いかと思います」
「…一見、自由だけど…」
ただ結婚させられるだけならやりようはある
要するに逃げ出せばいいだけのことだ
「…お相手の方に居場所を常に監視され、金銭面は全く幇助されないというのが一般的なのです。大抵、相手はニートですから…。それに、強制婚姻刑を受けた夫婦は生活保護を受けらず、離婚もできないため、大抵生活費を稼ぐのは刑を受けた側です」
「ふーん…。別に、いいけど」
元々目的のない人生を生きていた
今更失うものはなにもない
むしろ、その生活のために生きるのもある意味良いことなのかもしれない
殺人冤罪で死刑になるよりはよっぽど
「…生活費については、しばらく国から援助が出ますが…それまでに仕事を探してください。もし罪のせいで見つからないのなら、僕が紹介します」
「…考えとく。ありがとう、先生」
作られた完璧な笑顔を弁護士に向ける舞夜
そこで面会時間が終わり、舞夜は面会室を後にした
「1285番。お前は明日、警察による送迎で相手方の家に行く。服は相手の趣味で決まり、今回はパーカーにスカートとニーソックスだ。明日通常通りに起床し、更衣室にて着替えて迎えを待つ」
「…了解。ありがとう、看守」
「……辛いこともあるだろうが、折れないで生きることだ。それこそが贖罪になるのだから」
「…うん。もう、会わないといいね」
「ああ。もう会わないことを祈ってる」
看守が立ち去る音を聞いて小さくため息をつく
鉄格子を握る手が悴むのも気にせず、唇を噛んだ
(…殺しなんて、できないのに…)
アリバイが全くないため証明はできなかった
逆に、犯行現場近くで舞夜によく似た少女が刀を手に歩いているのが目撃されている
しかしその時間は確実に寝ているはずなのだ
(…深夜3時なんて、私…深い眠りについてる、のに…)
鉄格子から離れて部屋の奥に置かれた質素なベッドへ横になる
仰向けになったときに見えるこの天井にも慣れてしまった
(…まぁ、しょうがない…。証明、できないし…)
起訴されている以上、ほぼ確実に証拠が揃っているということになる
それを覆すのはほとんど無理と言っていい
(…おやすみ)
誰に言うでもなく、そう心の中で呟いた
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