第14話 サプライズ・プレゼント
「ええ、そうね。じゃあ、中に入りましょうか。食材は、何かあるのかしら」
「食品庫に色々入ってるよ。ご主人様は食べ物に無頓着だから、その辺の固いパンとかお菓子とか出して来て、よく一人で
「分かったわ。教えてくれてありがとう、ニコ」
魔術師のあの汚い部屋を思い出す。彼は確かに、食べ物にこだわりなど無さそうだ。
私達は、雌鶏二羽が産んだ卵を二つもらって、裏口から屋敷に入る。食品庫で見つけた丸い胚芽パンとリンゴも持って、キッチンに行った。薄暗いキッチンには、なんだか怪しい液体がこびりついた大きな鍋(何かの実験にでも使っていそうだ)、大きなヤカン、鉄のフライパンが置いてあった。調理台には小さなナイフも転がっている。だが、なんというか、あの汚い部屋同様、どれもこれもが雑然と放り出してある感じだった。掃除もあまりされておらず、あちこちに蜘蛛の巣も張っている。フロガーが、調理台の上に飛び降りて言った。
「相変わらずチンケな台所だな。土手の俺んちのが、よっぽど綺麗だぜ」
「ご主人様は忙しいからしょうがないよ。……ねえ、クレア、それで足りる? ここには週に二回、ご主人様が町で注文した食品が届くんだけど、今日配達の分は昼前にくるから、今はあんまり物がないと思うよ」
私は、ひとまずお昼頃には何か届くことに心底ほっとしながら、頷いた。
「大丈夫よ。朝は、パンとリンゴを切って、卵を焼いて食べましょう。さっき採ったカモミールでお茶も淹れてね。あなた達も、それでいいかしら?」
「うん! ボク、人間と同じもの、大体食べられるから」
尻尾を揺らして目を輝かせるニコと対称的に、フロガーはフッと笑った。
「俺はそこの蜘蛛食うから、気にしないでいいぜ。ありがとな、クレア」
格好つけたフロガーが、調理台の下を這っていた蜘蛛を指さすので、私は首を振った。
「……フロガーの食事風景は、あまり私に見せないで欲しいわ」
私とニコは、カモミールティーを飲み、パンと卵とリンゴで朝食を済ませた。フロガーはキッチンに残り、彼だけの美味しい食事を堪能しているようだ。キッチンよりは綺麗なダイニングには、朝陽が降り注いで気持ちが良かった。私は、今日はひとまず掃除をすることに決め、ニコとフロガーと一緒に作業に取り掛かる。とはいえ、人様の家を勝手に触るのも気が引けるので、彼が帰ってくるまでに主に私達が使いそうな、一階だけだ。
お昼前には町の商人が食品を配達しに来たが、魔術師とそういう取り決めになっているのか、荷物を全て玄関前に置いてさっさと帰ってしまった。受け取りに出る必要が無く、ほっとする。商人が帰った後、玄関に出たニコがはしゃいで言った。
「ねえ、クレア、見て! ご主人様から『可愛いクレアへ』って書いてあるよ!」
「えっ?!」
見ると、荷物の中に、赤いリボンのかかった大きな箱があった。『可愛いクレアへ 辺境の魔術師より』と書かれたメッセージカードが付いている。私はドキドキしながら、箱を持ち上げて言った。
「何かしら。開けてみましょうか」
「うん。早く! 早く!」
嬉しそうに飛び跳ねるニコと、ぴょんぴょん飛んで付いて来るフロガーと共に、ダイニングに入る。丸テーブルの上で箱を開けると、それは大きな、イチゴのケーキだった。
「わあ、すごい! 美味しそう! ねえ、早速食べようよ!」
「ご主人様も、気が利くじゃねえか」
私は、彼の手書きらしきカードをじっと見つめる。嬉しい。こんな風にカードをくれるなんて、父かメアリしかいなかった。私はそのカードを大切にしまいながら言った。
「掃除も一段落したから、お茶にしましょう。フロガーはどうする? ケーキ、食べる?」
「一口、お
私達はそうして、美味しいケーキを食べたり、キッチンの掃除をしたり、裏庭の世話をしたりと、毎日楽しく過ごしていた。そして、あっという間に時は過ぎて行き、魔術師の帰って来ると言った日が、もう明日に迫っていた。
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